言霊の人 〝言った事がホントになっちゃうよ!〟

霞 芯

第1話 言霊の人 kotodama

 渡瀬聡太わたせそうたは音楽の専門学生であった。

 年齢は19歳、ミュージシャンを志し、千葉から神奈川に出て一人暮らしをしていた。

 そんな聡太は、いつものように放課後個人練習の為〝ブース〟の予約を取り、暫く変えていなかったギターの弦をロビーで変えていた。

 ロビーでは、4.5人の女性達が噂をしている。

「え〜、そんなのただの噂よ!居るわけないじゃん

〝言霊の人〟なんて!いたら大金持ちの有名人よ!言った事が現実になるなんて!」と一人の女性が大声で言う。

「だから、噂だって!ネットで話題よ!あちこちであの事件やあの出来事は、〝言霊の人〟の仕業だって!」そんな噂話が聡太に聞こえてきた。

言霊ことだまの人〟そんな人がいたら、有名ミュージシャンにしてもらって、ギターの腕前上げてもらって、彼女作ってもらって‥そんな不純な欲望が咄嗟に浮かんだ。

聡太は、〝言霊の人〟なんている訳ないよ‥

そう思って、予約時間の来た個人練習のブースへ入った。


 コンビニ 〝アップル〟伊勢佐木長者町店


コンビニ〝アップル〟は、個人経営のしがないコンビニであった。聡太のバイト先である。

店長の佐倉来人さくららいとは30代の冴えないオッサンであった。

 結婚もしていない、彼女もいない、趣味はゲーム、収入もたいしてないであろう、親にあてがわれた店長のポジションは名ばかりで、実質は、深夜担当の店員である。

髪は長髪を束ね、メガネをかけていた。

 来人は無口であった。

自分の事は殆ど何も言わない。

唯一、クラッシュオブクランと言うゲームの話題だけには、食いついてくるのであった。

 今晩は、そんな店長来人がパートナーであった。

22時ギリギリに聡太はバイト先に入る。

来人はただ、片手を上げ挨拶をした。

コンビニ〝アップル〟の周りにも、有名なコンビニのチェーン店は多数あったが、〝アップル〟は何故か潰れないのである。

 それは、毎朝、店の奥で来人の両親が作る〝惣菜〟が関係しているのかもしれなかった。

その〝惣菜〟は人気で、昼までには売り切れるほどであった。


 そんな〝アップル〟で聡太がレジに立っていると、一人の女子高生が万引きをした。

聡太は、その女性が化粧品をカバンに入れるのを見た!

聡太は、マンガを読みサボっている店長来人に「万引きですよ店長!」と報告する。

来人はマンガを置き暫く女子高生を観察する。


 〝あの娘は万引きをしない〟


 聡太は、そう言う来人の言葉に耳を疑った!

その言葉は、聡太にまるでイヤホンでもしているかのように〝ステレオ〟で聞こえたのである。


 女子高生は、先程万引き未遂をした商品を結局レジで会計した。

聡太は、女子高生がカバンから、カゴに化粧品を戻した事に驚いた!

来人は、「ありがとうございました」と虫の鳴くような小声でいい放置されたレシートを片付けようとした。

 来人はそのレシートの端で指先を切ってしまった。血が滲む。

 「だから、嫌なんだよ」

そうポツリと言うとまたマンガを読み出した。

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