第24話
「時間は今日これからだ。場所はいつもの喫茶店で待っている。いいか? 今日中に来いよ」
「え、いやでも。なんでボスと」
「うるせえな。相手は俺が決める。お前の相手は、俺がふさわしいと俺が判断した。反論は認めねぇ」
「そんな……」
ふむ。
相手は組織のトップか。少年の様子を見ている限り、勝つことはかなり絶望的なのだろう。しかもタイマンとくれば策略や運で勝つのも厳しい。中々に難しい卒業試験ではないか。
電話が終わり、項垂れている彼に私は声をかける。
「良かったじゃないか、少年よ」
「な、なにがですか! これ絶対俺に抜けさせる気ないやつですよ!」
完全に諦めモードだ。駅に備え付けられている椅子の上で、頭を抱えている。
そもそも少年が、どういう志を持ってチームに入ったのか。そして今回どうして抜けようと思っているのかは知らない。
なにか入らないといけない理由があったのかもしれない。それでも、チームに入ろうと思ったのは自分自身の選択なのだ。その責任を負うのは、残念ながら自分自身だ。
(とは言っても、彼はまだ少年だ)
彼が大人で。責任のある立場だったのなら、自己責任だと見捨てる選択だってあった。だが彼はまだ子供で、間違えることもあるだろう。そんな時は、まわりの大人が助けて道を示してやるべきだ。
「対戦相手はチームのボスだということは、よっぽど君に抜けて欲しくないと思われているか、もしくは君に期待をしているのだろう」
「……」
「男を示す晴れ舞台だ。そんな機会はずっと生きていた私でも早々ない。君は今そんな場面に立たされているんだ。君に残されている選択肢は、ボスのところに行って辞めるのを取りやめるために頭を下げることか、それともこのチャンスを生かして男を示すか。どっちだ?」
「俺は……」
人間関係とか、自分の強さとか、相手の強さとか。いろんなことに惑わされてるけど、結局大事なのは自分の意思だ。
「俺は……タカシさんみたいに強くないし。ボスに勝てる見込みだってない……だけど、一度決めたことを頭を下げて取りやめるなんて、カッコ悪いこともしたくない……!」
「なら答えは一つだな」
「……タカシさん。俺、ボスのところにいって派手に散ってきます……!」
かっこいいぞ、ハルト!
人間は生きてて大きな決断をするときが一生に何度かある。どんな選択を選んだとしても他人に選ばせれば後悔をする。
そんな大きな決断を彼は、彼自身で決めたのだ。
「弟子の門出だ。私も見守らせてもらうぞ」
「――はい! ありがとうございます」
私たち二人は、駅から指定された喫茶店へ歩きだした。
◆◆
ドアを開けると、カランカランという小気味の良い音が店内へ響き渡る。
ドアを開け店内に入って来た人物は、奥で偉そうに座っている男に話しかける。
「ちょっと。話があるんだけど」
「あ? 誰かと思ったらカスミじゃねーか。どうした? よりでも戻しにきたのか?」
「冗談は、顔だけにしてくれないかしら」
男はヘラヘラと嘲りながら話しかける。こういった浮ついた態度が嫌いで、この男は振られたのに、そのことに気付かず高校生にもなって未だに子供みたいなことをしている。
家族のためとはいえ、一時期でもこんな男と付き合っていたなんて、人生の汚点だ。
「ククク。別に冗談じゃねーんだが……なにしに来たんだ?」
「うちの弟にちょっかいかけるの辞めてくれないかしら。迷惑なの」
「別に俺は何もしてねーぜ。あいつはあいつ自身が、チームに入りたいっていうから入れてやったんだぜ」
「白々しい……!」
こいつの手口はいつもそうだ。小さな村社会では親の仕事によって、その地域のカーストが大きく決まる。うちの親も決して低いわけではないが、こいつの親は市議会議員のお偉いさんだ。中学の頃は、それはそれはヤンチャをしていた。
(なんて狭い世界だったんだろう……)
高校生になり、少し外に足を伸ばせば別にただの市議会議員に大した力なんてない。それでも村の中では一定の権力があって機嫌を損ねるとクラスの中でいじめがある。だからこそ勉強を頑張り、こいつのいない高校に進んだまでは良かった。
だからこいつは弟に手を出した。まだ世界が狭い中学生を狙って。
「……おい。やれ」
「あ! この! 辞めなさい!」
「いてっ! こら! 脛を蹴るな!」
後ろに控えていた男たちが彼女を羽交い絞めにされ、縛られ、口元は布とローブで結ばれる。男の一人はよほど痛かったのか脛を抑えて「くぅぅぅ……」と唸りながらうずくまっていた。
「んっーーー!」
「ったく。女が一人でこんなところに乗り込んで来るなんて、不用心だな」
キッと睨みつける。
「安心しろ。この後きっと、お前の弟がここに来るはずだ。それで俺に勝てれば無事ハッピーエンド。チームも抜けれる」
は? なんでハルトがこの場所に来るの!?
声に出そうとした言葉は塞がられた口で喋ることができない。加えて少しずつ眠気が襲ってくる。
(まずい……寝ちゃダメだ……)
意識すればするほど、意識が少しずつ遠ざかっていく。
「ま、俺に勝てればの話だけどな。もし負けちまったら……そうだな。お前に責任でも―――」
彼が話し切る前に、私は意識を落とした。
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