第11話 装備強化(愛情たっぷり)♡







「それじゃあさっさと改良しちゃうわよ♪さぁさ、脱いで脱いで♡」


「あぁ師匠、改良なんだが俺達のギルドホーム内の工房でどうだ?」


「あら?もうホームまで持っているの?」


「うちのリーダーがイベントで優勝して手に入れたモノだ」


「あらぁ!そのイベントの事なら多少知っているわ♪公式の動画も見たわよ♪特に最後のカイちゃんとの勝負は手に汗握ったわ♡それを見た後は血が滾っちゃって思わず買った訓練用人形五つ程壊しちゃったのよ♡」


「その訓練用人形ってにはここに転がってる手足が粉砕されてダルマになってる奴か?」



ファウストが辺りを見渡して床に転がっている人形を見つけた



「あら♪良く気が付いたわね♪師匠として褒めてあげるわ♡ミュースちゃんポイントプラス1よ♡」


「なんじゃその妙なポイントは」



ミュースの近くに現れた扉が開く。そこから出てきたのは今まさに話題に上がっているナナシだった



「あらナナシちゃんお帰りなさい♪丁度貴方の活躍についてこの子と話していたのよ♪このギルドホームには工房が付いてるらしいじゃない♪貴方達の装備はそこで改良しようとしてたのよ♪」


