第5話 ボス戦と最初の街
「で、結局経験値を稼げる場所は何処にあるんじゃ?」
「ちょっと待て焦んな......この先にある“ボス戦”のフィールドまで行くぞ」
ビギナーズフォレストを抜けた先にボス戦のフィールドがあるらしい。早速、そこに向けて出発した
「因みに、ボス戦の基本情報は頭に入ってるか?」
「いや、まったくと言っていいほど知らん」
「......基本情報は公式のホームページに載ってるんだが見てないのか?」
「ネタバレされるのは嫌いなんじゃ。儂は意地でも見んぞ」
ファウストは呆れた。なんて頑固で意地っ張りな爺だ。まるでガキみたいに駄々捏ねやがって
「ハァ......ボスは俺らが入った瞬間にスポーンする。ボス戦は一人ずつ、もしくは一パーティずつしか入れない。入ったらボスを倒すか死ぬかしか出口はない。分かったか?」
「相分かった。パーティで倒したら経験値は分割されるのか?」
「いや、其々にソロで倒した時と同じ量の経験値が手に入る。つまり、パーティを組んでた方がお得って事だな」
(成程、これからはパーティが大切になってくるな。行く行くはパーティの人数を増やしていきたいし、ギルドを作って秘密結社も良いかもしれない)
ナナシは空想を膨らませる。生産関連の人員は一人確保した。だがまだ足りない。更にもう何人かは欲しい。後は戦闘狂ポジション、参謀ポジションの奴が欲しいな
「お、おい大丈夫か?そろそろ着くぞ?」
「ん、おお申し訳ない。だらしの無い所を見せてしまったのう」
(やべ、今どんな顔してたんだ?ファウストが軽く引いてるし)
「......着いたぞ」
目の前にまさにボスのフィールドだと一瞬で分かる開けた場所に出た
「準備は出来てるか?」
「いつでも良い。儂の得物も準備万端じゃ」
「俺は“コイツ”で後ろから援護する」
そう言ってファウストが取り出したのは、ワイルドボアの素材で作られたコンポジットボウだった
「矢の数は少ないからあんまり期待してくれるなよ」
「ヘイトは儂が受けるから安心せい」
「応」
そう言って二人はボスフィールドへ入って行った
◯
「グオオオォォォォオオオ!!」
目の前に現れたのは2tトラック並のデカいワイルドボアだった。頭の上には『ビッグワイルドボア LV.20』と書いてある
「なんか想像と違うモノが出てきおったぞ!?」
「落ち着け、あんな
「わーっとるわい!今しがた準備万端と言ったばかりじゃ、聞こえておらんかったか!?」
「すまんな、この歳になると耳が遠くてさ」
「お主は儂より年下じゃろうが!」
下らない言い合いをしながらナナシが走る。それと同時にビッグワイルドボアもナナシに向かって突進する
「『忍足』!」
ぶつかる瞬間、ビッグワイルドボアの真横に抜け、杖の鞘を抜き身体の側面を切る
「隙だらけだな!」
「グオオアァァアアアアア!!」
身体の側面を切られ、一瞬だけ気を逸らした内にファウストが弓で目を射った
「やるのう!」
「そっちこそ、な!」
更にもう一発、ファウストが矢を放つ。矢はビッグワイルドボアに吸い込まれる様に当たった
「グオオ!」
「ナナシ、行けェ!」
ヘイトがファウストに向く。その隙を見逃さずナナシが目が潰された側、つまり死角へ潜る
「喉元の頸動脈を狙え!クリティカルだ!」
「憤ッ!」
ナナシが力任せに杖を振るう。見事に喉元が裂け、ビッグワイルドボアは倒れた
「やったなナナシ!」
「お主もじゃ、いいコンビネーションじゃったぞ」
ナナシとファウストがハイタッチする。
「まさか目を射るとはな......お主本当に生産職か?」
「気になるんだったらステータス見せてやってもいいぜ」
「いや、いい。それにしても見事な弓捌きじゃったぞ」
「照れるね」
「やめい。野郎の
ぴこん
軽快な音と共にウィンドウが開かれる
レベルアップ!
