第7話 解消、第2の街そして職業





「主任!見てください!」


「なんだ?バグでも見つかったか?」


「い、いえ。ですが、これを......」



スーツの女性がスマホを主任と呼ばれた男に見せる。そこに映っていたのは白と黒の狐面を付けた怪しい二人組



「これがどうした?」


「どうしたもこうしたもありませんよ!新しいNPCが追加されてるんですよ!」



柏木と呼ばれた女性は主任に向かって叫んだ



「別に良い。だ」


「〜ッ!ですが、一応このプロジェクトは私達が管理しなくてはいけないものなんですよ!?」


「下らん。あのゲームは『シズ』が作った世界だ。俺達が兎や角言う筋合いは無い。それとも何だ?お前があの世界の全てを管理するのか?」


「......いえ、申し訳......ありませんでした......」


「それでいい。俺達は



主任がゆっくりと部屋から出ていった。そこに残るのは一人の人間と今尚成長を続ける一つのAI生命だけだった







出社してすぐ仕事場で後輩から話しかけられる。珍しい事もあるもんだ



「先輩!先輩はAWOやってますか?」


「!?」



いきなり爆弾を落とされ飲みかけのお茶を噴き出しそうになる



「ゲホッ、どうしたいきなり」


「いや、先輩はゲームやるのかなと思いまして」


「生憎ゲームはやったことが無い。そう言う話をするならお前の同僚とでも話せ」


「......はい」



少ししょんぼりしながら後輩は仕事へと戻っていく。ちょっと可哀想な事しちゃったかな



時間が経過し、もうすぐで定時になる




「愛子さーん!これ、やっといて」


「はい!」



相変わらず上司びこき使われる後輩の姿を見る。どれ、少し手伝ってやるか



「今手空いてるから少しくれ」


「あ、先輩、ありがとうございます。助かりました」


「困ったときはお互い様だからね」



そう言うと後輩は顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。風邪かな?体調が悪いなら早めに帰ってもらいたい



「残りは俺がやっておくよ。愛子さんは早く帰っちゃって」


「えぇ!?そんな悪いですよ!」


「ほら、顔が赤くなってるよ。熱があるかもしれないし、早めに帰りなさい」


「うぅ......はい」



後輩が渋々オフィスから出ていく。出ていく途中チラチラ見てたけど何だったんだろ。顔になんか付いてたかな?



「まあいいか、俺もそろそろ帰ろう」



そう言ってちゃっちゃと帰り支度を済ませ、駅まで行き、電車に乗る。乗ってる間の暇潰しとしてスマホでニュースを見る。



(何か面白い事ないかな)



数あるニュースの中、一番上に表示されたものを見て思わず声を出してしまいそうになった




俺が見たもの、それはだった




(何が起きている!?)



驚きすぎて心臓が痛い。何故、如何して俺がニュースびなってるんだ!?


詳細を見てみるとどうやらあの時話しかけてきた少女は有名配信者だったらしく、ちょうど配信中に搗合ってしまったらしい。いや、前向きに考えるんだ。スタートダッシュとしては良好じゃあないか



(そうだそうだ。いい事じゃあないか)



自分にそう言い聞かせても冷や汗が止まらない。今俺の心の中にあるのはファウストの事だ



(晒されるのを嫌う人間もいる。もしファウストがそのタイプだったりしたら)



奏はファウストを想像する



『あんたとはここでお別れだ。二度と会うことはない』



パーティ解消、最悪ゲームを辞めてしまう可能性だってある。それだけはあってはいけない!いつの間にか電車が着いていたようだ。真っ直ぐ家に帰り、すぐダイブする







ウィンドウを開き、メッセージを送る



『おい、ネットニュース見たか!?すまぬ、儂が街へ行きたいと言ってなければこんなことには』


『おい落ち着け。何だどうした?ネットニュースは俺も見たぞ』


『お主も見たのか......改めてすまない。どうかパーティを解消しないでくれ』


『そこでどうしてパーティ解消の話になるんだよ!一度会ってお互いゆっくり話そう。ビギナーズフォレストで待ってる』


『了解じゃ』



少ししてビギナーズフォレストに到着した。ファウストは森の奥、ボスの戦場前にいた



「おうナナシ、どうしたんだよ突然パーティ解消だなんて」


「いや、それはお主が配信で晒されるのが嫌だったと思って、それで「自惚れんな爺」!?」


「あんたが読める程俺の心の中は単純じゃあねェんだよ。舐めんな」



突然の言葉に呆気にとられた。ファウストの言葉を反芻し、理解する。段々と嬉しさが込み上げてくる



「勘違いすんな。俺は使えるものは何でも使う主義だ。そこには爺、当然あんたも入ってる。俺がパトロン金蔓をほっとくわけないだろ」


「あぁ、ありが、いや野暮じゃったのう」


「それで良い」



パーティは解消されず、無事問題は解消された。ナナシは相棒に認められているという事実に心が躍った



「っとそうだ、俺が用事あったんだわ。ナナシ仮面と帽子貸せ」


「ほい」



ファウストに白い狐面と黒の地味な帽子を渡す。ファウストが何やら面と帽子に書き始めた。出来上がったのは綺麗な花の模様。帽子には紅色の梅の花、面には紫色の鮮やかな杜若かきつばたが描かれた



