第11話 お姫様との密会

 ■■■■■■■■■■

 第11話 お姫様との密会

 ■■■■■■■■■■


 伯爵が二十分ほどスピーチをし、立食パーティーが始まった。なげーよ!


 誰かと話すことのない俺は、ずらりと並んだ料理を端から順に食べていく。酒も飲む。この酒、美味いな。

 楽しくもないパーティーなんだ、食って飲まないとやってられないぜ。

 こういう時に気配を隠す技術が役に立つ。


「ふー。腹がはち切れそうだ」


 しっかり食って飲んだから、そろそろお暇しようかな。サササッ。


「おい、ゼイルハルト。お前、何やってんだ?」


 襟首を掴み上げるんじゃないよ、ダメマス。


「何って……ちょっと用足ようたしに」

「そのまま帰るつもりじゃないだろうな?」


 ダメマスのくせに鋭いじゃないか。


「い、いやだなー。小便ですよ、小便。だから離してくださいよ。漏れるじゃないですか」

「【ソーサリアン】にあれだけのことをしたんだ。漏らすくらいなんでもないだろ」


 まだ模擬戦のことを根に持っているのかよ。あれは、勝手にあいつらが降参しただけじゃないか!

 それに、ここで漏らしたら、あんたも俺も終わるぞ。あんたは社会的に、俺は社会的プラス精神的にだ。


「ギルマス。漏れる」

「ちっ。勝手に帰るなよ」

「へーい」


 冒険者ってのは、破落戸ならずものの集まりなんだよ。口約束なんて破ってなんぼのもんじゃ、ボケ。


 怪しまれないように城の出口へと向かう。俺は隠密行動に自信あるんだ。


「ゼイルハルト殿」


 ビクッ。


「……はい」


 アンジェラ様に呼び止められた。

 俺の隠密行動を見破るとは、この姫様何者だ!?

 こんな素人にどうして見破られたのか、心当たりを探すが思い当たることがない。


 姫様の前で跪く。


「立ってください。ゼイルハルト殿はわたくしの命の恩人ではありませんか。堅苦しい挨拶は不要です」

「は、はぁ……」


 アンジェラ様がよくても他の人が駄目なんですよ。アンジェラ様の護衛のマーテル様が睨んでいるの知ってます?

 祭礼用の軍服を着こんだマーテル様は、茶髪を短く切り揃えた女騎士だ。年齢は二十一歳だったか。

 いいところの出身らしく、冒険者を蔑むような目で見る。もう少し胸があったら、そういう目で見られるのも乙なものなんだがな。


「パーティーは退屈ですか」

「いえ、そのようなことは……」

「もしよろしければ、わたくしとお茶を飲みませんか」


 散々飲み食いした後なんですけど? これ以上入らないくらい詰め込みましたよ。

 しかし、タダ酒ほど美味いものはない。酒を出してくれるなら、つき合わないではない。と思いつつ、この誘いは断れないと理解している。


「是非」


 お茶だけですよ。


 どこかの部屋に移動。

 廊下ですれ違った兵士や使用人が妙なものを見たような顔をしていた。

 こんな夜にうら若き乙女が、男を連れ込む光景と言えなくもないから無理もない。

 まあ、護衛のマーテル様も侍女のリンジーさんもいるけどね。


 リンジーさんが淹れてくれたハーブティーに口をつける。

 いい香りがする。


「これはベゴネッタですか?」

「よくご存じですわね」


 鎮静効果がある薬草で、俺もたまに飲んでいた。爽やかな香りが気に入っている。


 冒険者なんてやっていると、命のやり取りがよく起こる。

 そういった戦いの後のベゴネッタティーは、心を落ちつけるのにいいんだよね。


「今回のこと、よろしくお願いしますね。ゼイルハルト殿」

「努力いたします」


 今回は一級冒険者はいないが、二級が一パーティーと三級が二パーティーいる。四級以下は数知れずだ。

 騎士団はあてにできないが、二級がいれば、仮にオークキングがいても討伐は難しくないだろう。

 二級がいたことはよかった。あいつらはオークキングを越える化け物だからな。

 そういった化け物でないと二級にはなれないんだ。


「ゼイルハルト殿も怪我をしないように」

「冒険者は生き残ってなんぼです。どんなことがあっても生き残るために全力を尽くします」

「ふんっ。名誉の死を受け入れることも出来ぬか。せいぜい悪あがきをするがいい」

「マーテル! おやめなさい!」


 俺に恨みがあるとは思えないが、そこまで厭味を言わなくてもいいと思うんだよね。

 まあ、貴族が平民や冒険者を見下す言動は、どこでもあるから慣れているけどさ。


「ごめんなさいね、ゼイルハルト殿」

「いえ、騎士には騎士の、冒険者には冒険者の生き方があります。高尚な騎士の生き方を歩まれるマーテル様が、冒険者の生き方を理解できないのは仕方がないことです」


 騎士が突撃して死ぬのは、好きにしてくれて構わない。それに冒険者を、俺を巻き込まないでくれたら、それでいい。


 アンジェラ様と一時間ほど喋って俺はお暇した。

 今度こそ本当に帰った。




 そして、オーク集落壊滅作戦当日、俺はダメマスにアイアンクローをされている。


「痛いんですけど」

「お前、壮行会の途中で帰っただろ」

「そんなことないですよ。ちゃんといましたから」

「嘘言え、俺の目は誤魔化せんぞ」

「本当ですってば、アンジェラ様に呼ばれて話をしていたから、会場にはいませんでしたけど、ちゃんとパーティーが終わるまでいましたよ」

「何? アンジェラ様と? そういえば、お前、伯爵家とどういった関係なんだ?」

「そこからですか? とりあえず、このアイアンクローを止めてくれませんかね。さっきから頭がミシミシいってますから」


 この脳筋ダメマスめ、立場が上だからって威張りやがって。いつか後ろから刺して逃げてやる。


「ああん? なんか言ったか?」

「イエ、ナニモイッテナイデス」


 人気がないところ、まあ、ダメマスの執務室に連れ込まれた。

 巨乳お姉さんからの誘いなら、いくらでもついていくんだけどな。ダメマスこいつじゃあなぁ。


「話せ」


 俺はオークの群れからアンジェラ様を助け出してからの一連の流れを語った。


「それなら最初からそう言えよ」


 なんで言わなあかんねん!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る