第17話
「タコパをしましょう」
と、ある日の学校にて。名が分からぬ少女が、そのように提案した。
「どうしたんだ急に」
「最近、流行っているじゃない。だから私もやってみたくなったのよ」
タコパ。
名前だけ聞くと陽気そうなイベントだ。この世界について少しでも知ることが、謎の解決に繋がる可能性がある。こういうイベントには積極的に参加するべきだろう。
「私もその、陽気そうなイベントに参加しても問題ないか」
「安心しろタカシ。別に陰キャでも参加できるイベントだ」
「参加資格が必要なイベントもあるのか……」
改めて、まだまだこの世界について知らねばいけないことが多いことを実感するな。
「じゃあ土曜日に、食材を持って私の家に集合ね!」
……
土曜日当日。
私とバンブーは食材を買いこみ、サクラの家に向かっている。
「大分色々と買い込んだな」
「ああ。料理イベントと聞いたのでな。私の得意料理を披露しようと思っている」
「タコパはたこ焼きを作るんだぞ?」
あいにくと私はその、たこ焼きという料理について知らないので戦力になりそうにない。代わりといってはなんだが、別の料理で皆を接待しようと思っている。
そうバンブーに伝えるとため息交じりにバンブーは答えた。
「なんで来たんだよ、タコパに」
そんなやり取りをしていると、予定の時間よりも1時間ほど早く少女の家に着く。表札には『山田』と書かれていた。
(少女の名前はヤマダか。まさかここで知ることになるとは)
バンブーが家のインターフォンを鳴らし、ヤマダが出迎えてくれた。普段は制服を着ているため私服のヤマダは少し新鮮だった。
「……大分早いね」
「ああ、バンブーが張り切ってしまってな」
「食材の量的に、張り切ってるのはお前だけどな!」
それはそうだろう。
ようやく、私の得意分野を披露する状況になったのだ。
「台所を借りるぞ」
中に入り、リビングに通された私たちは思い思いの準備をする。あとから他にも友人が来るらしいが1時間も早くきたのは私たちだけだった。
私が調理するこの料理は、行軍中に良く食べていたもので、何より簡単に作れるため重宝していた。
まずはニンニクを潰して、オリーブオイルで炒める。弱火でじっくり炒めることで旨味が引き出される。
良い香りが出始めニンニクが色づき始めたら、ニンニクを取り出しカットしておいた野菜を入れて中火で炒める。
そしてここで大事なのが『Clous de Girofle』という香辛料だ。
祖国の味を引き出すため、スーパーを巡り探し出したこの香辛料は、この料理の肝となる。
「ここで『Clous de Girofle』をタマネギに差し込み、胡椒や塩などの調味料も一緒に混ぜる!」
「え? なんだって?」
続いて白ワインを入れて、軽く一煮立ちさせたら、アクが出るので丁寧に掬っていく。
そのまま、30分。
最後にソーセージを入れたら、再び10分ほど煮込めば完成だ。
「待たせたな」
「いや、待ってないけど?」
「なんでタコパで本格的な料理を作ってるの?」
「私の得意料理を二人に食べて欲しかったからだ」
……
私の料理を食べた二人は、なんとも言えない顔をしていた。
「悔しいけどおいしいわ」
「そうだろ」
「ぐぬぬ……!」
苦虫を噛んだような表情をしながら、悔しがるヤマダ。
「家ではあまり家事をやらせて貰えなかったが、唯一この料理だけは良いと妻から許しを得たからな」
「――妻ァ!?」
「ああ、10歳になる娘もいるぞ」
「何歳の時の子供だよ!」
祖国にいた妻と娘は元気だろうか。いや、そこは祖国へ帰した仲間を信じよう。きっと祖国を、家族を守ってくれたはずだ。
料理は、おいしく食べて貰えたようで、私も満足だ。
(ちょっと、妻ってどういうことよ……!)
(そういう設定のやつってことだろ)
(なによそういう設定って!)
こそこそと話すバンブーとヤマダ。話している内容は聞こえないが、話している内容は推測できる。料理を食べて話し合うことなんて一つだけだ。
(私の料理のうまさに感想を言い合っているのだな!)
『隊長、なんでそんな見た目でこんな繊細な料理を作れるんっすか』
なんて祖国でも言われてたからな。そういわれた時は、決まって帰すセリフがあった。
「私はこう見えて、繊細な男なんだ」
二人は更に渋い表情をした。
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