第2話 割れない卵

  渡瀬聡太は、翌日昨日〝言霊の人〟の噂をしていた女性達のグループに近づいた。

 「昨日さ、聞こえてきたんだけどさ、〝言霊の人〟の噂してなかった?それ聞かせて欲しいんだけど、どんな人かな?」と恐る恐る聞いた。

女性達の中の一人が、「知りたいの?私もネットで見ただけだけど、ある男が〝車が飛び出してバイクが轢かれる〟ってボソッと言ったんだって!そしたら、目の前でその通りになった、とかね

あの人は、〝宝くじ当たる〟って言ったら、スクラッチやってた人が一千万当たった! とか、アタシはね、〝予言〟かな?とも思うけど、まあ噂よ」と話してくれた。

 「そうなんだ‥ありがとう」と呟いてまた、練習ブースに聡太は向かった。


 〝アップル〟伊勢佐木長者町店


 聡太は、翌日もバイトのシフトが入っていた。

深夜のバイトはキツイが明日も学校の予定は、午後からだったので入れた次第であった。

 あいも変わらず店長来人は片手上げて挨拶するだけである。

またマンガを読んでサボっている。

そんな、昨日と同じ繰り返しをしていると、少し違っていた。

派手な〝チンピラ〟のカップルが、トイレを借りにきたのである。

 〝アップル〟には、トイレが金庫の前を通らないと入れないから、お客には貸せないと言う事情があった。

「すみません!トイレは無いんです」といつものように断るとそのチンピラは「じゃあ、お前らは何処で済ましてるんだよ!俺の女がいきたいんだよ!トイレに!」とキレだした!

「すみません!お貸しできないんです」と謝ると、「このガキ!舐めてんのか!」とレジの前に積み上げであった〝ゆで卵〟を手に取り店内に投げつけた!

マンガを見ていた来人は、その騒ぎに気がつき、


 〝卵は割れない あの男は帰る〟と呟いた。


 聡太には、またステレオで聴こえてきた!

男は、次々に卵を投げる!

全て投げ終わると荒い息を吐き、「なんだこの店!」と言い残し女と帰っていった。

来人は、「気分悪いから、奥で休んでくるわ、卵、戻しといて‥」と言い残し奥へ入っていった。


 聡太は投げつけられた〝卵〟を拾いに店内で集めると、割れていたのは最初の一個だけであった!

「嘘だろ‥」そう呟きながら一個一個集める。

〝言霊の人〟その言葉が脳裏をよぎった。


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