Lv.12→15 ポイント:200→400
称号ゲット!
『ボス討伐者』を獲得しました
獲得条件:ボスを討伐する
スキルゲット!
『突進』を獲得しました
「おお、新しいスキルをゲットしたぞ。『突進』と『一射必中』だってよ」
「なに?儂は『突進』だけじゃったぞ」
突進のスキル説明はこの様になっている
突進:アクティブスキル。前に向かって猛烈に突進する。クールタイム10秒
「して、『一射必中』とはどんなスキルなんじゃ?」
「かなり強えスキルだぞ。聞いて驚くなよ!」
一射必中:アクティブスキル。発動すると飛び道具が必ず相手に当たる。クールタイム20秒
「この“飛び道具が必ず”当たるって所がネックだ。飛び道具だから矢じゃなくても当たる」
「ゲームバランスが崩壊しそうじゃな」
ファウストは弓を使ってたからこのスキルが生えてきたんだろうな。ナナシは少しだけガッカリした
◯
レベルアップ!
Lv.19→20 ポイント:60→65
「レベル20突破じゃあ!」
「マジか速えな。俺はまだ15なんだが」
初ボス討伐後、ナナシ達はリスポーンしたら狩り、リスポーンしたら狩りと永遠に続けていた
「そうじゃ、儂街に行ってみたいんじゃが」
「あーそうだな......ちょっと待ってろ」
そう言ってファウストは腰巾着を漁る。袋から出てきたのは真っ白のシンプルな、そして鈴のついている狐面だった
「じゃん!どうだかっこいいだろ」
「うおおお!この厨二心をくすぐられるフォルム!顔を隠すのにぴったりじゃ!」
「ついでに俺の分も」
そうして取り出したのは今度は真っ黒のシンプルな狐面
「おお、対になっておるのか!素晴らしいのう」
「これで準備万端だな。早速街に終発だ!あんたは行ったこと無いだろうし俺が案内してやんよ」
「うむ、頼んだぞ」
そうして二人は街へと向かって行った
◯
「到着じゃ!」
「これが最初の街『アインス』だ」
広いデカい。ナナシが最初に考えたのはそれだけだった。初めての街に興奮が収まらない
ぴこん
『チュートリアルクエスト』
・街へ行こう 達成済
「あんまキョロキョロすんな、御上りさんかよ」
「こんな都会は初めてなんじゃ!興奮せずにはおれんわい」
「まあ事実、御上りさんみたいなもんか」
ファウストはナナシを止めるのを諦める。普通、初めてってだけでこんな興奮することあるか?
「んじゃ先ずはポータル登録だな。あの真ん中にある噴水に触れてこい」
「了解じゃ」
大人しく噴水に触れる。すると噴水が一瞬だけ光り、ウィンドウには『ポータル登録されました』と出ている
ぴこん
『チュートリアルクエスト』
・ポータル登録をしよう 達成済
「出来たわい」
「応、そんじゃ移動すんぞ。流石にこの格好は目立つしな」
ファウストは周りの異様な人物を見る視線を認識していた
「なんだあれ」
「かっこいい!」
「あの服どこで売ってるんだろう」
「すごい綺麗」
「NPC?」
「プレイヤーじゃね?」
「是非とも取材を!」
「.....「......「......
