第10話 報酬/師匠という名の変態







『優勝しました【ジェーン・ドゥ】さんには一つだけ“なんでも叶える権利”が与えられます』



壇上にいるとシズがアナウンスでこんな事を言った。周囲がざわつき、喧騒が大きくなっていく



「願いが叶う!?」

「いいなぁ」

「そんなのNPCに与えちゃっていいのか?」

「そもそもなんでイベントにNPCが呼ばれるんだよ」

「ワールドクエストの重要な鍵を握ってるからじゃないの?」

「じゃあ優勝は最初から決まってたのか?」

「なんだそれズリィ!」

「そんなの不公平じゃない!」

「しゅざい......」

「......「......「......



暫くざわめきが続いたが、それはシズのアナウンスによってかき消された



『では、貴方の叶えたい願いは?』


「そんなの一つに決まっておる。強くなる事じゃ。と言っても自分自身の力でじゃがな。じゃからさっさと帰らせろクソ女神」



申し訳ないと思いながら悪態をつくフリをする。このキャラを崩さない為にはなんでも踏み台にしていかなければならない。しょうがない事だ。これこそが俺の選んだ道なんだから



『その願い聞き入れましょう。貴方を元の居場所へ返します』


「!?」



承諾されちゃった!?意外にもシズはこれを願いだと聞き入た。だが何を勘違いしたかイベント待機場でも『ツヴァイ』でもない何処かわからない場所まで飛ばされてしまった。そこへファウストからメッセージが届いた



『ナナシ、今どこだ!』


『わからぬ。とにかく知らん場所じゃ』


『周りに特徴的な建物は?』


『無い。というか真っ暗で何も見えん』


『真っ暗!?まだゲーム内時間は午前だぞ!?』


『どういうわけか何も見えん』


『マップはどうだ?』


『黒く塗り潰されておる』


『クッソあの管理AIバグったんじゃあ無いだろうな!?』



黒。暗く昏く冥く闇い。つまり何も見えない。だが幸い地面は認識できる。このまま真っ直ぐ歩いていこう。出口がどこかにあるはずだ。多分、きっと、maybe



「うぉ、まぶし!」



突然の眩い光がナナシの網膜を襲う



「アレが出口か?」


ナナシが光の方へ歩いて行くと光が逃げ出してしまった。これを逃すと一生このままの可能性がある。


思いっきり走り出す。今にも転びそうな無茶苦茶な走り方で疾走する。段々と光が近づいていく



「うおおぉぉぉおおお!」



無我夢中で光に飛び込んだ。その先は



「今度は真っ白かよ」



何処までも続く白い地平線。まるで無そのものの様だ



「どうやったら出れるんだこれ?」



流石のナナシでもこれには困り顔。現状を打破するにはどうすれば良いか思考の海に沈んでいく



「あの」


「うおッ!?」



目の前に小さな白い人形ヒトガタが現れる。よく見たらそれは此ゲームの管理AIである“シズ”であった



「こ、こほん。なんの様じゃ女神様?」


「ええ、ジェーン・ドゥさん。ここに招いたのは他でも無い、優勝賞品を贈呈する為です」



さっきのアレは願いを聞き入れた訳ではないのか。優勝賞品と聞いてナナシは胸を躍らせる



「何故あの様な事を言ったのじゃ?」


「ひとえに貴方の為です」


「儂の為に?」


「貴方はそのプレイスタイルを他プレイヤーにバレたく無いのでしょう?私はそのプレイスタイルを尊重し、態と此処に呼び寄せたのですよ。私はこの世界の神、そしてこのゲームの管理者として貴方達を見守る使命があります。神が下界に過度に接触出来ないのと同じ様に、運営が一プレイヤーに対してそのプレイを咎める事は出来ないのです。況してやこの世界は『自由な冒険』をテーマにしているので尚更です」