「儂は生産職じゃあ無いのでの、あの工房の価値は余りよく理解しておらんのじゃ。各々好きに使うといい」


「それじゃあお言葉に甘えて♡」



ミュースは抜く手も見せずに扉の中へと入っていった。すると中から黄色い悲鳴が聞こえてきた



「キャアーッ!!何なのここ!素晴らしい、素晴らしいわ!夢が、浪漫が一つに凝縮されてるわ!」



アレは何かしら、コレは何かしらとガチャガチャと部屋の中を弄っている音が聞こえてくる。どうやら相当興奮しているらしい



「窓の外は雲の海!?もしかしてここって空の上かしら!?凄すぎるわあぁぁ!嗚呼、ナナシちゃん。アタシ、このギルドに入って良かったわ♡」



鼻息を荒くして扉から出てきたミュースにお礼を言われる。悪い気はしないが正直言って暑苦しい、そして怖い



「ああ、インスピレーションが溢れ出てくる!頭の中が沸騰しちゃいそう♡今のアタシなら今までの中でも最高の出来栄の装備が作れそうよ♡」



筋骨隆々の漢女おとめが興奮している。傍から見たらとんでも無い不審者だろう。だが今ここにいるのは全員不審者と言っても過言では無い者達だから仕方のない事だ



「ほら、そこに更衣室があるでしょう?そこで“コレ”に着替えてきて♪」



そう言って渡されたのは青色のツナギ。ウホッいい漢。更衣室で着替えて元の装備を全てミュースに渡す



「あら♡仮面を外したら益々いい男じゃない♡その碧い目、私好みよ♡」


「そ、そうかの」



装備全て、つまり狐面もそれに含まれる。今までファウスト以外に素顔を晒したことはなかったので新鮮な気分だ



「んー、コレくらいの量だとざっと2、3時間ってとこね♪」


「ではそろそろ昼飯時じゃし、少しばかりログアウトさせて貰おうかの」


「んじゃ俺も。頼んだぞ師匠」


「任せてちょうだい♪」



そうしてイベントの後のゴタゴタに巻き込まれた状態から解放されようやくログアウトできた







「ふぅ、うわっ!汗でベトベトだ」



ベットから起き上がると流石に疲れたのか汗だくでTシャツがびしょびしょになっていた



「シャワー浴びて飯でも食うか」



そうしてシャワーを浴び、昼飯を食おうとしたところに電話がかかってきた



『先輩!今日って暇ですか?暇だったら一緒に出掛けませんか?』


「あぁ、愛子さんか。残念だけど暇じゃあ無いな」


『そ、そうですか......』



あからさまに残念そうな声が聞こえる。折角イベントのためにとった有給だ。もう少し有効活用したい



「今日は忙しい。明日はどうだ?」


『! 明日ですね、絶対ですよ!集合場所は後で伝えます!』


「あ、あぁ。それじゃあね」



明日行こうと提案したら嬉しそうな声で捲し立ててきた。最近の若い子は元気だね



「ふぅ、腹も膨れたしそろそろログインし直すか」



しばらくしてまたAWOに潜る。今頃は装備が完成していることだろう



「応、お帰りナナシ」


「お帰りなさいナナシちゃん♪装備出来上がってるわよ♪」



テーブルに並べられているのはいつもの狐面、襦袢、長着、羽織、袴、帽子だ。だがそれぞれ少しだけ変わっている。狐面の両端に付いている鈴が増え、羽織などは紺色が濃くなり濃紺となっている



「かなり張り切っちゃったわ♪前のよりステータスが上がってるわよ♪まさかファウストちゃんが装備にスキルを付与する技術を持ってるなんて、師匠として不甲斐ないわ; ;」


「まぁこれは偶々ラッキーだっただけだがな」


「あらぁそんな謙遜嫌味に聞こえちゃうわよ♪まぁ、私も出来る様にはなったわよ♪スキルが付くかはファウストちゃんと比べて二分の一だけどね♡そうそう、一番出来が良かったのがこの狐面よ♡装備して『覚醒』と言ってご覧なさい♡」


「う、うむ」



ナナシは戸惑いながらも狐面を装備し、これを言った



「『覚醒』」



すると狐面が急速に姿形を変え始める。面から毛が生え逆立ち、歯が剥き出しになりおどろおどろしく鬼哭啾啾とした般若のようにに変わった。まるで神楽面みたいにだ



「ガァアアア!!」


「おっと♪『石工』」



獣のような雄叫びを上げながらナナシがミュースに襲いかかる。ミュースが床を足でトントンと叩くと一瞬にして石床が解体され、ナナシに巻き付いた



「おイタしちゃメッよ♡」



ミュースが腕力にものを言わせて殴る。するとナナシは面白いように壁を飛び跳ね、床に叩きつけられた



「うぐぅ......」


「うわぁ、痛そうだな」


「対人戦に於いてアタシに勝てる奴なんていないわ♪況してや正気を失ってる獣なら尚更、ねミ☆」


「わ、儂は一体......?」


「狂化、所謂暴走状態よ♪この時はステータスが物凄く上がるけど自我を無くしちゃうのが欠点ね♪使い所は間違えない様に♡」



ミュースがナナシに釘を刺す



「のう、儂を誰だと思うておる。天下のジェーン・ドゥ様じゃぞ?安心せい、そこまで思慮が浅い訳では無いわい」


『なぁ、アンタの刺した釘は見事糠に刺さった様だぜ』



ファウストが呆れてため息を出し、小声でミュースに言った



「いい、ナナシちゃん?それはあくまでもよ♪本当に使い所には気を付けてね♪オネエさんとのお約束よ♡」


「う、うむ」



圧に押されナナシは今度こそちゃんと了承し、安易に使わないようにすると決意した



「あとナナシちゃんの仕込み刀は流石に専門外だから今から知り合いの鍛治師に紹介しに行くわよ♪」


「い、今からじゃと?行動力がすごいのう」


「あら♪アタシだってまだぴちぴちよ♡長命種のエルフをなめないで♡ファウストちゃんは店番お願いね♪」


「へいへい、りょーかい」


「はいは一回で結構よ♡えっとドアハンドルを持ちながら行きたい場所を思い描く......彼女が居るのは『ズィーベン』ね♪」



ミュースは街の名前を宣言して思い切り良く扉を開いた。その先はやはりナナシの知らない場所だった。鉄。全てが鉄に囲われている。街というか工場?みたいな、そんな感じだ



「ここら一帯の採集ポイントで鉄鉱石が取り放題なのよ♡だからここは鉄の街って呼ばれるくらい有名な場所なのよ♪」


「ふむ。で、その件の鍛治師は一体どこじゃ?」


「案内するわ♪着いてきてね♡『擬態』」


「!?」



ミュースが『擬態』を使った。何だこれは。先程までの筋骨隆々のオネエさんはどこへやら。そこには誰もが見惚れる程の美しい子供が立っていた



「美少年?」


「美少“女”よミ☆」


「というかお主も『擬態』を使えるのか!?」


「そりゃあそうよ♡ファウストちゃんに『擬態』の取得方法を教えたのはアタシだもの」


「なら儂も、『演技』!」



『理想の自分を思い描く』。スキルの説明欄にはそう書いてあった。ならば既存のプレイヤーではなくのでは?と解釈し、見事ナナシはそれを成し遂げた



「あら?『擬態』......じゃあないわね♪もっと上の、虹職業のスキルかしら?」


「分かるのか?」


「これでも上位のプレイヤーの一人なのよ♪これくらい見抜けない様じゃあ生きていけないわ♪それにしても立派な鎧ね♪」



ナナシが変身したのは2mを超えるほど大きい鎧の騎士。傍から見ると姫を守っている御付きの騎士の様だ。あおのあまりの大きさに周りのプレイヤーはギョッとしながらこちらを見ている



「ちと大きすぎたの」


「そうかしら?背の高い人が鎧を着たらこれぐらいにはなるんじゃあないかしら♪まぁそんな事より早く行きましょ♡」


「うむ」



暫く人気のない道を歩くと、家というにはボロボロな住宅街が見えてきた。所謂スラム街だ



「ほらこっちよ♪逸れないでね♡」



暗く細い曲がりくねった道を右に左に曲がりながら歩いていく。行き止まりに突き当たったかと思いきやいつの間にか扉が出てきていた



「到着よ♪」


「ここか......本当に人が住んでおるのか?」



その家は今にも崩れてしまいそうなほどボロボロだった。必要最低限と言った方がいいのだろうか。それともお金がないのだろうか



「大丈夫よ♪彼女は悪い人じゃあないから♡寧ろ今まで会ってきた中で一二を争う程の善人よ♡」


「本当かのう。ぼろうとしてこないじゃろうな」


「......そんな訳ないじゃない♪」


「おい、何じゃ今の間は「お邪魔するわよ♪」聞け!」



ミュースは話を聞かず扉を開け放つ。すると一気に熱風が押し寄せてくる。煙もモクモクと立ち上っており奥がよく見えない。暫くすると煙の奥から人影が現れた



「換気ぐらいしたらどう?」


「るせぇ。そんなことしてる暇があったら鉄を打っとる。で、に何の要だ?」


「刀を打って欲しいわ♪とびっきりのものをね♪」


手前てまえが我に武器を頼むなんて明日は槍でも降るのか?」


「大事なリーダーの為よ♪」


「りぃだぁとな?手前、ようやっとギルドに入ったか。んで、そのリーダーとやらはその後ろのバカデカ鎧野郎?アマ?まどっちでもいいが、ソイツか?」


「そうよ♪ほら、お互いに挨拶しときなさい♡」



これからも長い付き合いになりそうだと思い大人しく自己紹介する



「我は【スミス】。名前の通り鍛治師をしている。よろしく頼む」


「っと、自己紹介の前にスキルを解いておこう。改めて、儂はジェーン・ドゥ。此奴の入っておるギルド『アラクネ』のリーダーをやっておる。宜しく頼むぞスミスよ」



いきなり縮んだせいでスミスは吃驚仰天し、跳ね上がった



「い、いきなり変身するな!吃驚するだろう!」


「む、申し訳なかったの。次からは気をつける」


「我の『看破』で見れなかったから変身系統のスキルは持ってないと高を括っていたが、これは一本取られた。特殊なスキルと見受けられる」


「気になるなら教えてやってもいいぞい。条件付きじゃがな」


「ならばその条件は?」


「儂のギルドに入らんか?」


「? そんなんでいいなら幾らでも入るぞ」



ファウストにいい手土産が手に入った。やったねファウスト、新しい仲間が増えるよ!



「いいわね♪貴女がウチに入ると作れない物はほぼなくなるわ♡」


「我は鉄を打つだけだ。手前のがよっぽど作れる幅が広いだろう」


「あら♪流石に武器は貴女には劣るわ♡」


「嬉しい事言ってくれるな、照れる」


「純粋に褒めて何が悪いのよ♪」



硬派な人かと思ったが意外にも可愛い一面もあるようだ。その後ナナシはスキルの詳細について嘘偽り無く話した



「なんと!どんな物にも自由に、しかもアイテム、武器、装備までもコピー出来るのか!?」


「ファウストちゃんから聞いていたけど、改めて聞くと中々ヤバいスキルね♡」


「じゃがデメリットも有る。コピーしたアイテム、武器は一度使ったら壊れるし、ステータスも半減してしまうのじゃ」


「だがそのデメリットをカバー出来るほどのチート具合だ。手前が相手をコピーしたら武器と装備は我の『看破』で一発で分かる。然も作り方まで詳細にだ」


「! それは考えつかんかった。成程、そう言う使い方もあるのか」


「アタシ達、生産職がいるからできる芸当ね♡」



ミュースは誇らしげに言った。そしてナナシは思い出した様に言う



「それで、武器を作ると言う話はどうなっておるのかのう」


「あらやだ♪忘れてたわ♪」


「ふむ、手前が使う武器は仕込み刀だな?刀は我の一番得意な武器だ、任せておけ。だがその前に一つだけ頼み事があるのだが......」


「何じゃ?言うてみい」


「実は我は今金欠なのだ。素材を買う余裕すら無い。だから......その......「“金を貸せ”、と?」......違うが概ねその通りだ」



スミスは俯きながら話す。それはここ最近鉄の街と呼ばれるこの街の至る所で買い占めが起きていると言う話だった。この街では鉄系の鉱石はそこらで幾らでも取れる。だがそこに目をつけた一部のギルドが連合を組み、採集ポイントの占拠、鉄の買い占め、プレイヤーを襲撃し鉄を強奪等々、様々な事をしでかしていた。そのおかげか鉄系の鉱石の価格が上昇。その状態でもスミスは鉄を打ち続けた。結果、ほぼ無一文同然となってしまったらしい



「そのギルドをどうにかしたいのは山々だが我一人ではどうにも出来ん。よって手前の武器は作れん。いやはや如何したものか」


「何じゃ露骨に誘いおって。要するに儂らにソイツらを潰すのを手伝えと申しておるのじゃろう?」


「如何するのナナシちゃん?貴方に一任するわ♡」


「そんなの言うまでもなかろうが。ソイツらがいると儂の武器が作れんのじゃろう?半ば脅しだが気に入った。して、襲撃する場所は?」


「話が早くて助かる。我達が潰すのは“ココ”だ」



スミスが街のマップを開いて指を指す。そこは中々に大きなオークション会場だった



「オークション会場?何故じゃ?」


「三日後、この会場でギルドの連合が司会の大規模なオークションが開かれる。その日だけはギルドの幹部、ギルド長迄が勢揃いするらしい。組織を潰すなら先ずは頭からの方が楽でいい」


「その情報は確かなのスミスちゃん?」


「間違いない。ちゃんとした筋の奴から『特ダネだ!』とメッセージが来たからな」


「まあ、信用できるならよい。ではまた三日後、ここに集合じゃ」


「了解だ」


「了解よ♡ファウストちゃんは誘わなくていいのかしら?」


「ファウストが出る程ではないじゃろう」


「後で拗ねても知らないわよ♡」



全てが終わった後ファウストがブチギレるのはまた別のお話




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る