第9話※これはサッカー漫画じゃありません

彼は思わず、小さくガッツポーズを決めた。


彼が周りをちらちらと眺めてみると周りはシーンと静まり返ったあと、「うおー!」という歓声に沸いた。


何人かのチームメンバーが近づいてくると肩を組んでくる。


「お前今のすんげぇなぁ!」

「あんなんできるんだったら最初からやっとけよ!」

「別に今のはたまたまコースが空いてたから…」

「それにしたってすげぇよ! よしこっから一気に逆転だぁー!」

「俺、翔也って言うだ! お前らこっからこいつにボール集めるぞ」

「こいつじゃなくて彼は賢也くんですよ。 私は木村と申します。よろしくお願いしますね、賢也くん」

「あ、ああ」

「おーい俺も仲間に入れてくれよ!俺の名前は…」

そうこうして彼の周りでは盛り上がると同時に唐突な自己紹介が始まった。


一方後ろの方では…

「な、なんで…」

「俺たちのは全然決まんなかったのに…」

「ま、まぁまぐれだろ。 あいつらも油断してたようだしな。 俺でもあれぐらい決められるしよ」

「そ、そうだよなぁ。 おいお前ら守備しっかりしろよ〜」


彼らは何故か相手チームの守備を注意するだけで称賛の言葉は一言もかけてはもらえなかった。


賢也がみんなに囲まれて笑っているのを見てセラ先生はこの時、密かに微笑んでいた。



そこからチームは彼を中心に連携が強まり、守備も固くなっていった。


「こっち俺が止めるからあっちの方を誰か頼む!」

「ちっ!どけよ!」

サッカー部の陽キャはその守備に焦りを感じ、強引にパスを出してしまう。


「へっ!そりゃちと、強引過ぎだろ!」

「ナイス!よく取った」

「ほら行ってこい!」


翔也が前にボールを飛ばして前線は一気に上がっていく。

その最前線に彼は駆け上がっていく。


守備についている相手チームが前に出てきてボールを取りにいっているが彼はあえてそれをスルーして前の方に走っていく。


相手の守備はボールを取ろうと飛んできたボールに合わせて足を上げた、がボールは振り上げた足の下を通り抜けてバウンドしながら転がっていく。


「おい!早く守備戻れー!」


陽キャが叫ぶも意味はなく、ボールはゴール前の彼の元に転がっていった。


「はい、二点目!」


彼はボールを蹴り上げ、ボールはゴールバァースレスレにゴールへと吸い込まれていった。


彼が自陣へと戻るとまたも肩を組まれた。

「すっげぇなぁ!賢也サッカーやってたん?」


彼は翔也の馴れ馴れしい賢也呼びに少し戸惑ったものの一応返事をしておくことにした。

「いや別に、昔セラね…姉さんとちょっとやったくらいだよ」

「それにしてはすっごいうまいじゃん!」

「お前絶対やってただろ」


彼が周りの奴に囲まれている姿を陽キャたちは面白くなさそうに眺めていた。


「ちっ、しゃーねぇか」

彼らはそう言うとこちらに近寄ってくる。


「おい、お前ら。 今度は俺らがまた攻めをやるからお前ら後ろで守備でもしてろ」


彼の衝撃の一言にまたもその場は凍りついた。 先程まで騒がしかったのが嘘のようだ。


(あーぁ、結局こうなるのか…。 こんなんなら最初からやらなきゃよかったな。 はぁー、やめやめ)


彼が諦めてその場を後にしようとした時。

「お前ら何言ってんの?」

彼と肩を組んでいた翔也が陽キャに向かって言い放った。


翔也の言葉に陽キャ達、そして賢也もおどろいていた。


「はぁ?お前こそ何言ってんだ?」

「お前らが今更攻めて勝てるわけないだろ」

「はぁ?お前それはどう言う意味だ?」

「「そうだ、そうだ!」」

彼の言葉に賢也の周りにいた者まで加勢していく。


「最初、お前らは攻めてたくせに一点も取れてないじゃないか!」

「あ、あれは調子が悪かっただけで…。 そもそもお前らだってあいつらに何本もシュート決められてんじゃねぇか!」

「それはあなたたちが点を決めれないばかりか、守備に無理矢理混ざってきてチームの連携を乱したからじゃないですか!」


運動が苦手そうだった木村の言葉に陽キャたちもまずった表情を浮かべ始める。


(なんでお前ら…。 さっきまではそいつに反抗してなかったくせになんで…)


