第18話

「ごめんなさい、遅れたわ」


 そういって到着したカスミ、と呼ばれていた少女だ。他にも何名かいるが、名前が分からない。A子とB子と名付けよう。


「全然大丈夫だよ。こいつらが、早く来過ぎただけだから」


私は、トンッ。と肘でバンブーをつつく。


「いやお前のせいだからな。肘でつついて、なに俺のせいみたいにしてるんだ」


「なに? そうなのか?」


しかし、これを機にクラスメイトと仲を深めておくのはありだろう。何かあった時に仲間との結束力は、たとえ相手の戦力が上回っている時も、強い力となる。


「そうだ私、クッキーを作ってきたの」


そういって、菓子を取り出すカスミ。ほう、クッキーとな。


「お、いいね。もらい」


「ちょっとあんたら。今日のメインはたこ焼きだからね?」


クッキー。


 それは私もかつて祖国で食べたことがある。それはどちらかというと保存食という扱いで食べていた。

 携帯性が高く、行軍中でも割れたりしないよう固く作られたそれは、どちらかというと不人気だった。好んで食べる者もいたが、私はどちらかというと燻製肉など、食べてすぐエネルギーに変わるようなものを好んでいた。


「どれ、私も一枚貰おうか」


「どうぞ」


ふむ。見た目は祖国のものと大差ない。少し割れやすそう、というくらいか。匂いを嗅ぐと香ばしい匂いがするが、これは罠だ。私も昔この匂いに釣られ食べたクッキーは、味も薄く、ぱさぱさとした食感、何より口の中の水分を根こそぎ持っていかれた。


パキリ、といういい音、ボリボリ、ごくん。


こ、これは――!


「――バカな!!!」


「うおっ。どうしたタカシ」


「サクサクとした食感に、甘さ控えめながらしっかりと主張をしてくる優しい甘さ。そしてバターの風味が口当たりをまろやかにし、ついつい次のクッキーに手を伸ばしてしまう中毒さ。シンプルなのに奥深いこの菓子が、クッキーだと!?」


「なんだそれ、褒めてるのか?」


「ああ。私は今、驚愕している……」


 タラリと額をつたう汗。母の料理もうまいと思っていたが、まさかこれほどの料理に出会うとは。恐るべし日本。

 この菓子を作ったというカスミをチラリとみると、笑っているのか、恥ずかしがっているのか分からない表情を浮かべていた。


「やるな、カスミ。お前の勝ちだ」


「ええ?」


敵ながら天晴である。


……


「うまっ!」


「……私のクッキー。こんな料理を作れる人に褒められたの……?」


私の料理を食べて貰ったら好評だった。

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