第3話 堅苦しいのは

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 第3話 堅苦しいのは

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 アンジェラ様と向かい合って座り、馬車の揺れに身をゆだねる。

 会話がない。気まずい。早く到着してほしい。


「ゼイルハルト殿はいつから冒険者をしているのですか?」

「十歳の時に登録しました」

「今はおいくつかしら?」

「十三歳です」

「まあ、わたくしと同じ年なのですね」


 アンジェラ様は喜んでいるけど、俺はどう反応するのが正解なのかな?

 アンジェラ様の横に座る年配の眼鏡侍女に目を向けると、すっげー睨まれているんですが?

 俺にどうしろと?


 ポツポツと会話をしながら時間を持て余していると、町に到着したようだ。

 さすがは貴族家の馬車だ、ノーチェックで門を通った。

 冒険者だと一般人用の門を通るけど、混んでいることが多く、結構待たされるんだよ。


 大きな町の多くは、防壁で守られている。このエルディーヒも重厚な防壁がある。

 防壁は戦争のためでもあるけど、基本はモンスター対策だ。


 アンジェラ様が襲われたように、町の外にはモンスターが闊歩していて危険が多い。

 だから俺のような冒険者にモンスターの駆除や退治、その他素材納品などの仕事があるわけだ。


 エルディーヒのメインストリートは、石畳で馬車の振動が小さくなった。

 小窓から見える景色から察するに、なかなか大きな町っぽい。

 石造りの建物は三階建てから五階建てだ。

 小さな町に多層構造の建物は少ないし、あっても二階建てだ。だから、それなりの規模の町だと思われる。


 しばらく進んで停車したと思ったら、すぐに動き出して門を通った。これは城門か。


 馬車を降りると、城があった。

 城持ちの貴族は有力貴族が多い。面倒なことにならなければいいな。


「お姉様!」

「チャールズ。ただいま戻りました」


 チャールズと呼ばれた少年は、アンジェラ様に抱きついた。

 まあ、姉弟のようだし、まだ七歳くらいだから構わないだろう。


「その者は?」

「こちらは冒険者のゼイルハルト殿です。私の命の恩人ですわ」


 チャールズ君はキョトンとした。

 命の恩人の意味が分からないようだ。


「お話し中、失礼します。ゼイルハルト殿、こちらへ」

「そうね。ゼイルハルト殿、またあとで」


 またあとで? あとがあるの? そうか、褒美をくれるってことか!


「はい」


 俺はライガット副団長についていく。

 騎士団の詰所のような建物に入った。

 ライガット副団長に促されて、騎士の死体を出した。


「ベイル。ドーン。お前たちの死は無駄にせんぞ」


 ライガット副団長が二人の死体に声をかけ、仲間の騎士たちが涙する。

 俺、こういうのに弱いんだ。もらい泣きしそうだよ。


 場所を移して、豪華な部屋に通された。花瓶一つでも金貨が何枚も飛んでいきそうで、下手に触れない。

 こういう部屋は慣れないから、落ちつかないんだよ。

 しかも、若い侍女が部屋の隅にいるから、さらに気が休まらない。

 早く帰りたい……。


 ドアが開いてアンジェラ様が入ってこられた。ドレスが変っていて、宝石も先ほどより多い。


 壮年の男性、綺麗な女性、そしてライガット副団長も一緒だ。

 俺は跪いて頭を下げた。


「楽にしてくれたまえ」


 コの字型に置かれたソファーの、一人掛け用に腰を掛けた壮年の男性からそう言われた。多分、城主でアンジェラ様の父親だろう。

 ライガット副団長が父親(仮)を守るように、その後ろに立っていることから間違いないと思う。


 アンジェラ様は俺の向かいで、女性と並んで座った。横の女性のほうが年上で、面影があるから姉だと思われる。

 ん? 姉? アンジェラ様は長女って言っていたよな? んんん?


「私はアンジェラの父のフォルディア・ドラグアだ。この度は娘が世話になったと聞いた。貴殿には感謝の言葉もない」


 やっぱりアンジェラ様の父親だった。

 伯爵だと聞いていたが、意外と腰が低い。冒険者相手にこんなに低姿勢で感謝するなんて、貴族にしては珍しいと思う。

 その人柄が、家臣やアンジェラ様の態度にも出ているのかもしれないな。


「俺は六級冒険者のゼイルハルトです。たまたま姫様が襲われている場に出くわしましたが、お助けできてよかったです」

「ゼイルハルト殿に何か褒美を与えようと思うが、希望はあるかね」

「褒美をいただけるのでしたら、金銭でお願いします」


 金銭があと腐れなく、一番いい。

 貴族ともなると、下手に深く関わるとドツボに嵌るとオヤジがよく言っていた。


「承知した。ところで、ゼイルハルト殿の魔法の腕は素晴らしいと聞いた。当家に仕える気はないかね」

「お誘いはとてもありがたいのですが、俺に宮仕えは無理です。謹んでご辞退します」


 貴族に仕えるなんて、絶対に嫌。


「そうか。それは残念だ。褒美は明日には用意する。今日は泊まっていくといい」

「いえ、俺は町中の宿に」

「遠慮しなくてもいいのですよ。アンジェラもそうしてほしいと言ってますし」


 親族(仮)の女性が出てきた!


「あら、失礼しました。わたくしはアンジェラの母で、マリアンナと申します。この度は娘が大変お世話になりました。お礼を申しますわ」


 お姉さんじゃなく、お母さんかよ。若すぎるだろ。どうみても二十歳くらいにしか見えないぞ……。


「あらやだわ! ウフフフ」


 あ、もしかして声に出てた? やっべー。


「失礼しました。あまりにもお若くお美しいので、つい」

「いいのですよ。わたくしのことはお姉ちゃんと呼んでくださいな」

「お母様!」

「いいじゃない。これからはアンジェラの姉と名乗ろうかしら」


 信じてしまうから、止めてくれ。


「ゴホンッ。俺は六級冒険者のゼイルハルトです。よろしくお願いします」

「それでね、しばらく当家に逗留してくださいな」


 何がそれでね、なのか?


「正直に言いまして、貴族様の屋敷やお城の部屋は豪華すぎて落ちつかないので、本当に町の宿に泊まりたいのですが……」

「「「……プッ。アハハハ」」」


 何をそんなに笑ってるのさ? しかも、親子三人で。


「そうですか、城の部屋は堅苦しいのですね。ウフフフ」

「殿。よろしいですか」

「どうした、ライガット」

「城内の部屋が落ちつかないのなら、兵士の宿舎があります」

「それはいけません! ゼイルハルトさんはお客様です。それを兵士の宿舎にお泊めするなんてできませんわ!」


 いやいや、アンジェラ様。俺はお客様じゃなくていいですから。


「うむ。そうだな……」伯爵

「では、こうしましょう!」伯爵夫人


 今度はなんだ?


「部屋の調度品をできる限り質素なものにしましょう。それならいいわよね?」


 マリアンナ様はいい案だと自画自賛だよ……。


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