第14話

街の中心地。そこはあらゆる情報が集まる場所。


 最近の出来事や、社会情勢などは、こういった人が集まる場所に情報も集まりやすい。酒場なんかで情報収集をするのは鉄板で、酒で酔った勢いで口も良く回り、とびきりの情報にありつけることもある。


今回は、そこにはいかない。


 今回探るのは歴史だ。そのため、口コミや噂などは参考にならない。ちゃんとした文献を頼りに、ちゃんとした記録として残っているものが必要になる。


「ここが、この街唯一の図書館か……」


 どこの国でも首都にはこうした、大図書館というものがある。活字になじみがない田舎の人間には無縁の世界だ。そんな図書館だが、それなりに人も入ってるようで、この国の識字率の高さに驚きを隠せない。


「今時調べもので、図書館にくるやつも少ないけどな」


「まあいいじゃない。私も受験ぶりだけど、図書館の雰囲気は好きだよ」


同行者はバンブーとヤマダだ。


 先日の歴史の授業で、同郷のものがいたことを伝えた私は、デパートメント=S=ストアについてもっと調べるべきだと判断した。


その旨をバンブーに伝えたところ。


「ネットで調べればいいじゃん」


と言われ、彼の操作のもとネットを使ってみたのだが、思ったより操作が難しかった。


(若い世代は新しいものへの適応が高いという)


 私も30代を迎え、中々新しいことへ腰が重くなる。操作を必死に覚えようとしたが10分で断念した。

フリック入力が私の動きに付いてこれないのだから、仕方ない。


「やはり人は、活字と共にあるべきだろう」


「またおっさん臭いこといってる」


 ヤマダの心無い言葉が胸に刺さるが無視を決め込み、図書館へ足を踏み入れた。

ドアを開けた瞬間、涼しい風が頬を撫でる。


 適度に涼しさが保たれたその室内は、本を保管するうえで大切なことなのだろう。それだけにこの図書館にかなりの金がかけられていることがわかる。


入り口には受付の人間が座っていた。


私は迷わず、目の前にある受付のもとへ向かう。


「どうされましたか」


「失礼。ここの入館料はいくらかな」


「無料に決まってるだろ!」


信じられない。これだけの施設を無料で使えるのか。この街の領主はよほどの善人か、よほどのバケモノか。


 本は貴重品として扱われていた私の国では、本を盗んで売ったりするやつもいた。扱いだって悪く本の劣化が激しいため、国で運営されていながら入館料を取っていた。こうして無料で入れる施設は、他国でも聞いたことが無い。


……


デパートメント=S=ストアが生きた時代。


 その時代は戦乱の時代だった。各所で戦争が起き、隣の国同士、果ては内部での争いも激化。そんな中に訪れたのが彼である。

 彼は恵まれた体格と、場慣れした戦闘感覚で次々と敵を倒し、仕えていた王を勝利へ導いたとされている。


 その戦い方は現世にあっても革新的で、彼の戦い方は天候すらも操ると言われていた。


 まるで別の時代から来たかのような知識や戦い方から、彼は『時空の旅人』と呼ばれ、その時代を生き抜いた。


「……妙だな」


「なにがだ」


 参考になりそうな本を手に取り、席で読んでいたところ奇妙な記述を見かけて独り言をつぶやく。


「この天候を操る。という記述が妙でな……我が国において魔法を使えるのは貴族の血筋だけだった。デパートメントは確か、平民の出だったはず。なぜ天候が操れるのだ」


「ああ。たまにあるな天候操るやつ。有名なところだと諸葛孔明とか」


「――他にも天候を操れる人間がいるのか」


 もしかしたらその、諸葛孔明とやらも我が国から転生した人物かもしれない。しかし平民の出だったデパートメントが魔法を使えるようになっていたとは、転生した際に何かあったのか……?


「……そうか、血か」


 転生とは生まれ変わりだ。つまり血筋が生まれ変わったのだ。転生先がたまたま魔法を使える血筋で『使ってみたら使えたわ~』みたいな感じかもしれない。

 私と同じように、元々は別の個体として生きていた者が、突如記憶をデパートメントの頃の記憶を取り戻し、戦場を駆ける。うむ、この線が濃厚か。


ん? いや、しかしそれだと名前が同じのは何故だ。


うーん、謎が深まるばかりだ。


 それに天候を操れるほどの大魔法となると、魔法使いが何人も、何日もかけて行うものだ。そんな魔法を使っていたということは、かなりの魔力の持ち主なのだろう。


「この時代には、沢山の魔法使いがいたのかもしれないな」


「まぁ、行き過ぎた科学は魔法と区別がつかない。っていうしな」


なんだこいつ。


さっきから、ちょいちょいとウルサイな。


 祖国にもいたな。やたら雑学やら知識を鼻にかけて、こちらを威圧してくる貴族が。大体そういう人間に限って前線には出ずに机上の空論で、無理難題を押し付けてきていた。


そういったやつは一度ぶん殴ったら黙っていたな……ふむ。ちょうどいい機会だ。


手のひらを相手に向ける。確かこうして手に流れる魔力をイメージするんだったな。




ピコンッ。


①唱える


②唱えない。


選択肢は、もう決まっている。




私は――こう唱える。


「ファイアボール!」


「おい、やめろ!」


 ビビったバンブーが慌てた様子で、こちらの手と口を抑える。残念だ、転生したこの体には魔力がないようだ。


「……良かったなバンブー。俺に魔力があったら、お前は死んでいたぞ」


冗談だ、冗談。そんな本気になるなよ?


俺は手のひらを上に向け、肩をすくめる仕草をしながら、フッと息を吐いた。

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