第9話 VS オヂサン&VS カイ







「何故女子おなごがオヂサンと名乗っているのじゃ?」


「今は多様性の時代だヨ。性別の話なんてナンセンスだネ」


「......それはそうとしてお主には死んでもらおう」


「え〜!?オヂサンこわ〜いヨ〜」


「白々しいのう。お主儂より強いじゃろうて」


「お、分かっちゃウ?おじいちゃん勘が鋭いネェ」


「そんなギラギラした目で見られたら嫌でも分かるわい」


「アイちゃんが居る手前、格好悪い所なんか見せられないんだよネ。だからおじいちゃんお願いだヨ、死んで?」


「儂の寿命はまだまだ先じゃ」


「じゃあオヂサンが殺してあげるヨ。棺桶代くらいは出してあげるケド?」


「生憎金には困っとらん。その金は自分用の棺桶に残しておいた方が得策じゃろうな」



互いに牽制として口撃をする。こうして話していてもお互い隙が全くない。攻める防ぐの攻防戦を頭の中で繰り広げていく



「やるネおじいちゃん」


「お互い様じゃ」



傍観しているアイにはいったいどういう状況なのか全くわからない。傍から見ると言い合いをし始めたと思ったら今度は二人とも冷や汗を流し始めたヤバい奴らなのだ、無理もない



「じゃあこうしようヨ。この石をアイちゃんに投げてもらって、地面に落ちたらスタートっていうルールでどうヨ?」


「......多少公平性に欠けるがまあ良いじゃろう」


「じゃあ決まりだネ!アイちゃん思いっきり投げてネ」


「うえぇ?は、はい......えい!」



アイは石ころを真上にぶん投げる。約十秒後やっと落下してきた石ころが地面に着く



瞬間、互いに抜刀。刃がぶつかり合い火花が散る。だが互いの力は拮抗しており、どちらも強く攻められない



「『演技』ファウスト」



力の均衡が破られた。ナナシが『演技』でファウストに変身し、ステータスがファウストの半分となったからだ。今のナナシのステータスはこうなっている




名前:ファウスト(偽) 種族:鬼 性別:♂ 職業:縫製職人 所属:無 属性:⚠︎レベルが足りません 所持金10000 ポイント:0


Lv.20 HP:2000 MP:2000

STR:300 VIT:100 DEX:250 INY:50 AGI:50 LUK:5


スキル:『剛力』『気配感知』『罠設置』『擬態』『縫製』『テイム』『突進』『一射必中』『刻印』『危機察知』



「変身スキル!?おじいちゃんいいモン持ってるネ!」


「運が良かっただけじゃ」



オヂサンが初めて動揺した。他人に変身出来るスキルなんて聞いた事もない。恐らく虹職業、だがNPCにその様な概念が有るだろうか。現状では分からない



「パワーはオヂサンが勝ってるネ」


「ふん、抜かせ。『剛力』」



ナナシの元のステータスはSTRが600を越えている。だがファウストの『演技』をし、ステータスが半減している今、数値は300。しかし此処でファウストの種族である“鬼”のスキル『剛力』。これでSTRが二倍となる為元の600に戻る。また剣戟を振るい振るわれる状況に戻る



