第8話 指名依頼受注

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 第8話 指名依頼受注

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 ギルマスの執務室。

 俺とライガット、そしてダメマスがソファーに座ってハーブティーを飲んでいる。


 模擬戦の審判をしていたダメマスは、落ちつきはらっている。

 ただし、側頭部に金貨大の禿がある。さっき自分で抜いたのだから、誰にも文句は言えない。


「冒険者ゼイルハルトへの指名依頼の内容は、北の森のオークの集落の調査。冒険者ゼイルハルトの判断で壊滅できそうなら壊滅。期間は最大で十日。報酬は調査で八十万ジル、壊滅で二百万Z。失敗時のペナルティはない。ライガット副団長、以上で間違いないですかな」


 ダメマスが仕事モードだ。さっきまでの狂気は鳴りを潜め、仕事の出来る雰囲気を醸し出している。


「間違いない」

「冒険者ゼイルハルト。この指名依頼を受けるか?」

「はい。受けます」

「よし、決定だ。この依頼書を受付に持っていき、処理してもらえ」

「その前にオークを引き取ってほしいんですけど」

「オークだ? 解体場に持っていけば、引き取る」

「あ、肉をいくらか回収したいんですよ」

「それも解体場で言え。他に何かあるか?」

「いえ、それだけです」


 俺は依頼書を受け取り、ギルマスの執務室を出た。

 まず解体場へ行き、オークを引き取ってもらう。


「オークだ? 何体だ?」


 解体場のギルド職員はタンクトップに前掛けをした、ガチムチのオッサンたちの集まりだ。

 彼らも元は冒険者が多い。

 力仕事だし、汚れるし、臭いし、解体はこういう人の受け皿になる。


「ざっと五十です」

「なんだと? ……こっちへこい」


 隣の部屋は解体場より広い倉庫のような場所だ。そこにオークを出した。


「えらく大きな収納カバンだな」

「オヤジの形見さ」

「そうか……」


 解体職員はウルッとしたようだが、そんなつもりで言ったんじゃないからな。


「オークリーダーが三体、あとは……五十体のオークか」


 解体職員はオークを一体一体確認していった。


「オークリーダー一体と、オーク五体は損傷が激しいが、それ以外は頭に一カ所か。お前がこの綺麗なほうをやったのか?」

「なんでそう思うのですか?」

「雰囲気だ。強いヤツは、それなりの雰囲気があるもんだ」


 そういうものか。

 そういえば、強いヤツに出遭うと鳥肌が立つな。


「綺麗なオークリーダーは一体八万Z、酷いほうは四万Zだな。オークは二万Zだが、酷いほうは一万Zだ」

「オークリーダー二体分の肉が欲しいんだ。あ、もちろん綺麗なほうを」

「ちっ。損傷が激しいほうにしとけ」

「味が落ちるのは嫌なんだ」

「言うじゃねぇか。まあいい。二体は魔石を引き取るだけでいいんだな」

「それでお願い」


 解体職員は買い取り査定を書いてくれた。


「依頼で明日からしばらくいないんだ。今日中に解体できるかな」

「オークリーダーを優先する。今日の昼すぎには用意しておくぜ」

「ありがとう」


 査定用紙を持ってカウンターに行く。同時に依頼書も出す。


 最初にオークの買取金額を受け取る。

 百六万Zになった。そこそこいい金額だ。

 この国の通貨は、鉄貨が一Zで、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨の順に十倍の価値になっていく。

 大金貨は使いづらいから、金貨と大銀貨を混ぜてもらう。


 次に指名依頼の処理だ。


「冒険者証をご提示ください」


 ダメマスとの約束で、俺は六級から五級に昇級になった。

 六級は冒険者証が銅色だが、五級は銀色だ。

 五級冒険者は熟練者で、一目置かれる存在だ。俺はその域に至ったことになる。

 もらった時は、ちょっとだけ頬ずりしてしまった。フフフ。


「手続きを完了しました。明日から最大十日の依頼になります。ゼイルハルトさんの依頼達成を祈っております」

「ありがとう、綺麗なお姉さん」

「き、綺麗……」


 受付嬢はどこのギルドも美形が揃っている。

 俺の好みは、胸が大きな人。

 もちろん、この受付嬢は俺のド・ストライクだ。


 巨乳が大好きなのは、男の性だ。こればかりは止められない。


 プラチナブロンドを一つにまとめ、左肩から前に垂らしている巨乳受付嬢と、にこやかに会話する。


「それじゃあ」

「あ、はい。がんばってください」

「はーい」


 うん。揺れている。眼福、眼福。ヘヘヘ。


 ギルドを出ると、背伸びをして歩き出す。

 今のうちに物資を補給しておくか。


「しかし、この辺りにきたのは初めてなのに、そんな俺に調査依頼を出すとか、伯爵は分かってないねぇ」


 そういうのは、地理に詳しい冒険者に依頼するものだ。それが森などなら特にだ。


「もっとも、こっちとら赤ん坊の時から森や山歩きは慣れているけどな」


 その時の俺はオヤジに抱えられていただけだけどね。

 市場で野菜と調味料を買い込んでいく。


「お、これは珍しいな」


 これはバニラビーンズだ。

 何年か前に訪れた町でアイスクリームという乳製品を食べたことがある。あれは美味しかった。

 その時に作り方を学んだが、買い溜めたバニラビーンズがなくなってからは食べていない。

 それが手に入った。これはなんという僥倖か!

 バニラビーンズは高額だが、もちろん購入した。悔いのないように全部買い占めた。百万Zなくなった。


 買い物が終わりオークリーダーの肉をもらいにギルドに向かった。


「これがオークリーダーの肉だ」


 ドドーンッ。


 オークリーダーは巨体だが、美味しい部位はせいぜい三十キロくらいだ。

 二体分で六十キロを収納する。


 ギルドを出て宿に向かう。

 一泊二食付きで一万二千Z。中堅どころの宿だ。


 部屋に入った俺は、オークリーダーの肉を出す。


「そういえば、ウッドカウの解体を頼むのを忘れていたな……まっいいか、ストレージに入れてあるものは時間経過しないから、討伐した時の状態のままだし」


 オークリーダーの肉はほどよくサシが入っていている。いい肉だ。

 肉はある程度熟成させたほうが旨くなるから、ここで熟成させる。


「熟成!」


 温度、湿度、時間経過を調整することで、肉を熟成させることができる。

 低温多湿でおよそ三カ月くらい熟成させると、いい感じにカビが生えてくる。

 このカビが結構大事なんだよ。


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