第16話

私たちは元々、一緒につるむような仲ではなかった。


 小学校から中学校にあがり、田舎の学校ではよくあるのだが、少子化のため何校かが一緒となり中学校にあがる。


私と彼らの小学校は別の学校だったため、中学校で初めて会った。


些細なことがキッカケだった。


 私はクラスのリーダー格の女子にいじめにあっていた。無視されたり、靴を隠されたこともあった。


「やだサクラ! お弁当の中身がちょっと茶色すぎじゃない?」


 その日、久しぶりに声をかけてきたリーダー格の子。今日は給食が出ないためお弁当を持ち寄る日だった。


「……あ。きょ、今日はお母さんが忙しくて、私が作ったの……」


「ええ、そうなの! すごーい。でももう少し栄養バランスとか考えたほうがいいんじゃない? このお弁当、まるで小学生の男の子のお弁当みたい」


大きな声で、クラスに響き渡るように。


カァッ。と顔が熱くなる。


クラス全員の視線がこちらに向いている。


クスクスと、こちらを見て笑っている取り巻き。


 久しぶりに話しかけられて嬉しかった気持ちは、もうどこかに行ってしまった。今は少しでも早く、この時間が過ぎ去るように、下を向いてジッと耐える。


ガラァッ。ガシャン!


ドアを激しく開ける音、勢い余ってドアが壁にぶつかり大きな音を立てた。


「すいません! 遅れました!」


「いやお前、もうお昼だぞ」


遅れてやってきたのは、中学校から一緒になったタカシだった。


みんなの視線が、大きな音を立てたタカシに向かう。


ホッ、と一息をつく。


心の中でタカシにお礼を言っておく。


「いやぁ今日、親がいなくて。焦ったわ、起きたら12時過ぎてたから」


「目覚ましくらいかけろよ」


「うちの目覚まし。いつの間にかオフになってるんだよ」


みんなが彼らの会話に耳を傾けている。


 周りを気にせずマイペースで会話を続ける彼らが、少しだけ羨ましい。私もあれくらい図太くなれば、こんな思いをしなくても済むのだろうか。


「まてタケシ。それはなんだ……!?」


「弁当だよ」


「聞いてないぞ!」


「そんなわけないだろ」


「くそっ。朝から何も食べてないから、給食だけでもと思って急いできたのに……」


「この時間に来たの確信犯かよ」


「はぁ……まじかよ」


頭に手を当て、項垂れるタカシ。


「あらタカシ君。なら丁度良かったわ」


「ん?」


 リーダー格の女子が声をかける。彼女が話しだすと何か嫌なことが起きるのではないかと、ドキリとする。


「丁度サクラの料理が、男の子っぽいって話をしてたの。全部食べたら太っちゃうから、食べてあげてくれないかしら」


「いいのか!?」


ほら。嫌なことだった。きっと彼女は私の料理を笑いものにしたい。でもここで断わると、色々とカドが立つ。


「……どうぞ」


「ありがとう!」


ひょい、ぱく。


箸を渡す暇もなく、手づかみで食べ始める。辞めて欲しい。


「それ、サクラが作ったみたいなの。どうかしら味は――」


「うまい!」


「……そう」


「凄いな。これ自分で作ったのか。また作ってくれよ!」


「え、うん……」


 彼との初めての会話はこれで終わり。でもそれから彼は、ちょこちょこと話しかけてくれるようになって、イジメも飽きたのか、自然と無くなっていった。


「ところで俺、まだ食べ足りないんだけど。お前のお弁当からも、何か貰っていい?」


「わ、私のお弁当はママが作ってくれたやつだから」


 いじめの次のターゲットがタカシに移ったようだったが、彼は全くダメージを受けていなかった。


高校に進学して、無事イジメの主犯格とは別の学校になれた。

 でもきっと、私の性格が少し変わったのは、あのときの出来事がきっかけだったと思う。


私はその日から、自然と彼を目で追いかけるようになった。

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