第2話
「急にごめん、呼び出して」
いいよいいよと彼女は笑って答えてくれる。
「それでどうしたの?相談だなんて珍しいね」
彼女は元気にそう言葉を掛けてきた。
そんな彼女の笑った声がまぶしく感じた。
「実は、花吐き病という病気にかかってしまってさ。」
彼女には基本的には嘘はつかない。
そう心に決めている。
「片思いを拗らせるとなるらしいんだけど、肝心の相手がわからなくてさ。」
そう思いを告げると、少し考えるような唸り声がした。
「最近よく話してる人とかいないの?」
最近話していると言えば、先ほど遊んでいた彼しかいない。
その次に今はなしている彼女ぐらいだ。
「まぁ、いるけどそいつとはそういう関係じゃねぇよ。」
「関係とかじゃないと思うけどなぁ。それで?どんな人なの?」
私から恋の話でも聞けるとでも思っているのか、少し興奮した様子で話す彼女。
「あいつとはゲームだけする仲だよ。最近は色んなゲームやってるから一緒にいる時間が長いってだけで。」
「まぁ、一緒にいて楽しいは楽しいな、落ち着くし、何も考えなくてもわかってくれるから。」
「えっ、そんな仲いい人いたんだ。」
驚いたと言わんばかりの大声を張り上げる彼女。
「仲いいっていうか、安定っていうか。」
「でも、その関係って大分特殊じゃないかな。友達ってもっと会話したりするもんなんじゃないかな。」
「そうなんかな。」
「私はそれ恋じゃないのかなって思うけどな、最近寂しいとか感じないの?」
その言葉に胸の中がどよめく。
寂しいという言葉に身に覚えがあるからだ。
「図星なんだね」
意気揚々とそういう彼女は、何かをつかんだかのように言葉を続ける。
「寂しいと思うなら、それは恋なんじゃないかな。」
「それだけで恋なら何でも恋だと思うけど...」
そう思ってしまうのも無理はないだろう。そんな単純なことで恋など言われれば疑ってしまう。
「寂しいとかいうタイプじゃないじゃん。いつも友達に囲まれて一緒に楽しそうにしているのがあなたじゃないの?」
その言葉にぐさりと刺される。一昔前まではそうだった。
たくさんの友人と創作をしてそれを世に出していく活動をしていた。
それが楽しくてずっと何年もそうしていたのだが。
「そうだけどさ。」
「最近あなたはカラに引きこもってばっかりでつまらないよ。傷つきたくないってばかり気にしてる。」
その言葉は深く突き刺さり、そして自分を納得させるに十分すぎるほどの説得力があった。
ほかの友人とは違うもやもやが彼に対してあったのを今更自覚する。
「そうだよな。」
だが、それを自覚したくなかった。私は無意識に逃げていた。
傷つきたくないし、それすらに気づきたくもない。
そんなわがままな行動が裏目に出て片思いを自分の力で拗らせてしまったというわけなのか。
「はっきりとわかったね、多分その人があなたの好きな人。」
しかし、彼のことが好きなのがわかったとしてもそれは叶うことの無い恋ということははっきりしていた。
それは相手が色恋沙汰をひとつも見せないからだ。
普段から冷静沈着な彼は恋など興味の欠けらも無い人間なのだから、もし私が告白したとしても微動だにしないのだろう。
「叶わないよ。」
そうはっきりと口にした。
「なぜそう思うの?」
「彼はそういうものに興味が無い。」
「困ったね...」
恋が叶わない。すなわち私はこのまま花を吐き続け死ぬしかなくなってしまったのだ。
「まぁ、想い人は分かった。それだけでも一歩進展だよ。ありがとう。」
「なら良かった。次は相手を落とさなきゃね。」
なんて彼女は笑うが、この関係を崩し相手を落とした上で恋が成就し、関係構築をするという無理難題がこれから待っているのだと思えば、とても気が遠のく。
あれから月日が経ち、彼とも何度も遊ぶ機会があった。そしてその度に意識をしてしまい、少しづつ気まずい空気が流れ始めていた。
やはり気づかないでおくべきだっただろうか。そう思ってしまい、少しずつ彼を避けるようになって行った。
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