第4話
「なるほど。あの人間ではなく、下に見せながら通過するのか」
門番に怒られ教えて貰った。しかしこの機能、凄いな。我が国にも導入できないだろうか。
そんなことを考えると遠くから「ファーーーン」という音が響く。
「なっ!」
そちらを向くと、なにかの動物のような信じられない大きさの何かがこちらに凄いスピードで迫ってきていた。
まずい――!!
あれはどう見てもこちらに向かってきている。このままだと正面衝突だ。
手を、斜め十字に構え腰を落とす。
(私は戦場で、幾度と騎馬の突進を体感してきた!)
迫りくる緊張は、騎馬の突進と同等かそれ以上。耐えてくれるか、この体は……?
呑気な顔をしながら「ふわぁ~」と気の抜けた欠伸をしているバンブーは、やはり非戦闘員か。迫りくる脅威に気付いてすらいない。
(私が守らなければ!)
震える足で、一歩踏み出す。
「さあ……こい!!」
ぶわっ! と、吹き抜ける風。
その何かは、私の横を信じられない速度で通り過ぎていった。
ジワリと出る脂汗。間一髪、横をすり抜けたそれによって、直撃は免れた。もしあれが直撃していたらと思うとゾッとする。
「間一髪だったな。バンブー」
「……何が?」
こいつは、何かが通り過ぎたことすら気づかないほど鈍感なのだろうか。
しばらくすると新たな何かが近づいてくる。そいつは先ほどよりゆっくりで、私たちの前で止まった。
「これは乗り物だったのか」
バンブーと一緒に乗り物に乗る。
では先ほど高速で通り抜けたあいつはなんだ。希少種か何かだったのか?
いや、一瞬だがあいつの先頭に乗っている人物を見ることができていた。
(貴族の馬車か、何かだったのか?)
時折、ああして急いでいる貴族が街中を爆走し、平民を引くという事件が発生していたことがある。貴族全員が悪いとは言わないが、ああいった自己中心的な貴族がいるせいで、貴族という生き物へ偏見を持っている者も多くいた。
「全く、けしからんな」
「え、おい!」
物思いにふけっていたため、目の前の状況についていけていなかった。
「あ? なんだてめぇ、文句があるのか?」
私の言葉に反応したのは席に座っていた金髪の少年だった。どうやら私の言葉の何かが彼の癇に障ったのだろう。
「いや、すまないな。文句があるわけではない」
若い時期はこうして、自分と知り合い以外が敵に見える時期がある。隊の仲間の中にもこうして周りに当たり散らかしているやつがいたものだ。
うんうん、と懐かしい気持ちになる。
グッ、と胸倉をつかまれる。
「あ――」
と思った時には、体が反応してしまっていた。手首をひねり、こちらに声をかけてきた少年を地面に倒してしまった。
「おっとすまない。つい――」
「てめぇ!」
「おっ、と」
彼のパンチが空をきる。
ほう、私に勝負を挑むか。いい度胸だ。
思えば大人になり、適度に役職がついてからは絡まれることは無くなったが、かつては私もヤンチャな若者に喧嘩を売られていた時代もあった。
そうあれは、冒険者ギルドに初めていった時。「おいおい兄ちゃん、ここはガキの来る場所じゃないぜ!」と絡んできた相手を返り討ちにしたものだ。
「くっ、この!」
「ふっ、ふっ、ふっ」
避ける、避ける。そんな鈍い拳じゃあ私には当たらないぞ!!
そんな風に舐めていたせいだろう。バチが当たった。乗っていた馬車が少し減速をしたことで、慣性に従い体がよろける。その隙を狙い、目の前の金髪の少年の拳が肩に当たってしまった。
「あ――」
ついカッとなって、反撃を打ち込んでしまった。
彼の顎にいい一発が入った。
「やばい、逃げるぞ!」
タイミングよく止まった馬車から、私たち二人は急いで降りることになった。
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