「新スキル『刻印』だ。模様を付けることによってアイテムに特殊な効果を付与できる。あんたの面にはスキル『忍耐』を、帽子はLUK+10を付けた」


「流石“祝福”じゃな」


「うるせぇ!まさかネットでこんな拡散されるとは思ってなかったんだ!小っ恥ずかしいッ......」



因みにファウストの面には小さな可愛らしい芝桜しばざくらが描かれており、勿論スキル付いている。スキルは『危機察知』。事前に危険を予測できる便利なスキルだ。しかしパッシブではなく、クールタイムも長いので使い所に注意しなければならない

そしてナナシの面に付与された『忍耐』、これは俗に言う“食いしばり”だ。HPが0になる瞬間運が良ければ発動し、HP1で耐えることが出来る



これによってナナシのステータスはこの様になった




名前:ジェーン・ドゥ 種族:人族 性別:♂ 職業:無 所属:無 属性:⚠︎レベルが足りません 所持金:0 ポイント:100


Lv.20 HP:2000 MP:2000

STR:510 VIT:200 DEX:100 INY:140 AGI:100 LUK:15


スキル:『忍足』『気配感知』『契約』『威圧』『突進』『忍耐』


称号:《初めの一歩》《隠者》《初パーティ》《初めての友達》《ボス討伐者》



ワイルドボアとビッグワイルドボアを倒しまくった結果、ポイントが結構貯まり全体的に振り分けている



「かなり強くなったのう。次の街へ行ってみても良いのではないか?」


「まあ確かに、行ってみるか!」



ナナシ一行は意気揚々と次の街へと出発した



「次の街は『ツヴァイ』だ。俺も行ったことねぇから迷子にだけはなるなよ」


「迷子にはならんよ儂の事何歳だと思っておる」


「見た目よりガキっぽく見える」


「それは嬉しいのう」


「褒めてねぇよ」



そんなこんなで『ツヴァイ』到着。ここは大渓谷の壁に造られた街。至る所に吊り橋があり、一歩踏み外せば暗い深淵へ真っ逆さまだ。二人はそんな街の中央にある噴水に近づき触れる。無事ポータル登録されたのを見て直ぐ様逃げる



