花吐き病というものは

りると

第1話

篠突く雨、電気もつけないままに天井を眺めていても何も生まないのはわかっていた。

床に広がるはたくさんの花弁。

後悔と苦しさに苛まれ、どうしようもない想いを口に出せないでいた。



「嘔吐中枢花被性疾患」通称、花吐き病。

病院の先生から告げられた病名はよくわからない病気だった。

それは花を吐き続ける病気だとか医者は言っていた。

非科学的な治療方法を聞かされた時は驚きを隠せなかった。

己の恋を成就させること、それしか完治の方法はないという。

おまけに花に触れると感染する、成就しなければ死んでしまうというものだった。

片思いを拗らせると発症するとのことだったが、私には思い当たる節がなかった。

好きな相手などいない。ただ目の前にあるのは仲の良い友人だけだった。

突然スマホのバイブレーションが鳴る。

それは友人からのゲームの誘いだった。

布団から出て落ちている花弁を払いのけながらPCを起動する。

こんな訳の分からない病気に気をとられている暇などないのだ。

PCを開き、友人が待っている通話に行けばいつもと変わらぬ声が声をかけてくる。


「ん。」


「よっ。」


そう返せば無言で始まるゲーム。会話などいらないその空間がとても心地よい。

こうしてゲームを何か月毎日続けていると何も会話をせずにでもなんとなく相手の行動が読めてくるため、なんとなくの感覚で相手のフォローをする。

ニ、三時間したころぐらいで別のゲームしてくるとだけ言い残し通話を去っていく友人に少し心残りを感じながらも行ってらっしゃいと伝える。

ただそれだけの関係のはずだった。

最近、友人がどこか別の所に遊びに行ってしまうのが心苦しいと感じるようになってきた。

それはただ一人になるのがつらいからということなんだろうと思い、私は彼に別のゲームを誘ってみたりして、少しずつ同じ時間を過ごすようにしていた。


「そういえば咳うるさくない?大丈夫?」


そう彼が声をかけてきた。

彼との通話音声には咳の音など入ってはいない。


「え、咳してるの?」


そう声をかければ、最近咳するのが多いんだよねと彼は笑う。

その笑い声に胸がざわつく。


「大丈夫か?無理すんなよ。」


その言葉は相手には届いてはいないようで、適当にあしらわれてしまった。

会話が終わってしまい、また無言でゲームを進めて行く。

ただ、平和な時間が続いていけばと思う時間が増えていく。

しかし、いつしか終りは来るもので、友人はほかのゲームをしてくると通話を切ってしまった。

ぽつり、自分の心の中に穴が開いてしまったような感覚がして少し苦しくなった私は、別の友人に相談してみることにした。

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