「格好いい剣だネ!オヂサンにちょうだいヨ!」


「これは儂の為に作られた特注品じゃ。簡単に渡すわけにはいかんな。『一射必中』」



石ころをオヂサンに向けて投げつける。石は見事にオヂサンの顔に吸い込まれていった。ナナシはその隙を見逃さない



「憤ッ!」



ナナシはオヂサンを袈裟斬りにする勢いで剣を振るう。だが、すんでのところで防がれてしまった。それを確認したナナシは突如、オヂサンから逃亡し始めた



「『気配感知』『高速』」



『高速』によってオヂサンのスピードが上がる。複雑で迷路の様な森の中でもあっという間に追いつかれてしまった



「(『罠設置』)」


「おじいちゃんが今何処にいるかハッキリ分かるヨ」


「『気配感知』持ちか。じゃが、まだ青いのう」


「エ?」



仕掛けた罠が発動する。流石の『気配感知』でも罠を見破る事はできなかった。オヂサンはロープに足を取られ、木に吊り下げられる



「こんなモノ!」



直ぐ様剣でロープを引き裂こうとするが、



「“チェックメイト”、じゃな」



既にナナシは刃を首に突き立てていた



「降参するかの?」


「......あ〜あ、負けちゃったヨ」


「大人しく棄権すれば命までは取らん」


「はいはい、棄権するヨ。アイちゃんごめんネ、負けちゃったヨ」



そう言ってアイの方を見ると、彼女は目を輝かせていた



「凄かったです!何ていうか、言葉では表現できないけど、踊ってるみたいで“剣の演舞”って言うんですかね、そう言う感じで凄かったです!」



アイの配信を見ていた視聴者からも、



『オヂサンすっげぇ』

『次元が違う』

『ことばでない』

『皆見入りすぎてコメント一瞬止まってた』

『スキルを使っての攻防戦かっこよすぎ!』

『切り抜き確定演出』

『此度之戦白熱!我大興奮😂』

『↑中国語かと思ったら読めて草』



この様に褒めちぎられていた



「こうも直球だとなんか照れるネ......」


「何がじゃ?」


「あぁ、配信知らないんだ。この浮いてる奴で大人数の旅人が見てるんだヨ」


「これでかの?構造はどうなっておるんじゃ?」


「う〜ん、分からないネ」


「ふむ、ハイシンとやらを見ている旅人らよ、くれぐれも儂らの邪魔をしてくれるなよ」


「じゃあ棄権するネ、次は負けないから。じゃあネ〜」



そう言ってオヂサンは姿を消していった。残った二人はというと



「残り何人じゃ?」


「わ、私とジェーン・ドゥさんの二人だけです」


「じゃあ約束の『スキルスクロール』を寄越して貰おうかのう」


「あ、はいこれです。け、決勝でも頑張って下さい!それでは!」



スキルスクロールを渡してアイは先程のオヂサンと同様に消えていった



『Aブロック決勝進出は【ジェーン・ドゥ】さんに決まりました。皆様盛大な拍手をお送りしましょう』


『次にBブロック......



決勝に進出する26人が決まる。様々なプロゲーマー、アイドル、一般人等の高レベルプレイヤーが続々と出てくる



『最後、Zブロック決勝進出は【カイ】さんに決まりました。皆様盛大な拍手を送りましょう』



やはりか。ナナシはこいつは来ると確信していた。最前線最強のギルド『ドラグーン』のギルド長“聖騎士”カイ。最強と呼ぶに相応しいプレイヤー



『十分後試合が始まります。それまで暫くお待ち下さい』



十分の休憩が設けられた。この時間でファウストに会いに行くか







人混みから『擬態』をしたファウストを見つけ出し、人気のない小道へ向かった



「して、ファウストよ。どうしたのじゃ?そんなフラフラして」



戻ってきてからファウストの様子がおかしい。話し掛けても数秒ラグがあるし、今にも倒れてしまいそうだ



「......バレた」


「なに?」


「師匠に......バレちまった......」


「師匠?誰じゃ?」


「敵対種族だった俺を受け入れて職人の道を示してくれた大恩人のエルフだ。ああああ......マヂムリ、死ぬ、恥ずか死ぬ......」


「最近その体勢よく見るのう」



ファウストは例のアレorzの状態で顔を真っ赤にして身悶えている



「その師匠というのはプレイヤーかの?」


「ああ、けど師匠はそう簡単に情報を漏らしたりはしない。それだけは保証する」


「お主がそこまで言うのなら大丈夫じゃろうて」


「このイベントが終わった後紹介する。だから頑張ってこい!」


「当たり前じゃ」



ファウストに喝を入れられ、気合が入った。さてもう一踏ん張りしますか







『時間になりました。それでは開始します。カウント10秒前、9、8、7、6、5、4、3、2、1、スタート!』




今度は森の中ではなく見渡しの良い草原ステージに転送された。同じ様に『気配感知』を使うが前回とは違い、周囲には全く誰も居なかった



「ここでじっとしてればいつか出てくるじゃろう」



周囲に誰も居ないのを用心深くもう一度確認し、居ないと分かるとその場で胡座をかき、精神統一を始めた



(この状態なら集中できて、相手に背中を晒して誘う事もできる。いざとなれば『演技』でファウストになって『罠設置』をすればいい)



段々と思考の海に沈んでいく。だが油断は一切しない



(釣れたな)



一人のプレイヤーがこっそりと近づいてくるのが分かる。どうやら気付かれていないと思っている様だ



「......ッ!」



プレイヤーは自らの武器であるハンマーを振りかぶって思い切り振り下ろした。残念ながらその攻撃はナナシには届かない



「甘い」


「ぐぇッ!?」



一太刀で相手の首に刃と突き立てる。クリティカルヒットでそのプレイヤーはそのまま消えて無くなった



「弱い。余りにも弱いのう。旅人の強さも高が知れとるわい」



プレイヤーが完全に消える寸前にそんな事を言ってみる。物凄く睨んできたが最終的には力無く消えていった



「ふむ、いつの間にか半分を切っておるな。十中八九『カイ』じゃろうな」



サクサクプレイヤーを倒していき、残りの人数は半分を切り、遂に残りはナナシを含めて2人。マップの範囲も狭くなり、ナナシが始めにいた時の草原にまで狭まれた。すると遠くから人影が現れた


その人影は鎧を着て完全武装。だがまるで重さを感じさせないかの様に途轍もない速さで距離を縮めていく。そしてお互い相対する



「こんにちは、確かジェーン・ドゥさんだっけ?僕は“カイ”って言うんだ。旅人じゃあないのによくここまで生き残ってこれたね」


「それは旅人どもが弱かっただけじゃ」


「それもそうだね。そのレベルまで達しているのは今の時点では然う然う居ないだろう。それにしても最近のゲームは凄いね。自動的に母国語に音声変換してくれるし」


「“げーむ”というのは良く知らんがレベルはお主の方が高いじゃろうて」


「いやぁ、かなり頑張ったよ。睡眠時間を、食事を、全ての時間を削って此ゲームに注ぎ込んだんだ。そんじょそこらの奴らに負ける道理はない」


「儂はこの戦いに勝たなくてはならないんじゃ。悪いが死んでもらう」



話途中にいきなり突っ込む。だが軽々と避けられてしまった



「中々いいステータスじゃあないか。だが足りないな」


「ガァッ!?」



瞬間、ナナシが弾き飛ばされる。何をされたのか一切分からなかった



「いったいのう!」


「その割には元気そうじゃあないか。ほらもう一発」


「グォアッ!」



一瞬だけ見えた攻撃を剣でガードする。聖騎士だと言うのに拳一つで闘うとはこれ如何に



「今度はこっちの番じゃ!『威圧』『突進』」


「ムッ!?」



『威圧』の効果で少し硬直する。そこにナナシが『突進』で剣を突き刺す



「いいスキルだね。負けてられないや」


「「『気配感知』」」



同時にスキルを発動する。お互い攻撃の気配を察知し、全て避ける



「これで最後にしよう。正真正銘、僕の最終奥義だ」


「何!?」



これまでカイは拳で闘ってきたが、遂に剣を抜いた。刃が真っ白に光り輝く



「『白炎』抜刀」



ナナシの体は両断されていた







「厄介な相手だった」



カイは漸く終わったと安堵し、剣をしまった。此剣の名は『白炎びゃくえん』聖騎士のスキル『聖剣』で生み出された特異剣シンギュラーソードである



「あと少しで僕のHPもつきそうだった。僕をここまで追い詰めたのは君が初めてだ、誇ってもいい」



『白炎』を抜いている間、持ち主は毎秒固定ダメージを受ける。本当にあと少しだけ抜いたままでいたならば負けていたのはカイだっただろう



「?」



おかしい。違和感に気がつく。?警告音が頭の中で響いている。カイは直ぐ様その場から飛び退いた



「ばれおったか」


「なんで生きてッ!?」



カイはナナシに疑問をぶつけようとしたが前のめりに倒れてしまう



「『演技』ファウスト、『罠設置』」



足元の草が輪っかに結ばれており、それに足を引っ掛けてしまった様だ。起きあがろうとしたが首元に刃を突きつけられてしまった



「降参か死かどちらかで選ばせてやろう。どちらが所望じゃ?」


「......降参!いやぁ負けた負けた!くふふ、楽しかったよ!」


「こんなのは二度と御免じゃ」


「最後のアレはなんだったの?」


「阿呆か。敵にわざわざ情報を晒すわけ無かろう」


「それもそうだね!」



ナナシはファウストが授けてくれたスキル『忍耐』で運良く生き残っただけだ。本人もまさか発動するとは思っても見なかったが、ファウストが施したLUK+10を思い出し後でお礼に行こうと誓った



『優勝者が決まりました。優勝は【ジェーン・ドゥ】さんです。おめでとうございます。皆様、盛大な拍手を』



いつの間にかイベント待機場のお立ち台の上に転移させられていた。拍手の音が大きく鳴り、所々からやじも飛ばされる



『今回、惜しくも優勝を逃してしまった方々にも大きな拍手をお願いします』



より一層大きくなった拍手で場が包まれていった





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星が欲しい


なんちゃってね☆ミ

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