第11話
「馬鹿な――!」
私は拳を机に叩きつけ、立ち上がる。叩きつけた拳が少し痛むが、目の前の衝撃の事実に比べれば、些細なことだ。
(信じられん……)
目の前にある事実に、頭の中で分かっているのに拒否感がでる。しかし冷静な部分で、それが真実だと感じているところがある。
現実は残酷である。
「田中。次、うるさくしたら廊下に立たせるからな」
「……失礼した」
教師から注意を受け、私は大人しく席についた。
現実は残酷である。
………
「で、何があったんだ」
昼休み。先ほど声を荒げた理由を聞きに来るバンブー。
「そうなのだバンブー。これを見てくれ」
「これって……世界史の教科書じゃねーか」
「そうだ。ここに書かれている人物。デパートメント=S=ストア、私はこいつと戦ったことがある」
「何言ってんだコイツ」
こいつは隣国、ジェネラル王国の貴族だ。確か若い時にに平民でありながら突出した武力を持ち、戦場で成り上がった武闘派だった。
成り上がりのため元からいた貴族からは疎まれていたので、よく戦場へ駆り出されていた。
何度か接触したことがあるが、筋骨隆々とした体格と2メートル近い身長を活かし戦場を駆け巡っていた。戦場では2度対峙したが決着がつかず、いずれまた別の戦場で会おうといって別れ、それから1度も会わなかった。
(死んだものと思っていたが、まさかこちらの世界にいたとは……)
名前が特徴的で珍しかったので覚えていた。
新事実である。まさか私以外にも以前の記憶がある人物が、この世界にいたとは。
しかし妙だな。同じ時代に生きていたはずなのに、なぜこいつは数百年も前の時代にいたのだろうか。
「ふーん。まぁ、調べてやるよ」
そういって箱型のものを取り出すバンブー。
「ふっ。それは携帯電話だろう。既に予習済みだ」
それを取り出せば驚くと思っていたのかバンブー。甘いな。既に昨夜のうちにそれについては勉強済みだ。母に頭を下げ携帯電話の歴史を聞いておる。
「スマホな」
「……なにか違うのか」
ジェネレーションギャップ。今の親世代は携帯電話というが、今の若い世代はスマホと呼ぶ。
しかしそんなことは分からないタカシは、頭をひねる。帰ったら母に聞こうと。
「その人は、イギリスの軍人らしいぞ」
「イギリス……知らない国だな」
「そんなわけないだろ」
ジェネラル王国ではないのか?
周辺国の地理状況や、勢力図なども知らないというのはマズイだろうか。話を聞く限りかなり有名な国のようだ。戦場に出ていないので、そのあたりの知識を優先して取得していなかったな。
「今度、機会があったら教えてくれ」
「いいけど……小中学生レベルだぞ」
幼い人間でも知っているのか。なら早めに確認しておこう。私は心のメモに書き留めておく。
「しかし、こういったことは多いのか?」
「こういったことって何だ?」
「その……別の国の人間が召喚されるような」
今はまだ、以前の記憶があることを伝えるのは時期尚早。もう少しこの世界のことを知ってから判断しようと思っているため、少し苦手な言い方になる。
「ん……転生モノとか転移モノってことか? 多いよな、最近」
「なに! 多いのか!」
まさかこのようなことが多いとは新事実である。
確かに言われてみると、完璧な偽装をしている私でも、うっかり以前の記憶からドジをしてしまうことがある。それでも気づかないバンブーを見て、『こいつはもしかしてバカなのか……?』そう疑っていたが、もしかするとこの世界では普通のことで、日常すぎるが故に気付いていなかったのかもしれない。
「そうだな。俺の最近のおススメはこれだ。『転生したらミノムシだった』だ。昼休みはまだあるし、見てみるか」
「ミノムシッ!?」
まさかミノムシに転生するパターンもあるのか。危なかった、私はまだ人間で良かった。
携帯電話……ではなく、スマホでその動画を見ることにした。
「飲み物買ってくるわ。あとで転ミノの感想教えてくれ」
「ああ、気を付けていってくるがいい」
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