彼は知らなかった。

彼らがこの学校に入るためにどれだけの努力をしてきたのか。

この学校に入れるのは部活などの推薦で入った者を除いてそのほとんどがいわゆる真面目くんと言われる成績、勉強共に優秀な者たちだけであったのだ。


そんな彼らは陽キャ達の横暴っぷりに怒っていたのだが彼らは自分達が彼らよりもスポーツができないため一番うまい彼らに任せていた。


だが賢也が得点を上げたことでムカつく彼らに従うよりも賢也と一緒攻めた方が良いと思い行動に移したのだ。


賢也はずっと彼らが昔の奴らと同じ、強者に屈する者しか居ないと思い込んでいたのだ。


「ちっ!クソが!…それなら俺たちはこれから守備もやんねぇから、好きにやってろ」


彼らはそんな捨て台詞を吐いて後ろに戻っていった。


そんな彼らを見て彼が唖然としていると。

「よっしゃ賢也!さっさとボール奪ってもう一本決めるぞ!」

彼の横から翔也が話しかけてきて前の方に走ってゆく。


(はは、なんだよそれ)

彼はうっすらと微笑んだ後彼らを追って駆け出してゆく。



「そう何回も止められるかよ!」

相手の陽キャ達は時間を使うようにジリジリと攻め上がってくる。


賢也は味方が抜かれると同時にそっちのカバーに動く。

「俺がこっちつく」

「お前さっきから邪魔!」


陽キャは持ち前の身体能力を活かして多少不恰好なりにも某漫画のようなチョップドリブルで抜こうとしてくる。


(ここは漫画の世界じゃねぇんだ。そううまくはいかねぇよ!)


彼は蹴られたボールの軌道を読んで足を伸ばしてボールを奪い取った。


「取ったぞ!いっけー!」

彼は思いっきりロングパスを出す。


そのパスの先には…。

「とどいてくださーい!」

木村君が必死にボールに向かって走り込んでいた。


だが…

「あっ」ドテッ

彼はバランスを崩してボールの上に前のめりに倒れ込んだ。


だがボールは彼の体に押されてコロコロと転がってゆく。


そして…

「ようやった。あとは俺が決める!」

翔也が走ってボールを受け取っていた。


彼はドリブルし続けてゴール前へと上がってゆく。


「よっしゃ!決まれー!」

彼が思いっきりボールを蹴るとボールはそこそこの勢いを残して…ガンッ!

ゴールバァーに当たった。


(まだだぁ!)

賢也がボールを取ろうと走っていくと。

『キーンコーン•カーンコーン』

話し込んでいたことが災いして終了のチャイムが鳴り響いた。

(くっそ)

彼が諦めかけた時

「続けろ!」

体育教師が続行の合図を告げた。


その言葉にみんなやる気を取り戻し、ゴール前に殺到していく。


「私が決めますよ!」

最初にボールにたどり着いた木村君がボールを取ろうと足を振り上げたが…


「させねぇよ!」

後ろから追いついたサッカー部の陽キャが彼にぶつかってくる。


「ぐっ!でもやっぱり彼ですよ!」

彼は必死にボールを死守した後、後ろにいた賢也にパスを送った。


これには陽キャも予想外だったようで簡単にパスが通ってゆく。


(これで、ラスト!)


ゆるゆると転がってくるボールに合わせて彼は思いっきりボールを蹴る。


するとボールは甲を描きながらゴールの左端に吸い込まれていった。


____________________なんか書いてたらサッカー漫画みたいになってた。


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