第9話 オークの集落調査

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 第9話 オークの集落調査

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 門を出て北の森へ入っていく。

 俺の人生の半分は森の中での生活だった。

 好きで森の中で暮らしていたわけじゃないが、森歩きは嫌いじゃない。


 索敵しながら進んでいく。

 外周は冒険者が多いようで、気配を頻繁に感じる。


「もうちょっと奥か」


 気配を消し、周囲の気配を探って進む。虫の気配も漏らさず拾っていく。


「そろそろいいか」


 飛行魔法を発動させて上空へ。

 浮遊魔法は赤ん坊の時に必要に迫られて覚えたが、飛行魔法を身につけるまでにはかなり時間がかかった。

 浮遊ができれば飛行もと思うかもしれないけど、この二つの魔法はまったく別物なんだ。


 さて、上空から森を俯瞰する。

 かなり大きな森のようだ。端が見えない。


「まあいい。飛んで探せば、集落があれば分かるからな」


 十日もかけて調査するつもりはない。こうやって飛んで調査すれば、一日もあれば森全体を調査できるだろう。


 夕方近くまで飛んだところで、やっとオークの集落を見つけた。


「ちっ。ここかよ」


 俺が最初に向かった西側ではなく、東側にオークの集落はあった。

 こういうちょっとしたことが、嫌な予感をさせる。


「あー、最悪だ」


 オークはおよそ千体。数えきれないほどいる。

 オークリーダーが数十体、さらにオークジェネラルまでいるじゃないか。壊滅は無理だと早々に判断した。


 オークジェネラルを見分けるのは、それほど難しくない。

 オークリーダーよりも大きな体をしており、鎧と大剣を装備している。


 オークジェネラルに率いられた千体のオークを相手にするのは、さすがに一人ではきつい。てか、自殺行為だ。

 壊滅報酬は惜しいが、命あっての物種だからな。


「ん? オークジェネラルが二体?」


 オークジェネラルが群れを率いているなら、一体しかいないはず。

 それが二体いるということは……その上位種の存在を疑うべきだ。


「オークキングの存在も考えるべきだな」


 俺はオークキングがいるか注意して確認したが、残念ながら日が暮れてしまった。

 多少の夜目は利くが、集落全体を見渡せるほどではない。

 魔力を探ってみたが、オークキングらしい強い反応はない。ただし、範囲外にいる可能性は否定できない。

 特にあの切り立った岩山の洞窟の深いところにいたら、さすがに探ることは難しい。


 町に帰ると門が閉まっていた。

 オークの群れが大挙して押し寄せているならともかく、集落を発見したくらいで門は開けてもらえない。

 これまで同じケースが何度かあったけど、杓子定規で対応されるのが普通だ。


 仕方がないので、門のそばで野営することにした。


 閉門に間に合わなかった旅人や商隊が数組いる。

 モンスターが出たら、彼らと協力して撃退することになる。

 もっとも、滅多なことでは出てこないはずだ。


 オークリーダーの肉を熟成させておいて良かった。

 簡単な竈を作り、三百グラムほどを熱したフライパンに横たえる。

 ジューッといういい音が俺の胃袋を刺激する。

 塩と胡椒で味つけし、ミディアムレアに焼いたら皿に上げる。

 フライパンに残った脂にニンニクチップを投入。きつね色になったら、ショーユで味を調える。

 このショーユは東国の国で手にいれた調味料で、大量に購入したんだが、そろそろ在庫がなくなる。貴重な調味料だ。

 なくなる前に東国へ行ってまた仕入れないといけない。


 視線が集まっているが、ショーユの焦げた香ばしい匂いのせいだろう。

 ショーユは貴重だから、やらないぞ。


「うっまっ!」


 オークリーダーの熟成肉は滅茶苦茶美味い。

 甘い脂が多いのだが、全然しつこくない。これはどれだけでも食べられるな!


 オークリーダーの肉はあっという間になくなってしまった。


 次はアイスクリームだ。

 バニラビーンズがなくてもアイスクリームは作れるが、この風味があるのとないのとでは全然違うんだよ。


「やっぱこの風味だよな! 冷たさと絶妙に調和して滅茶苦茶美味しいぜ」


 魔法が使えて本当によかった。

 アイスクリーム作りも肉の熟成も、魔法があったればこそだからな!




 翌朝、日の出を待ってエルディーヒに帰還する。

 ギルドの受付で、あの巨乳お姉さんの前に並ぶ。


「お待たせしました、ゼイルハルトさん」

「指名依頼の報告にきました」

「え? あの、オーク集落の調査と壊滅の指名依頼ですよね?」

「はい、そうです」


 何をそんなに驚いているのかと思ったが、俺の報告が早かったからか。


 昨日のうちに簡単な地図を描いている。それを渡して、確認してもらう。


「しょ、少々お待ちください」


 巨乳お姉さんは、奥へと消えていった。

 しばらくして、ダメマスがやってきた。


「おい、ゼイルハルト。本当に調査を終えたのか?」

「ええ、運がいいことにすぐにオークの集落が見つかりましたよ」

「そうか。で、ここに書いてあることは本当か?」

「どうせ分かるのに、嘘を書いても仕方がないでしょ」

「それもそうだな……」


 ダメマスはギルド内を見渡した。


「おい、ヘラルド! こっちへこい!」


 いきなり怒鳴るなよ。思わず、魔法をぶっ放すところだったぞ。


「なんだよ、ギルマス」


 サル顔の三十歳くらいの冒険者がやてきた。

 歩き方で分かるが、この冒険者は斥候系だ。

 腰に短剣が二本あるが、袖や裾に暗器を隠しているようだ。


「北の森へ行き、ここにオークの集落があるか確認してこい」

「あ? なんだこの地図……は? オークジェネラルが最低でも二体? オークリーダーが数十体、オークが千体近いだと? 本当かよ?」

「それを確かめるために、お前に行ってもらうんだ」


 二重チェックするのは、よくあることだ。

 報告を依頼者に上げて、間違っていましたではギルドの沽券に関わる。だから、別の冒険者に確認させる場合がある。

 もっとも、ギルマスの性格や、冒険者の信頼度でその判断は変ったりする。

 この場合の信頼度は、そのギルドで長く活動しているとか、人間性とか、周辺の地形などを把握しているとか色々ある。


 この人はダメなギルマスの面もあるが、こういうところではちゃんと仕事しているようだ。


「わーったよ、ここなら今日中に帰ってこれるだろ」


 ヘラルドはあっという間にいなくなった。


「お前は明日の朝、もう一度ここへこい」

「へーい」


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