第8話
下校の時間。
「タカシ。俺は職員室寄ってからいくから、校門で待っててくれ」
「肛門……?」
「そういうのいいから」
そういって去っていくバンブー。
クラスメイトに確認して、校門とは玄関のことだと知った俺は素直に靴を履き替え玄関から出る。
思い出すのは今日の2つの授業。体育と数学だ。
体育は体を動かす授業だということは分かった。これはなんとかなりそうだ。
しかし数学。これは何を言っているのか全く分からなかった。部隊の隊長になるとき、多少なりとも学力が必要だろうということで勉強をしたが、今日の授業はなにを言っているのか分からなかった。
(これは勉強が必要だな……)
この国では、あのレベルの学力が最低限必要なのかと思うとため息が出そうだ。この歳になって、勉強をし直すことになるとは。
「おい!」
「ん?」
校門より外に出ると、10名程度の少年が待っていた。
「昼間は仲間が世話になったな。ちょっと付いてきて貰おうか」
ピコンッ!
①ついていく
②ついていかない
……
「タカシ?」
◆◆
場所は河川敷。
そこには更に数人の少年が待っていた。ついでに電車の中で殴ってしまった少年もいた。
「おい兄ちゃん。昼間は、仲間が世話になったな」
この国の常識に疎い私でも、この状況は分かる。
こいつらはヤンキーだ。
我が国にもヤンキーがいた。時に街の浮浪者が、時に街のはぐれ者が、そう呼ばれ徒党を組んでいた。そういったものを総称してヤンキーと呼んでいた。
(こいつらも、社会に馴染めず苦労してるんだな……)
歳を取ると些細なことで涙もろくなる。少しだけホロリとする。
「今更、泣いても許さねぇからな。タダで帰れると思うなよ」
「おっ、と」
殴りかかってくる少年。それをすかさず避ける。
「――っと……てめぇ」
「おいおい、いきなり殴りかかってくるなよ」
「電車でいきなり殴ったのは、そっちだろ!」
そうだったか?
まあ、いい。ここにいる少年たちは社会に絶望して、行き場のない衝動を抑えきれない少年たちなのだろう。
「よかろう! かかってくるが良い!」
そんな少年たちを導いてあげるのも、大人の役目だろう。
「てめぇ。舐めるなよ」
少年が小さなナイフを取り出す。刃渡り20センチ程度だろうか。
「ふっ。まさかそれは脅しの道具か?」
よく手入れされたナイフは新品同様。歴戦の戦士たちの剣は、その剣に味が出る。それは刃にだったり、持ち手にだったり様々だ。
そしてこの少年のナイフからはその痕跡が見えない。つまり、初心者だ。
「武器を持って気が大きくなったノービスだな。いいだろう、稽古をつけてやる」
「……お前ら、全員でかかれ!」
「うわああああああああああああ!」
「おわ! なんだこいつ!」
タケシが現れた!
野球バットをブンブン振り回しながら、こちらに近づいてくる。
「タカシ! 大丈夫か!」
「どうしたバンブー。それはボールを打つものだぞ」
「そんなこと言ってる場合か!」
バットを振り回して、ハァハァと息をするタケシ。
「お前が知らないやつらに連れてかれたって聞いたから」
「……そうか」
バンブー……お前。
思い出すのは過去の戦場。あの時も窮地に陥っていた私のもとにはせ参じた部下たち。あいつらも、こんな感じだったな。
グッ、と涙もろくなる。あいつらは確か、あの時こう言ってたな。
「ありがとうバンブー。これが終わったら飯でも奢らせてくれ」
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