第19話

学生は所属するグループが、とても大事である。


 特に田舎では、親が市議会議員とか、この辺の地主の息子とか。親の権力次第で子供の立場も大きく変わる。


「ハルト! 先にいくぞ!」


「あ……ああ分かった!」


 今日も先輩のパシリ。先輩が置いていった荷物を抱えながらグループについていく。幸いなことにうちの親はそこそこの資産を持っていたので、イジメられるようなことはなかった。

 だけど、こうして先輩には目を付けられるぐらいには、親の権力があった。


(まぁ……今日のやつよりマシか)


 今日はどうも、電車で先輩と喧嘩したやつの粛清をするらしい。お昼過ぎに連絡が来たときには衝撃を受けた。まだこの街に俺たちに喧嘩を売るやつがいたなんて。


その場所につくと、既に粛清対象が先輩に囲まれていた。


(うわぁ……これだけの人数に囲まれて、よくまだ虚勢を張っていられるな)


 過去に一度粛清の現場を見た時は、殴打に切り傷、髪も乱雑に切られ、裸で土下座をしているやつもいた。今時、こんな横暴が許されるのかと思うが、メンバーの中に警察のお偉いさんの息子がいるらしく、よほどのことがない限りもみ消せるらしい。やだね、田舎の世界は狭くって。


「うわああああああああああああ!」


「あ」


一人、バットを持って乱入してきたやつがいた。


「……すご」


 この状況で仲間が一人増えたところで状況は変わらない。それどころが粛清対象が一人増えただけだっていうのに。


この空間に割って入れる。そんな友人。


勇気か、蛮勇か。


でもこうして遠目から見る二人は、とても輝いて見えた。


そんな光景に、俺は少しだけウルっとくる。




だけどそんなことより、その後のほうがやばかった。




 次々と迫っていく先輩たちを、まるで赤子のようにひねっては投げ、あしらっているあの男。


「おい……なにが起きてるんだ」


「わからねぇ……」


次々と、積み上がる先輩たち。


「ぐえっ!」


と、先輩の上に先輩が積み重なり。どんどんと死屍累々の様子。


俺たち中学生組は、そんな様子をただ茫然と見つめていた。


……


「お前たちもやるか?」


 ブンブンブンと勢いよく首を振る。既に立っている先輩はおらず、粛清対象の二人がこちらを向いて聞いてくる。

 先輩が束になって勝てない相手に、俺たちが戦えるはずがない。


「そうか……」


少し残念そうな粛清対象。そんな顔をされても嫌なものは嫌だ。


「じゃあ私たちは帰るが……こいつらの処理は任せていいかな」


「――は、はいっ!」


す、すげぇ。


 これだけの状況を作り出したのに、まるで新人をあしらった熟練のボクサーのように立ち去るその背中に、思わず俺は声をかける。


「あ、あの!」


「ん?」


「お名前は! 名前はなんていうんすか!」


その男は先ほど脱ぎ捨てたブレザーを肩に担ぐ。


 夕日が差し込む河川敷。こちらに背を向けながら、男はニヒルに笑いながらこういった。


「タカシだ」

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