第21話
「弟子だと?」
「はい! 俺、強くなりたいんです!」
「――!」
彼の言葉に感動する。
久しく聞いていなかった「強くなりたい」という言葉。故郷ではよく耳にしていたが、この世界ではトンと聞かなくなっていた。それがまさかこの若者から聞けるとは。
ピコンっ!
①弟子を取る
②弟子を取らない
ええい! そんな選択肢などでなくても答えは決まっている!
「いいだろう。私の修行は厳しいぞ」
「はい!」
「いやまず事情を聞けよ」
なんだバンブー。いたのか。
「しかし、この少年が鍛えて欲しいといっているのだ。その期待に応えてやらねばならんだろう」
「で、何で強くなりたいんだ」
「おい、無視をするな」
最近のバンブーは、こうして私のセリフを無視することが多い。なんだその不満そうな顔は。
「実は俺、今入ってるグループを抜けたくて……ただ俺弱いんで、抜けた後が……」
「あ、あぁ~。この前の河川敷のやつか」
「はい……」
どうも事情を伺うと、元からあまりそのグループには入りたくなかったようだ。ただコミュニティが小さい田舎では、大きなグループに属さないと生きていけないこともある。
そのコミュニティからの脱却を願って、強くなりたいか。
「それって、強くなったら抜けられるもんなのか?」
「はい。実は今のボスがそういう方針で。抜ける時にボスから指名されたやつとタイマンをして、勝てれば足を洗えるそうです」
「よくあることだな」
「いや、ないだろ」
我が隊でも、隊を抜ける時に選別として、最後の戦いをする仕来りがあった。
結婚で、後方に配属を希望して抜けるもの。
怪我で前線に立てなくなり、最後の手向けとして戦うもの。
理由は様々だが、隊に在籍することができなくなったものたちのための、最後の晴れ舞台だ。
「いいだろう。私が、最後を華々しく飾れるために、お前を鍛えてやろう」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「お前、絶対分かってないだろ」
なにをいう。私ほど隊員を見送ってきた男はいないぞ。感じないのか、この少年の心意気を!
「ハルト! なんでここにいるの!?」
予定を立てたところでカスミが私たちの前に現れる。カスミは先ほどまで話をしていた少年の腕を掴む。
「ね、姉ちゃん!」
「何してるの、ここには来ちゃダメって言ってるでしょ」
キッ。とこちらを睨むカスミ。
何故か怒っているのだけは伝わってくる。
先日のタコパで仲良くなったと思っていたが、勘違いだったか。
「そういえばタカシ君、聞いたよ。ヤンキーとやり合ったんだって。悪いんだけど私、暴力的な男性って嫌いなの。弟にも近づかないでくれないかしら」
「ね、姉ちゃん! タカシさんには俺から――」
「ハルトは黙ってて! いい? タカシ君。ハルトは元々体も弱かったから、そういう暴力的なことから、ずっと離れて暮らしてたの。だから貴方とは合わないのよ。分かってくれるかしら?」
まくしたてるように説き伏せようとする彼女。なにか彼女の琴線に触れることがあったのだろう。
経験上、ここまでヒートアップしている女性は、何を言ってもダメだろう。「分かった」という了承の言葉を残して、私たちはその場を去った。
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