第25話

指定された喫茶店へ向かう途中。商店街。


 この辺はシャッター街となっており、多くの店舗がシャッターを落としていた。少し寂しさを覚えるような風景の場所。そこを二人で歩いて向かっていた。


(この辺りは来るのは初めてだな)


 非常に興味深い場所だ。我が国では考えられない。大通りに面した店舗が空き家のままでいることなど無い。店舗は売りに出され新しい店が出る。そうして街が循環をしていた。

 だがこの街は人気もなく、恐らく店舗を売りに出さなかったのか。未だに古い看板がついた状態を保っている。


どういう状況になれば、こういうことになるんだ。


 不思議である。一度しっかりと調べる必要がありそうだ。我が国も将来こういったことになるかもしれない。その時の反面教師とさせて貰おう。そんな風に満足して歩いていると、前に集団がたむろしている姿が見えた。


「お! よーうハルト。こんなところで何してるんだぁ?」


 集団はまるでこれから喧嘩でもしに行くように武装をしていた。バットや棒などを持っているやつもいる。


「俺は、ボスに喫茶店に呼ばれてるんだ。通してくれないか?」


「ハハッ! お前ら聞いたか? こいつはこれからボスに会うらしいぞ。だけど俺には、こいつにそんな資格がないと思うんだが、どうだ?」


「は!? なんでボスに会うのに資格がいるんだよ」


「お前みたいな根性なしが、ボスに会うなんて片腹痛いんだよ! どうしても会いたいっていうなら、俺たち全員を倒してからにしな!」


「ふ、ふざけんな!」


なるほど。


 こいつらはラスボスに会う前の雑魚敵ということか。最近バンブーに進められてやり始めたパンドラクエストのストーリーみたいじゃないか。粋な計らいをしてくれるものだ。


ただ彼の発言には、どうしても許せない部分がある。


「聞き捨てならないな。少年が、根性なしだと?」


「は? なんだてめぇは」


 残念ながら少年はもう根性なしではない。私と共に訓練をやり遂げた彼は、きっとこのクエストもこなしてしまうだろう。だけどもしここでHPを減らしてしまっては、この後のラスボスとの戦いに支障が出てしまう。


「うわぁぁぁあ! お前は! まさか、黒い彗星!」


 もしここにバンブーがいたなら、きっとそのダサい二つ名に突っ込みが入っただろうが、この場にそれを突っ込む人間はいなかった。


「たった二人で俺たち10人を相手にした、河川敷の悪魔だ!」


「なんだと、こいつが……? ふん。だが今回は30人はいる、その時の3倍だ。3倍もいればこいつだってボコボコにできる」


「た、確かに。如何に黒い彗星だって、3倍には勝てないぜ……!」


黒い彗星。


 なんかかっこいいな。今度からそう名乗っていこうか。今度バンブーにも教えてやろう。きっと二人で黒い彗星のはずだからな。あいつも喜んでくれるだろう。


「少年。いやハルトよ。ここは私に任せて貰おうか」


「タカシさん! 大丈夫ですか」


「ああ、任せろ。ここは私が片づけておくから、先にいくといい。君にはやることがあるだろう」


「――ありがとうございます! タカシさん、お気をつけて!」


そういって駆け出す彼の背中を見送る。


振り返ると、既に戦闘態勢をとった30人。殺気だった目でこちらを睨んでいた。


ポキリ。ポキリ。と、指を鳴らしながら私は血が沸き立つのを感じた。久しく感じていなかったこの高揚感は、まるであの戦場に立っていた時と同じようで、あの頃を思い出させる。


「さて。じゃあ、死にてぇ奴からかかってこい!」


「なめるな! いくぞお前ら!」


うおおおお! という掛け声と共に彼らの戦いは火ぶたを切った。

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