「成程のう。すまぬ先程は悪態をついてしまって」


「いえ、あの状況なら当然の事でしょう。私は気にしていませんよ。ああ、そういえば優勝賞品がまだでしたね」



シズが指を鳴らすとウィンドウが出てきた。そこには『優勝賞品一覧』と書かれ、賞品の目録が出ていた



【優勝賞品一覧】


・1000000G

・ギルドハウス

・スキルスクロール

・50000P



「これらが優勝賞品です。改めて、優勝おめでとうございます」


「ちょっと待て、ギルドハウスとは?」


「? その名の通りギルドのハウスですが?」


「『ですが?』じゃない!儂はギルドに入ってもいないし、作っても無いんじゃが!?」


「もうこの際、作ればいいじゃあ無いですか」


「えぇ......(困惑)」


「因みにギルドハウスの場所はどうしましょうか?」



またシズが指を鳴らした。この時ナナシは初めてこの“大陸の”全体地図を見た。そして驚愕する。『ツヴァイ』どころか『ドライツェーン』は端も端、未だ大陸の一部しか攻略できていないという事実に。それ以前にこの大陸が『四種の国』に分かれているという事も知らなかった



「何処がいいですか?お好きに決めて貰って構いませんよ?」


「......考える時間をくれんかの?」


「分かりました」



ナナシは考えてもみなかった。攻略はかなり進んでいる、とファウストから教えられそれを疑っていなかったからだ



「私的には丁度四つの国の国境の境目とかオススメですよ?どうですか?」


「絶対ろくな事にならんから却下じゃ」


「というか此処しかありません」


「じゃあ何故聞いた!?」


「なんとなくです」



悪意のなんてモノは一欠片も感じさせずそう言い放った。ただのお茶目なのか?



「という事でこれで決定ですね。それでは今度こそ貴方を元の場所へ戻します」


「やっと戻れる......」



ナナシは高レベルプレイヤーを二人も相手にし、更に女神の粋な?計らいでこの場所まで連れてこられて心底疲れ切っていた



「この事は貴方のパーティにも知らされます。宜しいですね?」


「構わん。どうせこの事は話すつもりじゃった」


「では、これからも自由な旅をお楽しみ下さい。いってらっしゃいませ」


「行ってきます」



最後の挨拶ぐらいは言っておかなければ。悪態をついた事を未だ気にしているナナシであった



「そうそう、最後に“面白そう”だったのでワールドクエストが進んだとアナウンスしておきますね」


「は?ちょっと待「それではさよなら」」



真下に穴が空き真っ逆様に落ちていく。最後にとんでもない事を言っていたが落ちているのに必死でそれを考える暇もない



「おあああああああ!!」



なんとも情け無い声を出しながら真っ暗な空間を落ちていく。しばらくすると先程と同じ様な光が出てきた。そこを抜けると、いつのまにか『ツヴァイ』の街の郊外に立っていた



「ナナシ!」


「ファウスト!?何故此処にいるとわかった?」


「あの管理AIからメッセージが飛んできたんだよ」


「おせっかい焼きじゃのう」


「あとギルドハウス貰ったってマジか?」


「マジじゃ。という事はこの大陸の事も知ったのじゃな?」

 

「ああ、まさかあそこまでデカいとは思わなかったがな」


「詳しい話はあまり人目がつかん場所での」


「そういう時のためにギルドハウスがあるんだろ」


「そうなんじゃが、此処からそこまで行くのにどれ程かかるんじゃ?」


「メッセージと一緒にこれが入ってた」



取り出したのは綺麗な装飾を施されたドアハンドル。それを適当な壁にくっ付ける。すると忽ち高さ2m程のドアが現れた



「何だか古臭いドアだな」


「油で汚れてそうじゃな」



慎重にドアハンドルを引く。ギイィと音を立てて扉が開かれた



「「おおおおおお!」」



扉に対してその部屋は意外にも綺麗で埃一つない状態だった。壁は煉瓦、床は石造り、壁際には本棚、真鍮製の時計等が置いてある。スチームパンク風の家具で纏められており、当に“秘密基地”というのがよく似合う家だった



