第23話
険しい山道。
とは言っても踏み慣らされた獣道だ。雑草もなく、道に迷うこともない。光だって差しており足元も明るい。勿論、獣やモンスターも出ない。
あるのは己との戦いだけ。
そうしてようやく山を登り切った時には、12時をまわっていた。
初登頂にしては上出来だろう。私は心の中で拍手をする。
二人で頂上の見晴らしがよい場所へ移動する。そこで達成感を味わってもらいたい。
「どうだ。(補給の大切さを学ぶのに)いいだろう?」
「はい。とても(景色が)いいです」
よし!
一番大切なところを、彼は学んでくれたようだ。
「行軍は(精神が)鍛えられるからな」
「はい、とても(体力が)鍛えられました」
大事なことを学べ、更に精神まで鍛えられるこの訓練は、この世界でも通用するようだ。また新人を育てることがあったら、山に連れてこようと心に誓う。
「ここで鍛えられた君は、きっと隊のトップとも対等に戦えるだろう。辛い時は今日の訓練を思い出すんだ」
◆◆
「登山って下りがきついんですね……」
足もガクガクだ。
電車に乗って、座ったことで疲労がドッと押し寄せる。普段から運動なんて体育の授業くらいしかしてない俺は、今日の登山でクタクタになっていた。
「戦いが強いだけが、強さではないってことだ。力量も、体力も、精神力も、全て揃ってようやく強さになるんだ」
「なるほど。深いですね……」
心技体というやつだろうか。できれば最初は技から教えて欲しかったが、こういった甘い考えを見抜かれていたのかもしれない。
ガタリ。ガタリと電車に揺られながら、先ほど登り切った山を窓から見上げる。まずは体力をつけよう。そう心に決めた。
駅に電車が到着する。何故かタカシさんも一緒に降りてきた。
「あれ? タカシさんは、もう2つ、先の駅じゃないですか?」
「なに!? しまった、何も考えずに一緒に降りてしまった!」
「ははっ。じゃあホームで少し待ちますか」
「すまないな……」
少しおっちょこちょいなタカシさんを見ていると、この人があの不良たちを一掃した人と同一人物には見えない。普段はとても温厚だが、いざ戦いだすと笑いながら相手をバッタバッタと倒していた。
その様子を見て、誰かがあだ名をつけていた。
「そういえばタカシさんのことを、俺たちの間では――」そう言いかけたところで、ブー!ブー!とスマホが鳴った。誰だ、と画面を見ると『ボス』という名前が書いてあった。
「あ、タカシさん……」
「出るといい」
「すみません……」
俺は応答のボタンを押して電話にでる。「もしもし」というと相手から声が聞こえてきた。その声はスピーカーにしていないのに、やけに大きく響く。
「おう、ハルトか。聞いたぜお前、チームを抜けたいんだってな?」
「あ、はい。そうです……」
誰かが漏らしてしまったのだろう。正直まだ抜けられるほど実力もないので、ばらさないでほしかった。
「知ってると思うが、チームを抜ける場合は俺が指定した相手とタイマンで戦って勝たないといけない。知ってるな? 喜べ、その対戦相手が決まったぞ」
「あ、そうなんですか。誰に――」
「俺だ」
一瞬思考が止まる。
「喜べハルト。ボスである俺が直々に相手をしてやる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます