第4話 初装備





仕事終わり、18時で定時退社し電車に乗り家に向かう。夜の9時、ご飯や風呂を済ませて【アドベンチャー・ワールド・オンライン】にログインする。目の前に現れたのは初期スポーンである草原だ



ぴこん



メッセージが届いています



『装備が出来上がったぞ!昨日の狩場に集合な!』



それに対して返信する



『了解。楽しみにしてる』



「良し、行くか」



どんなのが出来上がったのか楽しみだ。洋風か和風かはたまた中華風か、思わずニヤついてしまう。その顔はこのゲームをダンボールから取り出そうとした時のものとそっくりだった





そんなこんなで到着。狩場の奥、崖があるところ付近まで来て見ると見覚えのある半纏が目に付いた



「来たかナナシ!見てくれよ自信作だぜ!」


「どれどれ......」



渡された装備を見てみる。襦袢じゅばん長着ながぎ羽織はおりはかままさに太正浪漫が詰め込まれた厨二心がくすぐられる一品。名前は上から【大正浪漫之襦袢】、【大正浪漫之長着】、【大正浪漫之羽織】、【大正浪漫之袴】。これを一日で仕上げたと言うのだから仕事の速さに舌を巻くしかない



「俺の偏見だが、ミステリアスなキャラって何だか和服のイメージがあるんだよな。それで、どうだ?気に入ったか?」


「ああ、完璧じゃ。見事に完成されている」



俺はこの装備がかなり気に入った。やはりファウストの縫製技術は一流だ。だがやはり見た目を凝ってしまったが為にステータスはあまり上がっていない



「おっと最後にこれを忘れちゃあいかんでしょ」



そう言ってそこらの店でも売っていそうなありふれた中折れ帽を渡してくる。名前はそのまま【大正浪漫帽】である



「これを冠って自分を見てくれ」



ファウストの言う通りに帽子を冠り、自分の姿を確認する。そこに居たのは独特な雰囲気を醸し出す一人の老人。他とは一線を画す威圧感を放っていた



「ステータス確認してみろ。おもしれぇモンが見れるぞ」


「......ステータスオープン」




名前:ジェーン・ドゥ 種族:人族 性別:♂ 職業:無 所属:無 属性:⚠︎レベルが足りません 所持金:10000G ポイント:0


Lv.8 HP:80 MP:80

STR:510 VIT:50 DEX:10 INY:50 AGI:20 LUK:5


スキル:『忍足』『気配感知』『契約』『威圧』


称号:《初めの一歩》《初パーティ》《初めての友達》



ステータスがかなり上がって、スキルも新たに付いている



「どう言う事じゃ!新しいスキルに大幅なステータスアップ、何が起きておる!?」


「装備のセット効果だ。まさか新しいスキルがゲット出来るとは、思っても見なかったがな。然もこれ、ネットで調べたが情報が出てこなかったんだ。つまり......俺たちがこのゲームで初めて装備セット効果で新スキルを手に入れた事になる」



あまりの驚きに言葉が出ない。ただこれだけは言える。彼が他の生産職とは頭一つ抜けていると言う事だ



「やはりお主は天才じゃファウスト」


「お褒めに預かり光栄だ。そうだ、ついでにこんなモンも作ってみた」



取り出したのは何の変哲もない一本の杖。だがファウストただの杖を持って来るはずが無い。ナナシの考えは間違っていなかった。ファウストが柄とグリップ《持ち手》の部分を片方ずつ持ち、滑らせていく。杖から刀剣が抜刀された。



「中々、上手い具合に仕上がってるだろ?」


「素晴らしい......お主の本業が本当に縫製職人なのかが疑わしくなってきたわい」


「まさか、流石に本職には勝てん。あんたは俺の事を過大評価しすぎだ」


「本当の事を言ったまでじゃ。あまり謙遜をすると嫌味に聞こえるぞ。そう言う言葉はありがたく受け取っておくに限る」


「まぁ、そう言う事にしておこう」



装備を身に付けた事でステータスも上がった。先ずは肩慣らしにこの狩場(正式名称:ビギナーズフォレスト)でワイルドボアを狩りに行く



「グオオオォォォォオオオ!」



歩いていると直ぐに見つかった。ここで思い出した事がある。そう、新スキルである『威圧』の事だ。装備のあまりの完成度に興奮していたこともありすっかり忘れていた



「『威圧』」



ナナシはスキルを発動した。次の瞬間、ワイルドボアは蛇に睨まれた蛙の様に動けなくなる。その隙を突いて仕込み杖を抜刀し、切り裂く。ワイルドボアは見事に袈裟斬りになり消滅した。『威圧』のスキルの内容を見てみる



威圧:アクティブスキル。敵対している相手を硬直させる。相手とのレベル差によって硬直時間が変わる



純粋に強い。この表記が間違いでは無いのなら、格上相手でも一瞬は硬直すると言うことである。今後ともお世話になりそうなスキルだ


ナナシは『威圧』を使いどんどんとワイルドボアを倒していく。すると突然止まり隣にいたファウストに話し掛ける



「ファウストよ、お主はレベル上げを何処でやっている?」


「ん、いきなりどうした?」


「流石にこの狩場ではもうレベルが上がり辛いのでな、何処かもっと経験稼ぎの出来る場所は無いかの?」


「あー、もうビギナーから抜けたのか早いねぇ。俺も頑張んなきゃな、なんせ生産職だからレベルが上がり辛いんだよな」


「どう言うことじゃ?」


「ここでモンスターを狩続けてレベルが上がり辛くなって来てから漸くビギナー卒業っつー事だ。生産職は攻撃系のスキルが発現し辛いくてレベルが中々上がんねぇんだよ」



生産職のスキルは大体が生産関連のスキルである。だがそれはそれぞれの分野での生産を楽にするだけであり、作る作品は製作者の度量で決まる。その点に関してはファウストはこのゲームで一番と言っても過言ではない



「そう言えばお主まだレベル5だったのう。ん?じゃああのヒトガタどこでテイムしてきたんじゃ?」



ナナシが疑問を呈する。当たり前だ、このビギナーズフォレストは名前が名前なだけにワイルドボア出てこない。なのにファウストはあのヒトガタを何処からかテイムして来たのだから



「あぁ、あれの事か。アイツは『スレイヤー』つってな、別名初心者殺しビギナーキラーって言う文字通りこの初心者しかいないこの森で出てくるクソったれなモンスターだ」



この恨み様、一度やられておるな。ナナシは可哀想な目でファウストを見た



「ほう、どうやってテイムしたのじゃ?」


「罠だよ罠。俺がアレに真正面から勝てるわけないだろう。よく狩人が使う縄をで対象を宙吊りにするああ言う罠を作って上手く誘導して引っ掛けた」


「あのスピードに対して上手く誘導したじゃと?儂なんか初手で逃げようとしてたのに?」



ナナシのファウストへの評価が過小ではないと言う事が証明された瞬間だった

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