第12話 四級ソロ冒険者エルダー

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 第12話 四級ソロ冒険者エルダー

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「野郎ども! オークをぶっ殺して、エルディーヒを守るぞ!」

「「「おおおっ!」」」


 ギルマスの鼓舞で、冒険者たちが武器を掲げ、地面を踏んで大地が揺れるほどの熱気だ。


 エルディーヒの門の前には、冒険者およそ三百人が集まった。


「七級は物資運搬と怪我人の介護だ!」

「「「おおおっ!」」」


「六級は雑魚オークの相手だ!」

「「「おおおっ!」」」


「五級はオークリーダーの相手だ!」

「「「おおおっ!」」」


「四級はオークジェネラルを狙え!」

「「「おおおっ!」」」


「三級と二級はそれぞれの前線指揮を任せるが、オークキングがいたらお前たちで対処しろ!」

「任されたっ!」

「オークキングなんざ、軽く捻ってやるぜ!」

「承知」


 二級パーティー【幻影】、三級パーティー【戦神のほこ】、三級パーティー【ライトニング】が三方向から冒険者を指揮する。

 ダメマスは総指揮のため、後方で待機だ。それが皆のためだな。


 俺は三級パーティー【ライトニング】の指揮下に入った。


 街道を進み、途中から森へ入っていく。

 騎士団は冒険者の後からついてきている。


 モンスターが出てきても、この人数だと苦戦もしない。

 逆にやりすぎるくらいにボコボコにするから、モンスターの素材がもったいないと思えるほどだ。

 だが、こういったことは、冒険者たちの士気を上げるのに必要なので、特に注意されることはない。


「よう」

「なんでしょうか?」


 無精髭を生やした中年の盾持ちが横に並んで、声をかけてきた。

 ずいぶんと使い込まれた装備だ。鎧にも盾にも細かい傷が無数にあるが、手入れはしっかりしているように見える。


「俺は四級ソロのエルダーだ」

「五級ソロのゼイルハルトです」

「この作戦中、俺と組まないか」

「俺、五級ですよ」

「先日の模擬戦を見ていたぞ。あれで五級は詐欺だぜ」


 ソロは一人でなんでもしなければいけない。盾役もアタッカーも斥候もなんでもだ。

 この年齢でずっとソロなら、盾役一辺倒はありえない。攻撃にもそれなりの自信があるはず。


「エルダーさんなら、いくらでも戦いようはあるでしょ」

「今回は乱戦になる。後ろを任せられる奴がほしいんだ」


 言っていることは分からないではない。

 それに俺も背中に目があるわけじゃないからな。


「分かりました。臨時パーティーということで」

「ありがてぇ。短い間だが、よろしく頼むぜ。相棒」

「こちらこそよろしくお願いします」


 エルダーさんと握手をし、それぞれ得意なことや役回りを話し合う。

 もっともあまり細かく決めても臨時パーティーでは限界があるから、最低限のことだけしっかり決めた。


「んじゃ、俺はオークを引きつけることに集中するぜ」


 エルダーさんは戦士で、防御からのカウンターが基本の戦闘スタイルらしい。

 あの鎧や盾の傷痕を見れば、納得の戦い方だ。


「俺はエルダーさんが引きつけたモンスターを確実に倒していきます」


 今回は俺がアタッカーで、エルダーさんが盾役だ。

 エルダーさんが引きつけているオークを俺が魔法で倒していく。

 これでエルダーさんは防御に、俺は攻撃魔法に集中できる。


 オーク集落を取り囲むように、俺たちは展開した。

 二級パーティー【幻影】が正面、三級パーティー【戦神のほこ】が右翼、三級パーティー【ライトニング】に率いられた俺たちは左翼だ。

 正面後方にダメマスの本陣があり、左翼と右翼の後方に騎士団の部隊が展開している。


 シーンと耳が痛くなるほどの静寂。

 俺たちは突入の合図を息を殺して待っている。


「ゼイルハルト」

「はい」

「最初は後方から様子見だ。どうせオークの素材は依頼者の領主のものだから、無理せずだ。いいな」

「了解です」


 静寂のおかげで呟きレベルの音量でもよく聞こえる。

 その直後、トーンッと派手な音が空気を震わせた。


「よし、合図だ! 野郎ども、いけーっ!」

「「「おおおっ!」」」


【ライトニング】のリーダーの号令で、俺たちはオーク集落に突入する。

 俺とエルダーは予定通り冒険者の波の後方からだ。


「露払いは他の奴らがしてくれる。このまま楽に終わってくれればいいんだがな」

「まったくですよ」


 俺は別に戦いたいわけじゃない。

 この壊滅作戦は、領主が依頼した緊急依頼だ。オークの素材は、先程エルダーが言ったように領主のものになる。

 俺たちがどれだけオークを倒しても、その素材は手に入らない。

 代わりに目立った働きをした冒険者には、多めに報酬がある。それも観戦武官(騎士団員)の目に留まらなければいけない。

 だが、その観戦武官は比較的安全な場所にいるため、最前線で目立っても記録されない可能性がある。

 手を抜くわけではないが、無理しても同じ報酬なら無理せずに済ましたいところだ。

 命を懸ける状況は、意識しなくても自然と訪れるものだと、オヤジがよく言っていた。


 冒険者の隙間を縫ってオークが躍り出てきた。

 エルダーが盾でオークの顎をかち上げ、腰くだけになったところで俺がストーンバレットで確実に眉間を撃ち抜く。


「ヒュー。これなら傷が少なくて買取価格も高額になるんじゃないか」

「素材は無駄なく回収し、高額買取してもらえるように仕込まれましたからね」

「へー、誰に仕込まれたんだ?」

「オヤジです」

「オヤジさんも冒険者だったのか?」

「ええ、ソロで四級でした」

「過去形ってことは、もう引退したのか?」

「死にました」

「……すまん」

「いえ、いいんです。それより、オークがきましたよ」

「おうっ!」


 棍棒を盾で受け流すと、オークが体勢を崩した。

 頭がいい具合に見えたところに、ストーンバレット。こめかみを打っち抜いた。


 オヤジも盾を使っていたが、攻撃を受けるのではなくエルダーのように受け流していた。

 オヤジは剣でも盾でも受けるんじゃなく、流せと言っていた。

 流すことで敵が勝手に体勢を崩すし、武器や防具の消耗も防げる。


 エルダーは四級だけあって、オヤジと同じようなことができている。ダブって見えてしまうではないか……。


「どうした?」

「なんでもありません」


 俺たちはオークを倒しながら進んだ。

 エルダーとの共闘は、オヤジと一緒に戦っているようでやりやすかった。


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