第4話 冒険者商売

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 第4話 冒険者商売

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 だだっ広い部屋だ……。

 俺のためにわざわざ調度品を入れ換えてくれたのはありがたいが、そうじゃないんだよ。

 俺は貴族の城に泊まるのが、嫌だと言ったつもりなんだがなぁ。

 とはいえ、使用人たちには感謝しないとな。わずかな時間でこの部屋を用意してくれたんだから。


 そんなことを考えていると、ドアがノックされる。返事をすると侍女が入ってきた。


「お食事の用意ができました。食堂へご案内いたします」


 ついていくと、長く大きなテーブルがあった。嫌な予感がする。

 席について一分くらいでアンジェラ様がやってきた。それから、ポツポツと人がやってくる。

 見たことないの人からは、その都度挨拶があった。


 最終的には、伯爵家総揃いだ。

 アンジェラ様の兄で長男のライアット様(十六歳)、弟で次男のウィリアム様(十一歳)、三男のチャールズ様(七歳)、アンジェラ様、伯爵夫人のマリアンナ様(美魔女)、そして伯爵(四十歳くらい)。

 マリアンナ様は四人の子持ちだった! そのことが一番驚きだ。


 食事の味なんて分からなかった。

 テーブルマナーはオヤジに教え込まれていたが、滅多に使わないから思い出すのに苦労した。

 伯爵一家に失礼にならないように気を遣うだけで疲れる。早く解放してほしい。




 部屋に帰ってベッドに倒れ込む。

 このまま寝入ってしまいそうだ。

 おっといけない、あれをやっておかないと……。


「クリーン」


 風呂に入った爽快感には届かないが、体を清める生活魔法だ。

 俺の魔法は基本的に我流だけど、このクリーンは八歳の時に教えてもらったものだ。


 その当時、オヤジが依頼を受けている間、俺はギルドの訓練場で剣と魔法の訓練をしていた。

 ガキが訓練場で木剣を振っていると、意味もなく怒鳴ってくる冒険者もいたけど、世話を焼いたり構ってくる人もいたんだ。そんな中に女性魔法使いがいて、俺に生活魔法を教えてくれた。


 あの人は今どこにいるんだろうか。

 もう結婚したのだろうか? よく、酒場でいい男がいないとくだを巻いていたっけ。

 俺好みの巨乳だったから、俺がもらってあげるのにと思ったものだ。




 知らないうちに寝ていたようだ。

 朝日が出る前に起き出した俺は、日課の魔法の訓練をする。

 あぐらをかいで丹田にある魔力を練る。

 練った魔力を体中に循環させる。これは血管に魔力を流す感じだ。

 最近はちょっと意識するだけでスムーズに動かせるようになったが、以前は毛細血管に魔力を行き渡らせるのにかなり苦労した。


 床から一メートルほど浮き上がるが、これは魔法ではなく純粋な魔力操作の結果だ。これの応用を浮遊魔法と言っている。実際には魔力操作なのだが、浮遊魔法のほうが格好いいからさ。

 そういったことから、浮遊魔法はせいぜい十メートル浮くだけのものだ。あとは落下している時のスピードを落とす効果もある。


 俺は魔力操作がもっとできるようになったら、他人の魔法発動に干渉できるようになると思っている。

 魔法使いと戦うことが今のところないから、まだやったことはないけど。


 部屋のドアの前に人が立ったのを感じ、訓練を終える。同時にドアがノックされた。食事の時間なんだろう。

 汗をかいたからクリーンをかけ、身綺麗にして食堂へ向かう。


 昨日と同じメンバーが揃ったところで、食事が始まる。

 昨夜もそうだったが、あまり会話はない。静かに食事をするのがマナーだからだろう。


 オヤジと二人の食事は、骨付き肉に豪快に齧りついたり、スープの皿に口をつけて一気に流し込んでいた。

 オヤジはとにかくお喋りが好きで、食事中も喋り倒していた。

 他の冒険者にしても同じだ。酒を飲んで自慢話をする。静かに飲む人もいたけど、大概はバカ話をして騒ぐのが冒険者だ。

 騒がしいのが当然だったところで育った俺には、こういった静かな食事は味がしないんだよ。

 お喋りは最高のスパイスって言うし。


 朝食後に褒美の五百万Zをいただいたから、お暇しようと思う。

 そしたら、伯爵がやってきた。

 俺のような粗暴な冒険者の部屋にわざわざやってくるなんて、この人は暇なのか?


「これからどうするのかね?」

「とりあえず、ギルドでオークを卸します」

「その後は?」

「適当な依頼があれば受け、そうでなければ他の町へ行こうと思っています」

「なるほど……ゼイルハルト殿は六級だったね」

「はい、そうです。それが何か?」

「指名依頼を出したいのだけど、構わないかな」

「指名依頼ですか……。内容を聞かせていただければと思います」


 指名依頼は六級以上の冒険者を名指しして出す依頼だ。

 指名依頼は断ることもできるけど、報酬がいいことが多い。それにギルドへの貢献度も高い。

 報酬が高いから飛びつく冒険者は多い。だが、性質の悪い依頼者もいるから、そこは考えないといけない。


「昨日のオークだが、オークリーダーが複数確認されている」

「三体いました」

「それを考えると、森の中にオークの集落がある可能性がある」


 オークは繁殖力が強いから、可能性はある。


「それで俺に調査の依頼をと?」

「調査もそうだが、できれば壊滅させてほしい」


 また無茶を仰る。


「騎士団は動かないのですか?」

「恥ずかしい話なのだが、一年前に隣国エルダーイ王国と戦があった。当家も参戦したのだが、そこで多くの将兵を失ったのだ。今は戦力を回復させているところで、多くの者が未熟なのだ」


 騎士団員が新兵だったから、五十体のオークの群れに遅れを取っていたわけか。

 まともに動けていたのは、副団長のライガット様だけだもんな。


「壊滅は集落の状態を見て判断ですね。規模が大きかったり、ジェネラル以上の上位種がいたら、さすがに無理です」

「それで構わん。冒険者ギルドには、依頼を出すようにする。頼んだよ」

「はい」


 そんなわけで、俺はドラグア伯爵の配下と……まあ、副団長のライガット様なんだが、共にギルドへ向かうことになった。

 この人、こんなことする暇があったら、配下の将兵を鍛えて精鋭に仕立てたほうがいいんちゃうか?


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