ましろなせかい
気が付くと曖昧な場所を歩いていた。
よくわからない不思議な場所。
ふわふわと歩いているのか浮かんでいるのかもよくわからない。
(これが死後の世界か)
酷く退屈なそうなことを除けば存外悪くもない。
人を殺してもこの世界で済むなら神様というのもけっこう甘いのだなと思った。
(……あ?)
歩いていると人が立っていた。
その輪郭はふわふわと曖昧で、辛うじて人型だなと分かる程度だった。
しかしそれを見ると何故かそれは自分にそっくりのような、でもまったくの別人のような、よくわからない感覚に襲われるのだ。
それを避けて通ろうとしても何故か通れず、目を閉じようとしても見えてしまう、思わず歯ぎしりしてしまいそうになるほどに不快な存在だった。
(イラつくなぁ)
気付くと手にはナイフが握られていた。
当然それで刺してみる。
噴き出した白い血液は溶けるように自分の体内に吸い込まれてく。
「」
何かが聞こえたような気がした。
その日、ある世界に新たな生命が生まれる。
魔物と暴力に支配された世界。
それから逃れるようにひっそりと作られた難民キャンプの古ぼけたテントの中。
皆から誕生を祝福されたその赤子は、
一本のナイフを持っていた。
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