第38話 指先と指先

 渡瀬聡太は、幸代の指示に従い、タクシーをひろい、メモにかかれていた田園調布を目指した。

 時折、キャリーケースの黒猫を覗いたが、大人しいものだった。

運転手が、政治の話など話しかけてきたが、空返事をするだけで、気になるのは来人の事であった。


 田園調布の洋館


 聡太は、言われた通りの住所に着いた。

スマホで、確認するが目の前の廃墟同然の洋館で間違いはなかった。

 「ここだよな?いいのかな?こんな所で放して?」と疑心暗鬼であったが、黒猫をキャリーケースから出した。

 黒猫は、ケースから出て、2.3回脚で頭を掻くと、途端に〝ピクッ〟視線を洋館に向け、走り出した!

聡太は、「待て!」と黒猫を追い、洋館に入った。

 黒猫は、一目散に2階へ駆け上がり、扉が開きっぱなしの部屋へ入った。


 理沙は、来人の元へ戻り、まだ血の止まらない腕をハンカチで抑えた。

「アンタ!何者か知らないけど、下品で卑怯よ!」と実清に向かって叫ぶ。

来人は、苦しそうに「翔子‥」と絞り出すように、言葉を発する。

 

 そんな時、10数枚ある鏡の中から黒猫が出て来た!

 黒猫は来人の元に寄ると頭で足に擦り寄った。

「ティーノ‥」来人は自由の効かない左手で黒猫を撫でた。

 黒猫は突然、翔子の写る鏡に飛び込んだ!

そのまま、翔子の足元まで駆け寄った。

翔子は黒猫に気がつくと、「ティーノ!」と叫んだ!

ティーノは、また自分の入って来た鏡に戻る!

 翔子は、ティーノの姿を追い、鏡に写る来人に気がついた!

「来人!」と叫び、実清の腕を振り払い、鏡に走りよる!

 来人も「翔子!」と駆け寄る翔子に気づき、右手を鏡に伸ばす!

 「来人!私は生きてる!助けて!」と右手を鏡に伸ばす!

二人の指先が触れようとした瞬間、〝ビシッ〟鏡にひびが入り、鏡は〝パリン〟と割れた!


 黒猫のティーノは来人の右手を舐め、慰めているように見えた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

言霊の人 〝言った事がホントになっちゃうよ!〟 霞 芯 @shinichi-23

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