第3話 小休止
「死んじゃった」
長い距離を必死に這い続けたリザードマンだったが、突然切られた足の断面から激しい出血が始まり、そのまま動かなくなってしまった。
「やっぱり人間じゃないから勝手がわかんないや。ま、どうでもいいけど。ここまで来れば後は感覚でわかるし」
ざむざむ、と数歩ほど進んだ後、少女はピタリと止まった。
「いやてか普通に疲れたー!」
それもそのはず、彼女は昨晩から一睡もせずに遊び続け、その上かなりの距離を歩き続けていたのだ。
それに加えて彼女の肉体は数日ほど前にようやく二桁の年齢になったばかりだ。
「はぁー、寝よ寝よ」
近くにあった木の側に向かって歩いて行くと、倒れ込むように寝っ転がり、その木を抱きしめた。
彼女は寝るときに何かを抱きしめる癖があり、それでよく母親や幼馴染みを困らせたものだ。
ほっこりする思い出である。
もう死んだが。
「……それにしても楽しかったなぁ」
さく、と木の幹に軽くナイフを刺す。
「ついやっちゃったけど、あれで正解だったかもね」
さくさく。
「だって、二度目の人生で、しかもこーんなに良いナイフまでくれて。これって神様が前の不自由な人生に同情してくれたってことだよね」
さく、さっく、ざく。
「自由に殺していいよってことだよね。嬉しいなぁ、楽しみだなぁ」
ざくざくざく。ギギギギギ。
「……お?」
いつの間にか、抱きしめていた木が鈍い音を出しながら傾いていた。
既に半分以上切り込みの入った木は止まることなく地面に横たわる。
大きな振動と共に少女の身体が浮き上がると、辺りは静まり返った。
「……あーあ、環境破壊をしてしまった……」
罪悪感にさいなまれながら目を閉じると、そのまま深い眠りに落ちていった。
「……若い肉の匂いと、おっきな音」
一頭の獣が走り出したのにも気付かぬまま。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます