第8話 公式イベント
ナナシが恐る恐るアイテムを取り出す。それはファウストが愛用するコンポジットボウ。詳細を見てみると『コンポジットボウ(偽)』と出ている。見た目は完全に模倣してあるが所詮は演技、一度使うと粉々に砕けて散っていってしまった
「成程、大体理解した。さて、賭けは儂の勝ちじゃな。お主の秘密を一つ、バラしてもらうぞい」
「うぐッ、ガチャの興奮で有耶無耶になったかと思ったが覚えてたか」
「フハハ!どうじゃ悔しいか!課金してその職業を手に入れたお主と無課金の儂では格が違うのじゃ格が!」
「グハアァッ!」
ファウストが膝から崩れ落ち、
「して、秘密はなんじゃ」
「恐ろしく自然体だな。今この体勢のままで聞くか」
「だって気になるんじゃもん」
「“もん”はキツいぞ“もん”は」
ファウストが起き上がりながら言う。30代後半の“〜だもん”はキツい
「喧しい!この世界は自由の世界なんじゃぞ!?心を若くしてもいいじゃろうが!」
「その結果が
「何じゃその蔑む様な目は」
「何でもねぇよ。さて言うぞ、本当に言うぞ」
「いつでも良いぞい」
ファウストが準備する。ウィンドウを開いて何やら設定をいじっている様だ
「さていよいよお披露目だ。目ん玉ひん剥いてよく見とけ」
ファウストの頭、額辺りからポリゴンが出る。そこに現れたのは立派な一本ツノ
「秘密は俺の種族の事。俺は『鬼』だ」
そう言うと肌の色と瞳孔がだんだんと紅く染まり、白目も黒く変色してしまった
「最初は興味本位だったんだ。種族一覧を見て魔物の欄にあった種族だった。面白そうだと思ってやってみたが街には入れないわ、プレイヤーに狩られそうになるわでクソみてぇな思いもした。だが良いこともあった。それは通常よりステータス初期値が高い事。これのお陰で何とか耐えてきたんだ。その後、色々あってスキル『擬態』を手に入れたのがこのゲームでの一番の幸運だな。案外そのせいで職業ガチャにハズレまくったのかもな」
「いやあそれは大変じゃったのう。儂からも言わせてもらおう、ご愁傷様じゃ」
「おいおいそんな言葉一言で片付けんなよ。悲しいぜ」
「興味本位でそんな種族を選んだお主が悪い」
「ウグッ、そ、それはその通りだ」
ド正論を言われてファウストは狼狽える。だが自分が悪いという認識はあるため強くは言えなかった
◯
「ううむやはり当たらんのう」
ナナシはファウストの姿で弓の練習をしていた。いくら虹職業だとしてもステータス迄は完璧に真似出来なかった様だ。『演技』は演技している相手のステータスの半分、つまり下位互換になってしまう
「ったりめぇだ。俺の
「それはお主が生産職で偶々DEXを上げてただけじゃろ。見栄を張るでない」
相も変わらず下らない言い合いをしていると、
ぴーんぽーんぱーんぽーん
『運営からのお知らせです。この度公式イベントを始める事になりました。詳しくはメニュー表の“お知らせ”をご参照ください。繰り返します。運営からのお知らせです。この度公式イベントを始める事になりました。詳しくはメニュー表の“お知らせ”をご参照ください。』
ワールドアナウンス。何かこのゲームによって重大な事が起きるとなるアナウンス。先ほどの話の通りなら近々、イベントが始まると言う事だ
「聞いたかナナシ」
「あぁ、聞こえたわい」
「“お知らせ”に載ってるぞ。流石に今回は目を通しておけ」
そう言われてウィンドウを開き“お知らせ”の欄を開く
『第一回公式イベント バトルロワイヤル
誰も彼もが敵、信じられるのは己の力のみ!
自らの手で道を切り拓き最後まで生き延びろ!
詳細:このイベントは格ブロックごとに分かれて戦う勝ち抜き形式です。ブロックはA〜Zまであります。ブロックごとに最後の一人になるまで戦い、生き残った26人で決勝戦を行います。全力で楽しむもよし、ただ遊ぶだけでもよし、同盟を組んで敵を一網打尽にするもよし!ただし、裏切られる可能性があるので注意!この世界で初めてのイベントです。皆さんと一緒にいい思い出を作り上げましょう!
⚠︎一定以上のレベルがないと参加できません
開催日:アナウンスから一週間後
企画、運営:管理AIシズ』
「おぉ、作り込んであるのう。まぁ、初イベントじゃし当たり前かの。お主は参加するのか?」
「いや、やりてぇ事もあるしパス」
「そうか、そういえばじゃが儂NPCのふりしてるから参加出来ないのでは?」
「テキトーになんか言っとけば勝手に勘違いするだろ。別にプレイヤーだけ参加可能とは書いてねぇしな」
「そういうものなのかの?」
「そういうモンだよ。人間ってのは案外チョロいんだぜ?」
ナナシがファウストの言葉に少々懐疑的になったが何となく納得した。ほらやっぱチョロい
◯
あっという間に一週間が経った。遂に
「エントリーは済んだかいおじいちゃん?」
「出来とるわい。儂はまだ認知症という歳ではないぞ」
「へいへい。あんたは何ブロックなんだ?」
「儂はAじゃな。しっかり観戦しておくのじゃぞ」
「了解」
『それでは公式イベント、バトルロワイヤルを始めます。改めて自己紹介しましょう。企画、運営はこの管理AIの“シズ”がお送り致します。どうぞよろしくお願い致します』
ぺこり、とホログラムのシズが頭を下げる。さていよいよイベントが始める。心臓に鼓動が耳にまで響いてくる
『カウントダウン、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1......スタート!』
瞬間、森の中へ転移する。ファウストと逸れてしまった
「『気配感知』」
周囲を索敵する。取り敢えずこの辺りは誰もいない......いや一つ反応あり
「『忍足』『突進』」
気配を消しながら反応があった場所まで猪突猛進する。見えてきたのは少し見覚えのある少女だった
「映ってますか?皆さんこんにちは〜!今日もアイチャンネルを見てくださり有難うございます!」
『こんちゃ〜』
『こん!』
『アイちゃん、お早う(^o^)(^_^)😃😚😍(^з<)😘今日もカワイイ🥰❤️ネ❗️\(//∇//)\』
『怖い』
『い つ も の』
『暇かな?』
『おっは〜』
『イベントそろそろ始まる?』
「はい、あと5分くらいですね」
今日もAWOをプレイしている。なんと今日はこのゲーム初めての公式イベントなのだ!コメントも大盛り上がり、同接も最初から50万人と好調だ
「あ、始めります!」
『それでは公式イベント、バトルロワイヤルを始めます。改めて自己紹介しましょう。企画、運営はこの管理AIの“シズ”がお送り致します。どうぞよろしくお願い致します』
『カウントダウン、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1......スタート!』
飛ばされたのは森の中。辺りには誰もいない様だ
「ここは......何処なんでしょう」
視聴者の目線である空中に浮かんでいるカメラを360度回転させる。生い茂るばかりの草とただの木だらけだ
『森だね』
『うおおおおおきたあああああ!』
『始まっちゃった』
『アイちゃん何ブロックなの?』
『索敵スキル持ってなかったっけ?』
「ここはAブロックです!あぁ、索敵しなくちゃ。『気配感知』!」
何も映らない。この辺りには人っ子一人いない様だ
「此処には誰も居ないらしいです」
『ふうよかった』
『すぐ倒されるほどアイちゃんは弱くないから』
『かわいいかわいいかわいいかわいいかわいい』
『↑分かる』
『荒らしに反応するな』
『荒らしなのか?』
『今なんか映らんかったか?』
「何か映りましたか?」
改めて辺りを見回す。やはり誰も居ない。視聴者さんの見間違いかな?
その考えは一蹴される。背後に突然気配が現れた。この異様な雰囲気は一度だけ経験がある
あの時の恐怖を思い出し、呼吸が荒くなる。思い切って背後に振り向くが誰も居ない
「何処を見ておるんじゃ」
もう一度、今度は元の方向に振り返る。其処には見覚えのある仮面とは少し違うが、明らかにあの時と同じ謎のNPCが杖を突き、背筋を正し堂々と立っていた
『何だこのおっさん!』
『ジェーン・ドゥ!?』
『“ナナシ”さん!?』
『“ナナシ”様だろ!』
『↑そこかよ』
『何でNPCがここに!?』
コメント欄は阿鼻叫喚の嵐に包まれる。殆どのコメントが『何故』或いは『どうして』、『如何やって』など同じようなものが繰り返されるばかり。アイの配信の同接は既に100万を越えている
「あ、貴方が、な「“何故此処に”、等という野暮ったい事は言うまいな?」あ、えと......」
情報量が多すぎて言葉を失ってしまう。どうやって目の前に現れたのか、それ以前にどうしてイベント専用エリアに居るのか。様々な事が頭の中で回転していく
「まぁ答えてやろう。此処に居るのは“呼ばれたから”じゃ。あのクソッタレの女神様にじゃな。其方、女神について何か知っている事は?」
「め、女神?」
「其方らで言うところの管理えーあいというやつじゃ」
「シズの事を言ってるの?」
殺気。いつ抜いたのかも分からない仕込み刀の刃が首に置かれている
「問うておるのは此方じゃ。問いを問いで返すな」
「な......にも、知りません......」
恐ろしい。たかがゲームのNPCだと言うのに何故か冷や汗が止まらない
「......本当に知らぬようじゃな。ならば用はない。さらばじゃ」
「ち、ちょっとまって!取引、取引しましょう!」
首を断ち切ろうと振りかぶったジェーン・ドゥがぴたりと止まる
「取引、じゃと?」
「は、はい。貴方と同盟を組みたいんです」
「......儂にメリットがない。この話は無しじゃな」
ジェーン・ドゥは又もや振りかぶった。だがアイが差し出したものを見て止まる
「何じゃそれは」
「わ、私が手に入れた『スキルスクロール』です。これを使えば新しいスキルがランダムで貰えます!」
ジェーン・ドゥは少し考える動作をした後、この取引を言い渋りながら了承をした
「つまらぬ、が面白い。いいだろうその話承おうぞ」
◯
確かこの子は前に配信をしてたよーつーばーだったな。これで自分という存在をこのイベントでアピール出来る
「これから何処へ?」
「黙っておれ、『気配感知』」
一つ一つのブロックに100人、全て合わせて2600人もの人数が集まり、最強を決める。これほど心が踊る事が有るだろうか。気配感知に引っかかったプレイヤーの首を片っ端から刎ねていく
「5人」
この一週間、徹底的にスキルを検証しまくった。後は工夫を凝らして戦うだけだ
「10人」
「20人」
そろそろエリアが狭まる頃だな。戦える場所が狭まり人数がどんどん減っていく
『残り5人です』
「あ、あの残り5人らしいです」
「ふむもうそのぐらいか」
いつの間にかこの戦いも最終局面に入った。移動しようとしたら草叢から一人の女性プレイヤーが出てきた
「へぇ、貴方がジェーン・ドゥさん?」
「そうじゃがお主、何者じゃ?」
「オヂサンはアイちゃんに近づく輩に鉄槌を下す正義のオヂサンだヨ。以後お見知り置きを」
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