「スッゲェ!工房まであるぞ!」


「奥は見たかの奥は!道場まであるぞ!」


「こりゃなんの本だ!?『基本蒸気機関』だってよ!」


「天井のカンテラがいい味を出しておるのう!」


「デルビル電話機じゃあねェか!どういう原理で動いてんだ!?蒸気か!?」


「ファウスト朗報じゃ!」


「あんだ!?今忙しい!」



ファウストは家具の構造を調べるのに必死になっている。まるで新しいおもちゃを手に入れた子供の様だ



「この家ポイントを使えば増築できるぞ!」


「何ィ!?ちょ、ちょっと見せろォ!」



驚きの機能が発覚した。普通のギルドハウスはこの様な事はできるわけがない。それはこの家が女神から賜った特別製のものだからだろう



「どれ、窓の外の景色は如何に」



ウキウキしながら窓をチラリと覗く。正直言って期待はしていなかった。だがこの景色を見た瞬間笑みが止まらなかった



「お、おいナナシ?ヤベェ顔してるぞ?何があった」


「お主も覗いてみよ。“飛ぶぞ”」



ファウストも疑問に思いながらも外を覗く。そして驚愕した。家が空に浮かんでいたのだ。素晴らしい眺めに見惚れてしまった



「クハハハ!四カ国の境界線上にあるとは聞いたが、まさか本当に“上”にあるとはなァ!」


「フハハハハッ!言ったじゃろう“飛ぶ”と。笑いが止まらんのう!」


「なぁ、これってよォ、『操縦』出来るんじゃあないか?」


「! 今確認したらポイントでコックピットを作れる様になっておるぞ!」


「決まりだ!今すぐ作ろうぜ!」


「丁度優勝賞品として50000ポイント貰ったからのう」



早速作ってみる。作成開始ボタンを押すと家が揺れ始め直ぐ収まった。するとファウストのすぐ横に扉が現れた



「おお!これは当にコックピットだな。それしか言葉が見当たらない」


「ハンドルは舵輪か、いいのう!」



ロマンだ。この家にはロマンが詰まっている。ナナシは年甲斐もなく興奮していた。勿論ファウストもだ



「このノリでギルドも作っちまおうぜ!勿論リーダーはアンタだ。多分これからも仲間増やしたいんだろ?」


「その通りじゃがいいのか?」


「俺にそういうのは向いて無い」


「そうか、じゃあせめて『ギルド』名だけでもお主が決めてくれ」


「うん?そうだなァ......」



突然言われてもすぐに決まる筈がない。そこへ大音量でこの世界に言葉が響いた



『ワールドクエストが進行しました


【カイ】さん、【アイ@よーつべ】さん、【オヂン😎ダヨ(*≧∀≦*)】さん、【おっちゃん】さん


以上の者たちがワールドクエストを進行させました』



「おっと......やはりかあのクソ女神」


「メッセージで知らされたがマジだったか」



まさか本当にやるとは。冗談かと思っていたのに。ナナシは聞き間違いだと現実逃避したくなった。ワールドクエストを進行させたプレイヤーは全員ナナシに立ち向かったプレイヤーだ。それらはアイの配信、公式の動画にも載っている。やはりジェーン・ドゥはワールドクエストに関係しているという考察が出てくる事だろう



「おぎゃああああ!」



ファウストが突然叫び出した。どうやら誰かからメッセージが届いた様だ



「また師匠とやらか?」


「モウマヂムリシンヂャウ」


「そう言われてもどうにもならん。耐えよ」


「ふぅ......という事でアンタには俺の師匠に会ってもらうぞ」


「何がどうやったらそういう思考回路になるのじゃ!?」


「あんたには分からないだろうなァ!尊敬してる人に『貴方にもそんなカワイイ所が有ったのね“祝福”ちゃん♡』って言われる苦しさがよォ!」


「それは......あぁ......なんか、その......ドンマイじゃ」



何も言い返せず取り敢えず慰める。尊敬する人物に秘密がバレるなんて事は経験したことがない。その苦しみは想像を絶するだろう。多分



「して、此処から出るにはどうするんじゃ?」


「元の扉から出れる筈だ。そこのドアハンドル見てみろ」



魔刻印(空間)入りドアハンドル:この道具を壁に付けると扉が現れ、任意の場所に転移する



「“任意の場所に転移する”って書いてあるだろ?ワンチャン行ったことない場所にも行けるんじゃあねェか?」


「何?」



それが本当ならかなりチートだ。街にワープするには噴水に触れなければならない。だがこれさえあればその手間も省ける



「結構有難いのう」


「いや“かなり”ありがてェな。うんと、師匠がいるのは『ツヴォルフ』だな。早速行くぞ」


「うむ」



勢い良く扉を開くとそこはもう見知った街では無かった。何だか全体的に暗く、まるでずっと夜が続いているようだ。だが街中は光で溢れている。それは電気的な光ではなくもっと原始的な炎の光。暖かい光だ



