第4話 冒険者商売
■■■■■■■■■■
第4話 冒険者商売
■■■■■■■■■■
だだっ広い部屋だ……。
俺のためにわざわざ調度品を入れ換えてくれたのはありがたいが、そうじゃないんだよ。
俺は貴族の城に泊まるのが、嫌だと言ったつもりなんだがなぁ。
とはいえ、使用人たちには感謝しないとな。わずかな時間でこの部屋を用意してくれたんだから。
そんなことを考えていると、ドアがノックされる。返事をすると侍女が入ってきた。
「お食事の用意ができました。食堂へご案内いたします」
ついていくと、長く大きなテーブルがあった。嫌な予感がする。
席について一分くらいでアンジェラ様がやってきた。それから、ポツポツと人がやってくる。
見たことないの人からは、その都度挨拶があった。
最終的には、伯爵家総揃いだ。
アンジェラ様の兄で長男のライアット様(十六歳)、弟で次男のウィリアム様(十一歳)、三男のチャールズ様(七歳)、アンジェラ様、伯爵夫人のマリアンナ様(美魔女)、そして伯爵(四十歳くらい)。
マリアンナ様は四人の子持ちだった! そのことが一番驚きだ。
食事の味なんて分からなかった。
テーブルマナーはオヤジに教え込まれていたが、滅多に使わないから思い出すのに苦労した。
伯爵一家に失礼にならないように気を遣うだけで疲れる。早く解放してほしい。
部屋に帰ってベッドに倒れ込む。
このまま寝入ってしまいそうだ。
おっといけない、あれをやっておかないと……。
「クリーン」
風呂に入った爽快感には届かないが、体を清める生活魔法だ。
俺の魔法は基本的に我流だけど、このクリーンは八歳の時に教えてもらったものだ。
その当時、オヤジが依頼を受けている間、俺はギルドの訓練場で剣と魔法の訓練をしていた。
ガキが訓練場で木剣を振っていると、意味もなく怒鳴ってくる冒険者もいたけど、世話を焼いたり構ってくる人もいたんだ。そんな中に女性魔法使いがいて、俺に生活魔法を教えてくれた。
あの人は今どこにいるんだろうか。
もう結婚したのだろうか? よく、酒場でいい男がいないとくだを巻いていたっけ。
俺好みの巨乳だったから、俺がもらってあげるのにと思ったものだ。
知らないうちに寝ていたようだ。
朝日が出る前に起き出した俺は、日課の魔法の訓練をする。
あぐらをかいで丹田にある魔力を練る。
練った魔力を体中に循環させる。これは血管に魔力を流す感じだ。
最近はちょっと意識するだけでスムーズに動かせるようになったが、以前は毛細血管に魔力を行き渡らせるのにかなり苦労した。
床から一メートルほど浮き上がるが、これは魔法ではなく純粋な魔力操作の結果だ。これの応用を浮遊魔法と言っている。実際には魔力操作なのだが、浮遊魔法のほうが格好いいからさ。
そういったことから、浮遊魔法はせいぜい十メートル浮くだけのものだ。あとは落下している時のスピードを落とす効果もある。
俺は魔力操作がもっとできるようになったら、他人の魔法発動に干渉できるようになると思っている。
魔法使いと戦うことが今のところないから、まだやったことはないけど。
部屋のドアの前に人が立ったのを感じ、訓練を終える。同時にドアがノックされた。食事の時間なんだろう。
汗をかいたからクリーンをかけ、身綺麗にして食堂へ向かう。
昨日と同じメンバーが揃ったところで、食事が始まる。
昨夜もそうだったが、あまり会話はない。静かに食事をするのがマナーだからだろう。
オヤジと二人の食事は、骨付き肉に豪快に齧りついたり、スープの皿に口をつけて一気に流し込んでいた。
オヤジはとにかくお喋りが好きで、食事中も喋り倒していた。
他の冒険者にしても同じだ。酒を飲んで自慢話をする。静かに飲む人もいたけど、大概はバカ話をして騒ぐのが冒険者だ。
騒がしいのが当然だったところで育った俺には、こういった静かな食事は味がしないんだよ。
お喋りは最高のスパイスって言うし。
朝食後に褒美の五百万Zをいただいたから、お暇しようと思う。
そしたら、伯爵がやってきた。
俺のような粗暴な冒険者の部屋にわざわざやってくるなんて、この人は暇なのか?
「これからどうするのかね?」
「とりあえず、ギルドでオークを卸します」
「その後は?」
「適当な依頼があれば受け、そうでなければ他の町へ行こうと思っています」
「なるほど……ゼイルハルト殿は六級だったね」
「はい、そうです。それが何か?」
「指名依頼を出したいのだけど、構わないかな」
「指名依頼ですか……。内容を聞かせていただければと思います」
指名依頼は六級以上の冒険者を名指しして出す依頼だ。
指名依頼は断ることもできるけど、報酬がいいことが多い。それにギルドへの貢献度も高い。
報酬が高いから飛びつく冒険者は多い。だが、性質の悪い依頼者もいるから、そこは考えないといけない。
「昨日のオークだが、オークリーダーが複数確認されている」
「三体いました」
「それを考えると、森の中にオークの集落がある可能性がある」
オークは繁殖力が強いから、可能性はある。
「それで俺に調査の依頼をと?」
「調査もそうだが、できれば壊滅させてほしい」
また無茶を仰る。
「騎士団は動かないのですか?」
「恥ずかしい話なのだが、一年前に隣国エルダーイ王国と戦があった。当家も参戦したのだが、そこで多くの将兵を失ったのだ。今は戦力を回復させているところで、多くの者が未熟なのだ」
騎士団員が新兵だったから、五十体のオークの群れに遅れを取っていたわけか。
まともに動けていたのは、副団長のライガット様だけだもんな。
「壊滅は集落の状態を見て判断ですね。規模が大きかったり、ジェネラル以上の上位種がいたら、さすがに無理です」
「それで構わん。冒険者ギルドには、依頼を出すようにする。頼んだよ」
「はい」
そんなわけで、俺はドラグア伯爵の配下と……まあ、副団長のライガット様なんだが、共にギルドへ向かうことになった。
この人、こんなことする暇があったら、配下の将兵を鍛えて精鋭に仕立てたほうがいいんちゃうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます