第2話 途方に暮れて
「……なんだ、これは」
そう呟いた人物は、いや、人物というのは正確ではない。
ソレは全身をぬるぬるした鱗で覆い、そして二足で歩く爬虫類のような怪物。
リザードマンに分類される魔物だからだ。
「何があったんだろうねー」
そのリザードマンは偵察に来ていたのだ。
森の中にある人間の集落を偵察しに。
彼が言い渡された命令、それは、
「こんなもの、どう報告しろというのだ」
人間たちの数や健康状態、つまりは生態観察だ。
しかし、来てみればいつもの光景はそこにはなく、全盛期の魔王軍の襲撃に負けず劣らずの惨状が広がっていた。
「待ってたのにさー。来ないからだよ」
「クソっ!とにかくこれを伝えなければ!」
「見てたのは知ってたからさー。襲撃に紛れて何人か殺しながら我慢してようと思ってたのにさー」
リザードマンは歩き出す。
しかし、ようやく違和感に気付いた。
「おかげでやっちまったよ、せっかく気に入ってたのに。……なんだっけ?なんとかってやつを」
足が動かないのだ。
つん、と何かに突かれた。
すると視点が一気に低くなった。
「おい、魚人ストーカー。てめー、『観察』してたろ。人間のいるとこ、何個か知ってるよな」
自分と同じ身長の少女が、突然目の前に現れたのだ。
まるで今この瞬間に世界に存在し始めたが如く。
「な───」
驚いてのけ反ると、そのまま後ろに倒れてしまう。
そうして気付いた。
自分の両足が切断されていることに。
「きっ、さまは──」
「喋んなやー。キモいし臭いんだよ」
少女が眉を不機嫌そうに動かした瞬間、切断された足の断面が酷く痛み出した。
「いいか?くそキモ。てめーは黙って人間様がたくさんいるところに這っていけ。そのために腕は残した」
ゴミでも見るかのようにリザードマンを見下ろしながら、彼女は指先でぷらぷらと何かを揺らしていた。
それは、ナイフというにはあまりにも禍々しい見た目をしていた。
肉で包まれているかのような、それでいて触れればバラバラになってしまいそうなほど研ぎ澄まされており、まるで獲物を探しているかのようにギラギラと煌めいていた。
「───っ」
リザードマンはそれ以上何も言うことはなく、這いずり始めた。
彼は己の所属する部隊に強い忠誠を誓っていたが、そんなものは頭からなくなっていた。
今感じるのは純粋な恐怖。
断言できる。
間違いなく一瞬でも向かう意志を失えばその瞬間にこの命は終わる。
そして次の誰かが殺されるのだ。
「いけいけー。えらい、キモい、えらい、キモい」
ぱちぱちと手を叩きながら付いてくる少女から逃げるように、誇り高き蜥蜴の戦士は地を這った。
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