「師匠から聞いてたがマジで『極夜』なんだな。っと、そこの小道だ」



人気ひとけのない路地へ入って行く。暫く歩くと小さな看板が掛けてある扉を見つけた



「此処だな」



ファウストが三回ノックする。すると扉の奥から声が聞こえてきた



『合言葉は?』


「筋肉愛好家」



地獄のような言葉が出てきたがそれは無視するとして、扉がゆっくりと開く。中には筋骨隆々で寡黙そうな漢が立っていた



「あら^〜ファウストちゃんったら久しぶりじゃな〜い♡」


「!?」



喋ったと思ったら意外な喋り方をしていた。なんとファウストの師匠は“漢”ではなく“オネエさん”だったのだ!



「あらあら?貴方がナナシちゃん?ハァ〜イ♡アタシの名前はミュース♡種族はエルフよ♪ミュースちゃんと呼んでねミ☆」


「ひえっ」



バチコーンとナナシに向けてウィンクをする。とても女神に対して啖呵を切った(不本意)男とは思えないほど情けない声が出てしまう。背筋が凍り、寒気もしてきた



「あら?顔が青いわよ?体調が悪いのかしら、今日は早めにログアウトする事をお勧めするわ♪」


「は、はぁ。お気遣いどうも」


「あら!よく見たら貴方のその装備、もしかしてウチの子が作った装備?」


「うちの子というのがファウストの事じゃったらそうじゃ」


「あら^〜成長したじゃない。流石はウチの子♡」


「アンタの子供になった覚えはねェけどな」


「でも、まだまだ詰めが甘いわね♪どうかしらナナシちゃん。ここはアタシにその装備任せてみない?」


「ま、任せるとは?」


「やだぁ♡焦ったいんだからぁ♡アタシに改造させてって言いたいのよぉ♡序でにファウストちゃん、貴方もよ♪」


「俺も?」


「レベルも上がってきたしその装備は不相応よ♪師匠として貴方にプレゼントあげちゃうわ♡」



筋骨隆々の漢女おとめが尻を振っているのに少しばかり吐き気を覚えたが、装備を強化してくれるのなら幸運と思いたい



「そうだ師匠、アンタも俺らのギルドに入ってくれよ」


「ギルド?それってナナシちゃんの?」


「そうじゃ」


「それなら全然OKよ♪こんな面白そうな事なら是非承りたいわ♪ギルド名は?」


「そういやまだ決まってなかったな。まあ“俺が”リーダーに頼まれたからな。俺が決める」



そうしてファウストまたうんうん唸り出した。そして何かを思いつくとそれを腰巾着から取り出した木の板に書き出した



「よし、今日から俺達は『アラクネ』だ!」


「......一応何故そうしたのか聞こう」


「アラクネってのは蜘蛛の意味を持っている。蜘蛛ってのは巣を使って獲物を捕らえるだろ?それで『幸運を掴む』、『夢を掴む』って意味合いでそう名付けた。あとは俺が縫製職人だからかな」


「「......意外にもちゃんとしてるの(ね♪)(う)」」


「意外ってのが余計だな。じゃあこれで決定だ。異議は?」


「あるわけなかろうが」


「アタシも気に入ったわ♡」


「よし決定!『アラクネ』結成だ!」



こうしてナナシをリーダーとして新しいギルドが立ち上がった。その名は『アラクネ』、いつか幸運と夢を掴む最高のギルドだ










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名前ってどうやったら上手く考えられるの?

教えてエ◯い人!



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