一章

第2話 オークの群れを殲滅

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 第2話 オークの群れを殲滅

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 移動中に森に入ったら、ウッドカウに遭遇した。

 緑色と茶色の模様のウシ型のモンスターだ。

 ウッドカウはあまり強くないけど、発見例が少ない。つまり希少なモンスターだ。


「肉……」


 ウッドカウの肉は滅茶苦茶美味しいんだよ。俺も過去に一回だけ食べたが、あまり食べられることのない筋張った部位でも美味しかった。


「あの時は依頼だったから、いい肉は全部依頼者のものになったけど、今回は違う。ヘヘヘ、フフフ。ストーンミサイル!」


 俺の腕ほどの太さがあって、先端が尖っている石のミサイルを射出する。

 木々を避けることなく直線で飛翔したストンミサイルが、ウッドカウの頭部に着弾。同時にウッドカウの頭部が爆散した。


「肉ぅ~」


 森を抜けて落ちついたら食いまくるぞ~。





「きゃぁぁぁっ」


 そろそろ森を抜けると思ったところで、悲鳴が聞こえた。

 俺は無意識に駆け出す。


 木々の間を縫うように走り、パンッと視界が広くなる。

 重苦しい森の雰囲気から、開放感のある青い空が俺を迎えた。


 戦闘音が聞こえるほうに目を向けると、五十体くらいのオークが馬車を襲っていた。

 オークは人型のモンスターで、顔がイノシシのモンスターだ。


 どうもオークリーダーまでいるようだ。

 オークよりも一回り大きいのが、オークリーダーだ。大きい分、強くなっている。


 馬車は十人の騎士に守られているが、すでに三人が倒れていた。残った七人は明らかに劣勢だ。


 そんな中で孤軍奮闘し、オークリーダー二体とオーク五体を相手に互角にやり合っている騎士がいる。その背丈がオークにも負けない巨躯の騎士だ。


「冒険者だ! 援護は必要か!?」


 声を張り上げる。

 冒険者がしてはいけないことの一つに、横殴りがある。

 横殴りとは、他人が戦っているモンスターを、横から殴って取ってしまうことをいう。

 とても揉めることだから、基本的に他人の戦闘は遠回りして近づかないのだが、また騎士が一人倒れた。このままでは全滅だろう。


「援護、感謝する!」


 こうやって意志の確認をすれば、話は変わる。

 俺は一気に魔法を展開させる。

 オークはそこまで硬い体ではないから、ストーンバレットでいいだろう。


 親指の先ほどの大きさの石の弾丸を二十個展開し、発射!

 さすがに二十個の弾丸をコントロールするのは、大変だ。


 俺は赤子の頃から魔法の練習をしてきた。

 オヤジは魔法はからっきしだったから、自分で考えて練習した。

 十三年間練習し続けてこの程度の魔法しか使えないけど、全力で撃つ。


 二十体のオークの眉間を撃ち抜く。

 ふー。これ結構な集中力がいるから、疲れるんだ。


 まだ三十体のオークが残っている。

 もう一度二十発のストーンバレットを展開させ、発射。

 今回も二十体を倒した。残りは十体だが、オークが逃げ出した。

 ストーンバレットで後頭部を撃ち抜く。


「これで殲滅だな。ふー」


 五十体のオーク討伐は初めてだったが、なんとかなるものだ。


「助かった。某はドラグア伯爵騎士団副団長のライガットだ。助勢に感謝する。」


 身長は二メートルくらいあるか、巨躯だ。しかも顔は威圧感半端ない。

 この人がオークリーダー二体と戦っていた騎士だ。


「俺は六級冒険者のゼイルハルトです」


 俺は被っていたフードを上げて顔を見せる。

 貴族家に仕える騎士はプライドの塊のような人もいるから、フードを被ったままだと怒鳴り出す人までいるんだよ。


「む、子供か」

「十三歳ですが、何か?」

「あ、いや、失礼した。あれだけの魔法を使っていたから、もっと年配の魔法使いかと思っただけだ」


 これでも魔法使い暦十三年ですよ、俺。

 しかし、俺のような冒険者に謝罪するとは、この人は騎士っぽくないな。俺、こういう人、嫌いじゃない。


「それより倒れた人は大丈夫ですか?」

「それだが……」


 騎士は二人が死亡、二人が重傷、他の人も軽い怪我をしていた。

 俺は回復魔法は使えないから、どうにもできない。

 仲間の騎士が重傷者にポーションを飲ませていた。ポーションは軽傷なら瞬時に癒す魔法薬だが、重傷だとそうはいかない。

 ただ、重傷を軽減させ命をとりとめることは可能だ。


「俺が倒したオークはもらっていきますね」

「ああ、構わんが五十体からのオークだぞ。収納カバンでも持っているのか?」

「ええ、そんなところです」


 カバンをポンポンと叩く。これ、普通のカバンですけどね。


 俺が倒したオークは、頭部に穴が一つ開いているから見分けるのは簡単だ。

 時空魔法のストレージに、オークの死体を放り込んでいく。


 五十体の回収を終わると残りは四体、これは騎士たちが倒したオークだ。

 その騎士たちだが、重傷の人は応急処置をして運ぶらしい。


「ちょっといいか」

「なんでしょう?」

「俺の部下の遺体は放置はできない。できれば、連れて帰ってやりたいんだ」

「俺の収納カバンに入れて運べというのですね」

「そうだ。頼めないか」

「……貴方たちが倒したオークをもらえるのなら構いませんよ」

「ああ、構わない。それで頼む」


 騎士の死体は、剣を持たせて寝かされていた。

 あるじを守るために死んだ騎士か……。

 オヤジは俺のために主を捨てて、モンスターに殺された。

 鼻の奥がツーンとした。


 俺は騎士とオークの死体を回収した。


「姫様!」


 その声を聞き振り返ると、馬車から少女が降りてきた。

 うわー、ドリル巻き髪だ。すっげー、本当にこんな金髪縦ロールの姫様がいるんだな。


「危険です。馬車にお戻りを」


 俺と言葉を交わしていたライガット副団長と女性騎士が姫様の左右を守る。


「冒険者の方、ご助勢を感謝します」

「あ、いえ」


 俺は跪き、姫様に頭を下げた。

 最低限の礼儀作法は、元騎士のオヤジから叩き込まれている。

 冒険者も高位になると、貴族とのつき合いがあるからとオヤジは言っていた。

 でも、俺が知っている高位の冒険者は、がさつな人が多い。とても礼儀作法なんてできそうにないんだけどね。


「貴方は我が家臣ではありませんから、そのようなことはしなくていいのですよ。立ってください」

「ありがとうございます」


 立ち上がる。姫様は俺と同じくらいの年齢か。身長は百六十五センチの俺のほうがやや高い。


「わたくしは、フォルディア・ドラグア伯爵が長女アンジェラ・ドラグアと申します」

「俺は六級冒険者のゼイルハルトといいます」

「わたくしとあまり変わらない年齢とお見受けしますが、六級なのですね!」

「十歳の頃から冒険者をしていますので」


 冒険者は上は一級から、下は十級まで階級がある。

 十級は初心者、九級と八級は駆け出し、七級から六級は一人前、五級と四級は熟練者、三級以上は化け物と言われている。

 だから、十三歳で六級は出世頭と言えるだろう。


 また、オークの討伐危険度は六級、オークリーダーは討伐危険度五級のモンスターになる。

 六級冒険者の俺が狩るモンスターとしては危険だ。


「この度は助けていただいただけではなく、騎士の遺体も運んでいただけるとか、感謝の言葉もありません。エルディーヒまで、よろしくお願いしますね」

「はい。承知しました」


 俺はあてもなく旅をしているから、町の名前は到着してから確認している。

 姫様の話から、この先にエルディーヒという町があるのが分かった。


「それでは、ゼイルハルト殿も馬車へ」

「姫様、それは」

「恩人を歩かせるわけにはいきませんわよ、マーテル」

「ですが……」


 女性騎士のマーテル様はうな垂れた。どうやら説得を諦めたようだ。

 ライガット副団長も苦笑している。


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