第4話青春の予感
翌日、俺はいつもよりも余裕をもって駅に向かった。
ホームについてしばらく経つと、昨日のあの子が奥からやって来たのが見えた。 彼女は辺りをキョロキョロとおどおどした様子で周りを見渡していた。
彼女は徐々にこちらに近づいてきてふとした瞬間僕と目が合うとぱーっと明るい表情になった後、こちらに駆け寄ってくる。
彼女は俺の横にピッタリとくっついた後、俺の服の袖を掴んで恥ずかしそうに下を向いた。
(まぁ多分前のせいで一人で乗るのが不安で僕なら何もしないだろうと考えてきたんだろうな。 まぁここは何も言わないでおいてあげるか)
彼女はしばらくおどおどした後、深呼吸をして意を決して彼に話しかけた。
「あ、あの!」
「はい!」
「ご迷惑ではないでしょうか?」
「…大丈夫ですよ」
「……お、お名前!お名前はなんでいうのでしょうか!」
「名前、ですか? 神木 賢也と言いますが…」
「神木、賢也さん。…(賢也君、なんちゃって♡)」
「何かいいましたか?」
「い、いえ。なんでも…」
彼女は慌てた様子で手と首を振ってアピールしてくる。
「そうですか…」
「……」
「……」
(今の何!?)
そのまま電車に一緒に乗ると今日も昨日と同じように満員だったので俺たちは互いにくっついて乗ることとなった。 そうして電車は発信していった。
ガタンッゴトンッ『間も無く、亀山、亀山です。開くドアにご注意ください』
キィー「きゃあっ」
次の駅に着くというタイミングで電車にブレーキガタンかかり、彼女が俺はの方に倒れてきたので俺は彼女に抱きつかれるような体勢になった。 彼女は顔を真っ赤にして目をぐるぐると回してテンパっていた。
「だ、大丈夫?」
「///は、はい!大丈夫です!」
そんなハプニングもありながら俺たちはなんとか学校な最寄り駅に到着した。
降りる頃には互いに恥ずかしさから視線を外していたが、彼女は彼の服の袖を掴んだままだった。
彼女は電車から降りた途端に走り出して何処かに行ってしまった。
(流石に電車から降りたら俺は用済みだよな)
彼は少しの寂しさを残してその場を後にした。
彼が学校に向けて移動していると、突然肩を叩かれた。
「ちょっとあなた」
「なんですか?」
振り向くと昨日の女子が後ろから服を引っ張っていた。
「昨日はありがと。 あの後病院に行ったけどあなたのお陰で後2週間くらい安静にしてれば治るそうよ」
「そうですか、よかったですね」
「それで、あなた名前は?」
「…神木 賢也ですけど」
「そう、私は葛西 雫(かさい しずく)。賢也ね、覚えたから」
彼女は頬を赤らめて少し微笑んだ。
「それより二週間も休んで大会は大丈夫なんですか?」
「…そうなんだよね。 まぁ今回の大会は医者からも言われてるし諦めることにするよ」
「そうした方がいいですよ。今回は仕方ないけど部活頑張ってくださいね」
「ああそうするよ。 それとこれ」
彼女は俺に向かって何かを投げつけるとそれは昨日とは別の飴玉だった。
試しに食べてみるとオレンジの匂いが口いっぱいに広がってきた。
「今日はオレンジですか」
「そうそう、最近は暑いからねぇ」
「それって関係あります?」
「ない。 私が柑橘系を好きなだけよ」
「次あげるときはぶどうでお願いします」
「え〜私ぶどうはあんまり好きじゃないんだけどなぁ」
そんなたわいもない話をしながら俺たちは学校に到着した。
「さてと、もう学校ついちゃったか〜」
「とかいって昨日も来てたでしょ」
「だって今日は体育あるしなぁー」
一見彼は保健室登校だから関係ないのではと思われるだろうが、彼は保健室登校となる際学校側からある条件を提示された。
『一つ、常に成績を学年でトップスリーに収めること。
一つ、最低でも週に二日は授業に出席すること。
一つ、体育の授業には普通の生徒と同様に参加すること』
これらの三つである。
上の一つは当然のことで特別な待遇を受けるためには必要なことである。
また真ん中の一つは出席日数の関係で単位数を取らず卒業できないことを防ぐための当然のことである。
最後の一つに関しては体育だけはテストの点数などでカバーが効かないので出された条件である。
そのため彼は体育のある週二日は他の生徒と同様にクラスに登校するようにしていた。
(ハァー、今日は保健室登校の日ではないしなんとも憂鬱な日だ)
そして彼は知らないがセラ先生が外に出たり、保健室から出てする必要のある仕事を入れているのもこの二日間だったりする。
「体育くらいで大袈裟な、あんなもの流して過ごせばいいだけでしょ」
「…運動部にはわかんねぇよ。 帰宅部の気持ちは」
彼女は呆れた表情を見せるとバイバイと手を振って足早に自分のクラスへと入っていった。
そうして彼女を見届けて彼は自分のクラスへとたどり着いた。
(はぁ、面倒臭いけど、仕方ない!)
彼が意を決してドアを開けて中に入ると何人かの雑談をしていた生徒たちが彼の方を向いた。
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