第3話 お断り

 聡太は、卵を片し終え、奥で休んでいる来人の元へ行く。

 「店長!いや来人らいとさん!貴方は〝言霊の人〟だ!僕を有名ミュージシャンにしてください!」とソファで寝ている来人に詰め寄る。

来人は振り返り、暫く聡太を見つめ「やだね」そう一言言ってまた反対側を向いた。

「え⁈〝言霊の人〟の否定はしないんですか⁈」

来人は不機嫌そうに、また向いて「世間がなんで呼んでるかなんかどうでもいい、お断りだね」とメガネを外し見つめる。

その顔は端正な顔立ちで、その瞳には聡太にはかりしれない〝深み〟があった。

聡太は、「何でそんな〝言ったことが実現する〟能力を持っているのに、コンビニの店長やってるんですか?大会社の社長になるとか、インフルエンサーになるとか?欲はないんですか?」と問い詰める。

来人は「能力⁈そんないいもんじゃないよ、卵割らないくらいで大騒ぎするなって‥」とまたそっぽ向いた。

 暫く無言だった来人が、「望みを叶えるなら‥時を巻き戻したいね‥5年でいいから‥」そう言ってまた二人に沈黙が訪れた。


 ピンポン


 来客を知らせるチャイムが鳴り、聡太はレジに戻る。

 中年の男が汗をタオルで拭きながら、待っている。半袖のワイシャツは汗で透ける程であった。

「セブンスターの12ミリ、2個」と言って奥を覗き込む。

「今日は、店長いないの?」と聞いてきた。

「いえ、奥にいますけど」と聡太が答えると、

おもむろに警察手帳を出し、「柴山が来たと伝えてくれ」とまだ引かない汗を拭う。

聡太は、警察手帳を見て緊張した。

代金を受け取り奥へ走る!

「店長!警察です!警察!何かやったんですか⁈」と慌てるが、来人はかったるそうに起き上がり、「どうせ、柴山さんでしょ?」と言ってレジに向かう。

来人は、「ありがとうございました」と追い払わんばかりの対応をする。

「来人君、またちょっと頼みたいんだけど‥」と言いかけるのを制し、「お断りします」と手のひらを出し「〝生傷〟が絶えませんから‥」と伝える。

「いや、〝反対側のヤツ〟が絡んでいるとしてもかい?」と聞くと、来人は、斜め上に視線を向け、「確証は?」と聞く。

「6.4いや7.3はあるね」と柴山は答えた。

来人は、「ワトソウ君!閉店だ!」と渡瀬聡太に命じた。

聡太は、〝僕?〟と自分を指差した。

「とりあえず聞こうか?」と店の奥へ柴山を案内した。

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