「おいナナシ何やってる、早く行くぞ!」
「ちと待ってくれんかの、もっと辺りを見てみたいんじゃ」
「んなの後ででも良いだろ、ほら置いて行くぞ」
「......分かったのじゃ」
渋々ファウストについて行くナナシ。周りの視線に気づく様子はない
「して、どこに行くんじゃ?」
「決まってない」
取り敢えず人目につかない様に小さな路地へ入る。すると誰かが声を掛けてきた
「ね、ねぇ君たちプレイヤー?」
ちょっとびっくりしたけどなんとか取り繕えた。ここは何も知らないふりわする
「ぷれいやーってのは“旅人”の事か?」
「そ、そう。君はここの住民なの?」
「いや儂らはちょいとこの街に用事があってのう。お嬢さん、余り不用意に知らない人に近寄ってはダメじゃぞ?」
『威圧』を使って少しキツめに言う。不審者について行っちゃダメだよ
「あ、はははははい。す、すみません。あの、名前......名前を教えてくれませんか......?」
ナナシは少し悩み、ファウストにアイコンタクトを取る
“別にいいだろ”
ファウストから許可をとり、名を名乗る
「儂はジェーン・ドゥ。ただのナナシじゃ」
「俺はファウスト。祝福のファウスト」
少女の反応は、
「かっこいい......」
“掴みは上場じゃな”
“ああ、上手く行った”
又もやアイコンタクトで会話する
「じゃあの」
「そんじゃな」
二人はその場から去って行った
◯
「祝福ってなんじゃ?」
「カッコつけただけだ。それにあんたの装備だってまるで祝福されてるみたいだろ?」
「確かにそうじゃな。これからファウストの二つ名は『祝福』じゃな」
意外な所で二つ名が決まってしまい、ちょっと気恥ずかしいファウストであった
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アイ視点:
どうしても気になってしまう
「あの人達何者なんだろうね」
『さぁ?』
『NPCかも』
『ワールドクエストに繋がってるとか』
『装備かっこいい!』
『話しかけてみたら?』
『アイちゃん話しかけて!』
こんな美味しいネタを放って置くなんて勿体無い!配信者魂が燃え上がる
私は【アイ】、チャンネル登録者80万人の配信者である。最近この【アドベンチャー・ワールド・オンライン】をプレイし始めた。つい先程街に着き、ポータル登録したばかり。そんな私の目に入ったのはあの二人組の男性達だった
「あの狐面ってどこで買えるんだろ」
『あの二人気になるな』
『装備も凄そう!』
『そもそも狐面なんてこの街で売ってなかった気がする』
『売ってないぞ』
『ワイも欲しい』
「え、売ってないの?」
ますます気になる
そうして私はあの二人を尾行して行った。着いたのは小さな路地。思い切って二人に話しかける
「ね、ねぇ君たちプレイヤー?」
すると半纏の男が少し間を置いて言った
「ぷれいやーってのは“旅人”の事か?」
この言い方はどうやらNPCの様だ
「そ、そう。君はここの住民なの?」
そうすると、白髪の杖をついたお爺さんが言った
「いや儂らはちょいとこの街に用事があってのう。お嬢さん、余り不用意に知らない人に近寄ってはダメじゃぞ?」
ゾワッ
一気に鳥肌が立つ。これは、何?震えが、止まらない
「あ、はははははい。す、すみません」
震えて上手く喋れない、体も動かない。私は勇気を振り絞って聞いてみる
「ああの、名前......名前を教えてくれませんか......?」
二人が顔を見合わせる少し間を置いて
「儂はジェーン・ドゥ。ただのナナシじゃ」
「俺はファウスト。祝福のファウスト」
な、名乗ってくれた。大丈夫かな、不快に思ってないかな。それに
「かっこいい......」
不覚にもかっこいいと思ってしまった
「じゃあの」
「そんじゃな」
二人が視界から居なくなる
「ぷはぁ、はッはッはッはぁ!」
呼吸が乱れる。上手く息ができない
『アイちゃん大丈夫!?』
『さっきの奴ら怖ッ』
『謎が深まる』
『ジェーン・ドゥって名無しの権兵衛って事?』
『ファウストってのは“幸福”って意味があるらしい』
「ごめんごめん大丈夫だよ!」
嘘だ。全然大丈夫じゃない。さっきから冷や汗も止まんないし、未だ呼吸も乱れてる
『あ、同接50万おめでとう!』
『アイちゃんチャンネル登録者数見てみて』
『チュイッタートレンド一位おめ!』
「んえ?」
チャンネル登録者数をみて変な声が出る。そこに書いてあったのは
『チャンネル登録者:100万人』
「うええええええ!?」
小さな路地に悲鳴が上がった
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