第3話 情報交換とパートナー





俺は一瞬で武器を構える。この剣は一番最初に貰える最弱の剣だ



「ちょまっ!」


「憤ッ!」



ソイツに向けて思いっきり剣を振るう。だがそれは軽く体を捻るだけで避けられてしまう



「待て、落ち着け!」


「貴様さっきのモンスターの主人じゃろうが!儂はあのモンスターのせいで死にかけたんじゃぞ!」


「それに関しては申し訳ねぇと思ってるからその剣下ろしてくれ!」



まだこの恨みを晴らせていないが渋々剣をしまう



「とりあえず自己紹介からだ。俺の名は『ファウスト』、職業は『縫製職人』だ」


「儂はジェーン・ドゥ、職業はまだ持っとらん」


「......あんた見たところ初心者だな。何で街に向かわないで狩場に来てんだ?普通は街に行って職業取ってからだろ」


「生憎普通のプレイはしておらんのでのう」


「......特殊性壁?」


「そっちのプレイじゃ無いわい!!」



お互いの自己事故紹介が終わり暫しの静寂が訪れる。そこで先に口を開いたのはジェーン・ドゥだ



「ファウストや、質問いいかの?」


「応、今回は俺の落ち度の所為で巻き込んだ。詫びと言っちゃあ何だが何でも聞いてくれて構わねぇ」


「貴様のそのスキルよもや『テイム』か?」



一番の疑問を正直に伝える。再び長い沈黙が訪れ、そして漸くファウストが重い口を開けた



「......はぁ、漢に二言はない、その通りだ。で?それを聞いて如何する」


「お主、儂の仲間にならんか?」


「......はぁ?」



ファウストの頭の中は困惑という感情で埋め尽くされた。コイツは何を言っている、如何して突然、何故何故何故......。壊れた機械の様に同じ事を繰り返す


結局ファウストはコイツは何を考えているのか分からないという事が分かっただけだった



「先ずは理由を聞いてもいいかい?」


「お主のそのスキルが有用だと思ったからじゃ。然もそれ、結構なレアスキルじゃろう?それがあれば儂のやりたい事ができる」



随分意欲的な爺だ。こういう奴のやりたい事なんて大体が碌な事じゃねぇ。ファウストは自身の経験から年が上のものに対しての警戒心が強い



「......嫌だ、と言ったら?」


「お主今レベルは幾つじゃ?」


「......5だ」


「今ポイントをSTRに極振りした。儂が二、三発攻撃すればお主はリスポーンする事になる。如何じゃ?」



このゲームは現実に即しているのでデスペナルティがかなり重い。もし死んでしまうと半日はログインできず、更にステータスに十二時間デバフが付き纏う。そうなってしまうと大人しく待つ事しか出来なくなってしまう



「......ハァ、わぁーったよ!あんたはこれから俺のパートナー兼パトロンだ。足引っ張るなよ名無しの権兵衛さんよ」


「それはこっちのセリフじゃ小童クソガキ



ウィンドウを開いてパーティに招待するついでにフレンド登録もした。これで晴れてパートナーが出来た



ぴこん



称号ゲット!

『初パーティ』『初めての友達』を獲得しました

獲得条件:パーティを組む事、フレンド登録をする事


スキルゲット!

『契約』を獲得しました



丁度おあつらえ向きなスキルが生えてきた。早速使ってみよう。そんなこんなでパートナーとして契約を結んだ。毎度毎度こんな事をしていたら気が滅入るのでお互いに3つルールを決めあった



1.お互いは対等な存在である事


2.仲間のピンチは必ず助ける事


3.ルールを破らない事



「これで良し、じゃあ宜しく頼むわ。それと、あんたの事なんて呼べばいい?ジェーン・ドゥだと長いだろ」


「何でも良い。お主に任せよう」


「......じゃあ名無しの権兵衛から取って『ナナシ』にしよう」


「相分かった。そういえば何故あのモンスターは襲ってきたんじゃ?お主テイムしていたのだろう?それと『テイム』の取得条件は何じゃ」


「『気配感知』使って範囲内にいる気配片っ端から殺して行ってたんだ。そもそもこのスキル、あくまでも気配を感知するだけだからモンスターとプレイヤーの区別がつかねぇ欠陥スキルだ」



『気配感知』の意外な弱点が露呈した。たしかに説明文には「半径30mの気配に敏感になる」としか書いておらずプレイヤーとモンスターを区別できるとは書いていない



「『テイム』はそのまんまモンスターを使役するスキルだ。テイムしたモンスターは細かく命令しないとちゃんと実行できない、要するにプログラミングしなくちゃいけない。それをミスっただけだ。『テイム』は職業柄モンスターの素材を扱っていたからモンスターについて詳しくなって行くうちに身についた」


「かなり面倒くさい条件じゃな、儂一抜けた」


「俺からも質問だ。あんたの『やりたい事』ってのは何だ?」



「......笑わないでくれるかのう」



「何故笑う必要がある。人が一生懸命やりたいと思っている事を笑う奴があるか。そんなのがいたら俺がぶん殴ってる」



「正体不明のNPCのふりをして物語のキーを握ってそうな存在になりたいんじゃ」



「......?」



最初は何を言っているのか分からなかった。その後何度も頭の中で反芻し、段々と理解してきた。今日一意味わからない発言だ。ファウストはドン引きした


だが、



「クハハハッ!面白い!いいじゃあねぇか、そういうの好きだぜ!」


「笑うなと言うておろうが!兎も角これで儂とお主は共犯者じゃ。しっかり付き合って貰うからのう」


「これが笑わずにいられるかよ!本当の本当に特殊性壁じゃあないか。クハハハハッ!尚のこと気に入った!あんたには俺の客第一号になって貰うぜ。異論は受け付けねぇ」


「客、という事は儂に服を作ってくれるのか?」


「あんたが何で街に行かなかった嫌、行けなかったのかあんたの『やりたい事』で何となく理解できた。どうせその初心者装備のまま街へ行ったらプレイヤーだとバレちまうからだろ?だったら『縫製職人』である俺の出番だ。おっと、パトロンと言っても金は払って貰うぜ。なんせ金欠なんでな」


「お主買い物をしたっていうのにのに随分身軽そうじゃな。その装備を作る為にかなり注ぎ込んだのじゃろう」


「宵越しの金は持たない主義なんでな」



今更だがファウストの服装は初心者のそれとは違う。この狩場で出てくるモンスターであるワイルドボアの皮を使った半纏、腹掛け、股引き、そこらの草叢で採集した藁で作った草鞋の見事な職人風俗だ



「一日だ。一日で作り上げてやる。それまで待っていてくれ」


「流石に今すぐ作れと言う程鬼畜じゃあないわい。幾ら必要なんじゃ?」


「友人割引きでざっと10000G!」


「......ぼろうとしてないじゃろうな?」


「何言ってんだ俺は職人だぞ。客に対して、況してやパトロンに嘘なんか吐くわけないだろ」


「其れもそうじゃな。悪かったのう。改めて宜しく頼むぞ『ファウスト』」


「ああ、こちらこそ『ナナシ』」

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