第12話熱血のクソ教師
次の日、今日はセラねぇが車で送って行ってくれるとのことでお言葉に甘えて送ってもらうこととなった。
「ふふ、昨日は大活躍だったわね」
「別に、あんなのは学生のお遊びだし……」
「昨日のけんちゃんはかっこよかったなぁ」
「……」
彼は無反応のようにしていたが、内心では思いっきりガッツポーズをきめていた。
「ところで友達はできたの?」
「友達かぁ、まぁ何人かは……」
「そう、なら保健室登校も卒業かな」
「……っていやいやいや、保健室登校は辞めないよ!」
「えー、折角友達が出来たんだから普通に登校すればいいのに」
「それとこれとは別の話だよ」
そのときに彼の手が僅かに震えていたことを彼女は敏感に感じ取っていた。
そうして彼らは学校に着くといつものように保健室に向かって移動していると、いつもよりも早く学校に来ていた別クラスの体育教師の
幸いにも二人は少し離れて移動していたので関係性がバレることはなさそうだった。
「おお! セラ先生ではありませんか! おはようございます!」
彼は朝からトレーニングをしていたのか、むせ返るような汗の匂いを身に纏ってセラ先生に近づいていく。
彼女は内心ではその匂いに近づかれたくなかったがそんなことはおくびにもださず、和やかに微笑みを返して対応した。
「……あらあら、琢磨先生は相変わらず朝からお元気そうですね」
「はぁ! 私もまだまだ筋肉の鍛え方があまく、今日も朝から精進しておりましたよ!」
彼は彼女にその肉体美を見せつけるようにポーズを決めて満足そうにしているが、彼女がその行動に若干引いていることに気が付いてはいなかった。
賢也自身彼女が彼を嫌がっていることは気づいていたが、校長先生以外の教師には二人の関係性が秘密になっていたことと『二人だけの時以外は互いに干渉禁止』というセラねぇとの約束を守るためスルーすることを決めていた。
「元気なことはいいことですので、これからも生徒達の模範となるよう頑張ってくださいね」
「そ、それは勿論ですとも! ……それよりもセラ先生、今度のお食事の件考えてくれましたかな?」
俺が二人を無視して通り過ぎようとした時、そこのクソ男はとんでもないことを口走った。
「い、いえ私は今日も用事がありまして……」
「この前もそう言っていたではありませんか! セラ先生のような上品な女性にぴったりのバーを見つけたんですよ! どうですか?」
「いや、私は夜に書類整理の仕事などもありますし……」
「そんな物事務の者達に任せておけば良いではありませんか」
彼はセラ先生が嫌がっているにも関わらず、しつこく迫ってきていた。
(それはもう脈なしってわかるだろ! というか一教師として生徒の前で教師を口説いていいわけないだろ!)
彼は苛立った様子を見せると、さささーと彼らの間に入って話を遮る。
「先生! そういうのは学校でやるべきではないと思いますよ!」
「むむ! 君は……どこの生徒だ?」
「セラ先生を口説くのはよしてくださいよ、セラ先生は生徒達の間でもマドンナとして有名なんですよ!」
「い、いや私は別に! 口説いてなどは……」
「それでは琢磨先生、私は生徒達の健康調査カードの整理がありますので、もう行きますね」
「あ、ええ。 どうぞどうぞ!」
タイミングよくセラねぇが逃げてくれたおかげで先生も引き下がるしかなくなり、俺に対して恨みの視線を向けてきたが渋々引き下がっていった。
そうして俺は他の教師に見つからないよういつもとは違い、関係のない教室やクラスを通って遠回りしながら保健室にたどり着く。
「あら?けんちゃんちょっと遅いじゃないの。 あの後何か言われてたの?」
「いや、ちょっとゆっくり来てただけだよ。 それにしても、まさかセラねぇが琢磨先生に狙われているとはね」
「そうなのよねぇ、この前もしつこくご飯に誘ってきて、困ったものだわ」
それから俺たちはいつものように雑談をしながら勉強や仕事を進めて、気がつけばお昼の時間になっていた。
「けんちゃん、ちょっと人と会ってくるから後よろしくねぇ」
「ほーい」
セラねぇはこうやって学校で人と会うことが多い。 曰く、容姿がいいために学校のお客さんの応対なども校長先生から頼まれているそうだ。
(今日は弁当を家に忘れてきたし、購買でも行こうかな)
彼はセラ先生に頼まれていたが、この時間帯に怪我で訪ねてくるものは居ないだろうと考えて購買へと向かった。
保健室から出て廊下を歩いていると……。
「見つけた!」
後ろからのふいの言葉に振り向くと後ろから何者かが飛び込んできて、俺はタックルを決められて後ろに尻餅をついて倒れた。
「いつつ、おい!危ないだろ」
返事がないことに違和感を抱いたので飛び込んできた人物を見てみると。
「賢也君!」
俺は梓にがっしりとホールドされてしまった。
「あ、梓? これは一体どういう……」
「なんで……」
「??」
「なんで居ないんですか!」
彼女の突然の怒鳴り声に俺は唖然とすることしか出来なかった。
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