第8話あの時学んだことは悲しく…

時は今に戻って…

彼は無様に地面に座り、空を見上げていた。


(あぁー、結局俺はあの時から何も変われていないってことか…)


彼がへたり込んでいても誰も気にすることはなく、試合は再開する。


相手チームは順調にボールを運んでいき、彼とは逆サイドの方で高く浮き上がったロングパスが通っていく。


「よっしゃきた! まずは一点!」

陽キャが放ったボールは自陣のゴールネットを揺らしてゴールとなった。


「しゃおら〜!」


相手チームの陽キャたちは勝ったが如く馬鹿騒ぎしていた。


対して自陣では…

「お前ら何やってんだ! あんなパス通してんじゃねぇーよ!」

「で、でも流石にあの高さは…」

「うなもん、ちゃんと移動して取れよ! あーもう! お前らはゴールのまで突っ立って守備でもしてろ」


彼らは苛立ちを見せながらほボールを取りに行った。


(そもそもお前らがおふざけをしながら適当に攻めてってボール取られたのがわりーだろ)


「おいキーパー、俺に渡せ」

「はいはい」


またも陽キャたちは自分達だけで攻めることを選択し、ボールを独断専行ではこんでゆく。


「おいしょ、おら!このままゴールまで突っ切ってやるよ!」


なんともまぁ、力任せに強引にボールをキープし、ほぼファールのプレイを何度もしながらもなんとかゴール前まで運んで行った。


「おら!決まれー!」


彼が放ったシュートはゴールネットを揺らす…ことはなく、真正面に蹴られたボールはいとも簡単にキーパーにキャッチされた。


「くっそー、おしいー!」

「いやー今のは危なかったな、あのまま決まるかと思ったわ」


何故か彼は相手チームの陽キャから称賛され、ご満悦の表情を浮かべて自陣に戻ってくる。

「よーしおまえら!俺にボール回せよ!」



そこからは酷かった。

先程調査に乗った陽キャを軸に連携が乱れて簡単にボールが取られるようになっていった。


そうして相手チームはボールを奪うと賢也のいるサイドは避けてボールを運び、点をどんどん入れていった。


彼自身何度か逆サイドに移動しようとしたが、ボールを持っている奴に群がる味方に呆れて移動を断念した。


そうして点数は5対0と結構な差が開いた。

時間は30分ほど過ぎ、絶望的な状況となった。


「ちっ!お前らの守備が悪いせいでこんな点差が開いちまったじゃねぇか!」

「……」

(はぁ、なんともまぁ。あれだけのチャンスがありながら一回も得点してないくせに何言ってんだか…)


陽キャたちは互いに向かい合って作戦会議を始める。

「おい、どーする? これ時間内に逆転無理じゃね?」

「…こうなったら」


彼らは打開案を思いついたのかみんなの前に行くと…

「俺らもうやめるわ」

と、そんな呆れたことを言い始める。


みんなも何を言っているのかわからず、困惑している。


「俺らもいい加減疲れたし、後ろ行って守備でもしてるわ」

「じゃ、あとよろしく」

「えっでもそれじゃあ勝ち目が…」

一人の生徒がひっそりと言った。


「そんなもん、お前らが頑張ったらいいだろ。 お前らは俺らが攻め頑張ってる時でも後ろでサボってたんだしよ」


(それはお前らが誰にもパス回さなかったからだろうが)

彼は内心で悪態をつきながらも言っても意味はないと胸のうちに収めた。


(はぁ、もういいかな。 俺もあとは適当に流して終わるか…)


彼が放っておいた間にも彼らはボールを蹴り始め、下手なりにもボールを繋いでいく。


だがパスの途中で直ぐに陽キャにパスカットされてしまい、ボールは相手チームに渡った。


(あぁ、…こんなの早く終わらせていつものようにのんびり保健室でセラねぇと談笑でも…)


そこで彼が無意識に保健室の方を眺めると保健室の窓からセラ先生が手を振っているのが見えた。


(なんで、いつもなら見てないのに…)


そのときこっちを見つめていたセラ先生がこっちに気づいてピースサインを送ってきた。


彼女は満面の笑みを送ったあと、何処かを指差して何かを話すようなジェスチャーをしてくる。


その先を見てみるとチームの奴らが必死になってボールを奪おうとボールに群がっているのが見える。


彼は再び彼女の方を見つめて、彼女が何か叫ぶようなジェスチャーをしていることを確認すると笑みを浮かべて走り始める。


(面倒だけど、やるかー!)


彼は周りを眺めて空いていそうなスペースとボールを奪えそうになっている味方を確認してすぐにそのスペースに移動する。


案の定味方はボールを奪うと敵が群がって差し詰め状態となった。


「ヘイ!」

賢治の大声に反応した彼はすぐにパスを出す。

だがそこにはすでにそれを予見したサッカー部の陽キャが迫っていた。


彼もそのことには気づいており、悪手だとは理解していたが…。

(パス出したくなるよな! 

そりゃあ、こんだけボール奪われそうになっていたら失敗とかしたくない自分本意なお前らは悪手だと分かってても責任を押し付けたくなるだろうな! 

それがいっつもいないみんなからも孤立している奴だと余計にな!)

彼はあの時の経験からこれらを理解していた。


(いくぞ!セラねぇの前でカッコ悪いところは見せられねぇ!)


彼は迫ってくる陽キャに背を向けると突っ込んでくる陽キャの周りを回ってルーレット•スピンをして彼を置き去りにしていく。


周りの奴らは驚き、陽キャは何が起こったか理解できていない様子だった。


彼を抜かれることを想定していなかったのかコースがガラ空きとなり一気にゴール前にあがっていく。


(まずは一点、返すぞ!)

彼は思いっきり蹴り飛ばして右上に正確無比にシュートを放った。


ボールは右上に隅に吸い込まれるように入っていった。

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