第22話
数日後。
「お待たせしました、タカシさん!」
翌週の日曜日の午前。私たちは、隣町の駅で集合をした。
既に連絡先の交換をしていた私たちは、姉のカスミの目をかいくぐって会う約束をしたのだった。
「大丈夫だったか?」
「はい。友達と遊んでくるっていって、抜け出してきました。恰好もいつも通りで良いってタカシさんが言ってくれたので、特段怪しまれずに出てこれました」
彼の服装は季節にあった服装で、特段これから特訓や、喧嘩をするようには見えない。それが功をなしたようだ。
しかし彼の体をみていると、病弱だったというカスミの情報もあながち間違いではないかもしれない。
(線が細いな)
足や腕も細く、女子となんら変わりないその姿。戦場に出たら、きっと真っ先に死んでしまうタイプだろう。
「安心したまえ少年よ。私の訓練を受ければ、君が戦場に出ても死なない程度には鍛えてあげよう」
「せ、戦場……」
ゴクリ。と唾を飲み込む。
こう見えて今まで新人教育は幾度となく行ってきた。その時と同じようにやればいいだけだ。
「よし。ではこの荷物を持って山に向かうぞ」
「はい――!」
私と彼は、それぞれ30kgはあるだろうリュックを背負い、山へ向かって駆け出した。
◆◆
「ハア……ハア……ハア」
「ほら、頑張るのだ。まだ三分の一も踏破していないぞ」
「ハア……ハア……ハア」
山登りを開始してから10分もたたないうちに彼は無言になった。やはり基礎体力がないのか、既に顔は真っ赤で、汗がポタポタと垂れている。
「ハア……ハア……すみません。そろそろ……限界が」
「ふむ。仕方ない。5分程休憩しようか」
そう言い終わる前に彼は、登山道の横にそれ、座り込んでしまった。
「リュックの中に水が入っている。休憩中に補給しておくといい」
「ハア……ハァ……はい……」
懐かしいな。新人の頃はこうして行軍をさせられたものだ。
時にはこうした険しい道を通って、味方に補給物資を届けないといけないときがある。そのため、新人のうちにこうした山道を登る訓練をする。補給部隊に対して軽視をしたり、前線じゃないと蔑んだりするやつもいるというが。我が隊ではそういったことはなかった。
それもこの新人研修で、補給部隊の辛さを知ることが出来るからだ。
補給は長く戦場を駆けるための要だ。
そのありがたさを身に染みて感じることができるこの訓練は、我が隊の新人教育の通例となっていた。
強い体や敵と戦える技術も大事だが。まずは心。心を鍛えることで、戦場でも怖気ずに戦うことができる。
「そうこれは、メンタルの修行なのだ」
「いや。体力の修行ですよ。これ……」
ようやく息が整ってきた彼はツッコミを入れた。体力がつく、そういった側面もあるのも認めるが、それは本質ではない。きっと彼は登頂した後に、そう思えるだろう。
(今はまだ、そう思っているといい。ふふ、それがどう感想が変わるか。それが楽しみだ)
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