「ねえあれって」

「ジェーン・ドゥだ!」

「“祝福”も居るぞ!」

「やっぱりそうだ!」

「追いかけろ!」

「逃すな!」

「捕まえたら50万Gだ!」

「取材ぃぃぃ!」



「やっぱ目ぇ付けられてたか」



この状況を予想していたファウストは楽しそうに笑う



「いつの間にか懸賞金掛けられとるのう」


「良いじゃあねェか、スリル満点で」



「屋根に行ったぞ!」

「登れぇ!」

「行けいけ!」

「追いつけぇ!」



杖の鞘を外し家を叩き切る。屋根に登っていたプレイヤー達が家と共に暗闇へ引っ張られていく



「うわぁ此は体験したくねぇな」


「バンジージャンプみたいで案外楽しそうじゃぞ?」



ファウストが半目で睨んでくる



「紐ついてねぇじゃあねぇか」


「お主の求めてる“スリル”じゃぞ“スリル”」


「“スリル”ってのはギリギリを攻めてこそ感じるもんだ」


「じゃあ感じてもらおうぞ」


「え」



ナナシはファウストと谷の底に向けて思いっきり突き飛ばした



「ナナシイィィ恨むぞオオオォォ!」


「教会で落ち合おうぞ!」


「うおああああぁぁぁああ!」



プレイヤーが突然のことに驚き目を見開く。仲間を突き落としたのだ無理もない。そのまま深淵へ堕ちていくかと思いきや



「ああああああ!『一射、必中』ッ!」



ファウストはそこで終わる程小さい男ではない。落下中体勢を整えロープを縛った矢を射る。それは見事に一つの吊り橋に命中した



「ひゃっほおぉぉぉおおう!」



プレイヤー達は又もや目を見開く。もう豆粒程になってしまった二人を見ながら呆然と突っ立っていた



「はっ!こんなん捕まえるどころか追いつけやしねぇ。今のレベルじゃあ無理だな」



プレイヤー達に諦めの表情が伝播していく。一人また一人とその場から去っていく。結局誰一人として残ることは無かった


一方その頃ナナシ一行は教会で落ち合っていた



「どうじゃ、中々スリリングじゃったろう?」


「ああ最高最悪だったよ。俺は自分で感じる“スリル”は好きだが与えられる“スリラー”は好きじゃあねぇし、あんなん二度と味わいたくないね」


「何じゃつまらんのう」


「んで、教会に来た理由わけは?」


「そんなの決まっておろう。『職業ガチャ』じゃ」


「あれかぁ......」


「何故そんな遠い目をしておる」


「トラウマなんだよ」



このゲームで唯一のガチャ要素である『職業ガチャ』。その名の通り職業のガチャをポイントで回すものである



「俺がこの職業縫製職人当てるまで何回引いたと思う?」


「うーむ、まぁざっと50連ぐらいじゃろ?」


「1000だ」


「は?」


「俺はこの職業を引くのに1000連回した。10連するのに100ポイント、合計で10000ポイントは使ってる」


「お主初めの頃レベル5では無かったのか?」


「なんだ知らねぇのか?このゲームは。初回限定10000ポイント8000円だ。あんたも課金したらどうだ?」


「ふむ、儂は現状100ポイント持っておる。それで良いものが引けんかったら課金しよう」



一発で良いものが引けるとは思っていない。出来れば役に立つものが欲しい



「こんにちは、今日は何のご用件で?」



教会の中に入ると講壇に立っているシスターに話しかけられた



「職業を決めたいのじゃが」


「職業ですね。では好きな数ポイントを捧げてください」



ナナシは迷わず100ポイントを捧げた。するとステンドグラスから差し込む光が強くなっていき、いつの間にか目の前には大きなカプセルトイが顕現していた




「折角だしなんか賭けようぜ」


「いいのう、何が良い?」


「負けた方が何か一つ秘密をばらすってのはどうだ?」


「ふむ、まあ良いじゃろう。後で駄々こねても知らんぞ」


「10連だぞ10連。俺の方が確率は圧倒的に高いんだぜ」


「運くらい実力でねじ伏せてやるわい」



意を決してガチャを回していく。ゆっくりと出口が開き、中から青と金のカプセルが出てきた



「まあ最初の一発で虹が出る訳ないか」



ナナシが少しがっかりした声で言う。だが次の瞬間



「なんじゃ!?」



青と金のカプセルを合計9個出て、最後の一つは出ようとした瞬間眩い光が辺りを包み込む



「虹確定演出だとぉ!?」



ファウストが叫ぶ。青が一般職、金が高位職、そして“虹”、此は『最高位職』である。最前線のトッププレイヤーであるカイの『聖騎士』も最高位職の一角を担っている



「お、俺の苦労は一体......」



ナナシの目の前でファウストが項垂れる。ガチャなんてのは所詮運ゲー、幾ら確率が低いからといっても10連で出ないとは言っていない



「折角課金までして自分のなりたい職業を引いたのにこんなのあんまりだぁ......」


「フハハ!運がいいのう」



初めてのガチャで虹が出るなんてさながら“ビギナーズラック”だ。賭けに負けたファウストは秘密を一つバラさなくてはいけない



「さて、開封していくかの」



ナナシは一つ一つ丁寧にカプセルを開けていく


R『狩人』、R『執事』、R『薬師』、R『学者』、R『歌手』、R『農家』、R『大工』、SR『鍛治師』、SR『暗殺者』、そして



UR『演技者』



正に自分にぴったりなものが来たとナナシは思った。だがよくよく考えてみると今のままでも十分演技は上手い方だろう。少しだけがっかりした



「何が出た?」


「えん......sh......」


「ん?何だって?」


「『演技者』じゃ!」


「あーそれは、ご愁傷様。どうだ、こっちの『暗殺者』の方が良さそうだぞ?」



一瞬で察したファウストが慰めの言葉を掛け、SRである『暗殺者』よ指差した



「く、だが仮にも虹の職業!捨ててしまうのは勿体無い」


「まあそりゃそうだよな。俺だってそうするぜ」



大人しくナナシは職業をセットする。



職業が『演技者』になりました


称号ゲット!

『ド三流?』

獲得条件:職業を『演技者』にする


スキルゲット!

『演技』



職業ついでに何やらスキルもゲットした様だ。詳しい内容は、



演技:アクティブスキル。姿、形、色、気配、匂い、味、五感の全てを演じて理想の自分を演技する



ちょっとよくわからない。ファウストに向けて実際に試してみる



「ファウスト、そこに立っておれ」


「む、何か嫌な予感が」


「『演技』」



自分の理想を創造し、想像する。そこに現れたのはもう一人のファウスト



「うお、鏡みてぇだな」


「ふむ、ちゃんと匂いやら気配も一緒じゃな」



ナナシは装備を確認するためにウィンドウを開く。そこには、



「フハハハ!ファウストよ、これ結構チートじゃぞ!」



があった

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