第3話

家を出ると一人の青年が立っていた。


「よう、タカシ」


「誰だ貴様は」


「は?」


 なんだこの馴れ馴れしい男は。いや、よく見ると先ほど着替えた私の服装と同じ服装。つまり同僚のものかもしれない。


 そうだ。この家でのおばさんとの会話。そして状況的にみて、目の前の人物に当てはまる人間がいる。


「いやまて……タケシ! タケシじゃないか!」


「……なんでそんな十年来の友人に、久々に会ったようなリアクションなんだよ。昨日も会っただろう」


「いやあ、会えてよかった。胸のつかえがとれた気分だ」


「いいからさっさと学校いくぞ」


 結果に大いに満足した私はタケシの指示に従い歩き出す。しかしタケシとタカシか……名前が一文字しか違わないのは少しわかりづらいな。

 俺は顎に手を当て、うーんと悩む。その様子を後ろ目で訝し気に見るタケシ。


(タケ……竹か。あれは俺も過去に見たことがある。緑色をしたスッと真っすぐ伸びた木。性質は固め、我が国でも何かに仕えないかと研究がされていた。確か学術名があったな……


「よし、貴様の名前はこれからバンブーだ!」


「俺のタケは、その竹じゃねーよ!」


うむ。我ながらいいセンスじゃないだろうか。


 しかしこの道は少し落ち着かないな……道が整えられすぎている。もしこの道を使って敵が攻めてきたらあっという間に城まで辿り着いてしまうだろう。それに見晴らしがよすぎる。戦場になりづらい土地なのだろうか。防衛意識が低すぎる気がする。


テクテクと歩くバンブーの後を付いていく。


 城は一日にして成らず。という言葉もある。この辺りは地道に意識を変えていく必要があるだろう。長い年月をかけゆっくりと変えていけばよいか。


(うむ。戦争の雰囲気もなく穏やかだ。たまにはこうした田舎町もいいものだ)


 道を進んでいくとだんだんと人通りが増えてくる。

街の中心と呼ばれる場所には様々な建物があり、少し賑わいを見せている。


「我が国ほどではないが、中々栄えているじゃないか」


「いや田舎だろ」


「田舎なのは否定できんな」


 もう少し国の中心部にいけば防衛意識も高いだろう。そんなことを考えているとある場所に辿り着いた。


 その建物は平屋のような建物。バンブーと一緒にいなければ見逃してしまいそうな、なんの変哲もない建物だった。


「ここは……?」


「駅だろ」


「駅……」


おかしい。


 我々は学校へ向かっていたはずだ。それなのに辿り着いた先が駅と。まさか馬車にでも乗るのだろうか。学校はそんなに遠いのだろうか。


ピコンッ。


「うおっ」


相変わらずこの変な音にはなれないな。なになに……


①駅に入る


②駅に入らない


 なんというシンプルな選択肢だ。常識的に考えて駅に入るが正しい選択だろう。しかしここは私の知らない世界。先ほども正解だと思った選択肢が間違いだったこともある。


つまりここで取る選択は一つ!!


「駅に入らないだ!」


「うるさい、さっさといくぞ」


「お、おい、やめろ引っ張るな!」


強制的に引っ張られ、駅の中へ連れていかれる。選択肢も自動で①が選択されたようだ。


ピピッ。


という音を立て、バンブーの目の前で封鎖されていた門が解放された。いや、門だと考えるとあまりにも脆弱すぎるか。上ががら空きすぎる。

 恐らく一般兵だと見逃していただろうが、私は見逃さない。バンブーは何か緑色のものを取り出し、あの狭い通路を通過していた。そして緑色の物は私も持っている。


(そう、これだ……!)


 わざとらしく鞄に付けられたその緑色の物。恐らくこれがここを通過するための証明書か何かなのだろう。

 通路の横には帽子をかぶった門番のようなものが、厳しい目でこちらを見ている。


(ふっ、安心しろ。私もこの緑色を持っている)


 私はその門番が見やすいように、胸のあたりまで持ち上げ、そちらに緑色の部分を見せながら通過した。


ガコンッ!

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