第3話二人の出会いは飴ちゃんから
あれから俺たちは雑談やふざけた言い合いをしながら各々のやることをやって気がつけば放課後になっていた。
「あっそういえば私朝に楓先生に書類渡しに行かないといけないんだったわ!」
「大丈夫なの?今からでも行ってきたら?」
「そうする。 悪いけど留守をお願いね〜」
「はいはーい」
彼女が慌てて駆け出していく後ろ姿を見送った後、彼はカバンの中からある物を取り出していた。
「さてと、どうやって渡そうかな〜」
彼が気だるげに眺めるそれはとある映画のチケットだった。
彼は朝方母に映画のチケットを渡されていたのだ。 彼の母は昔から自分の息子が彼女に恋心を持っていることに気が付いており、何かと彼にアドバイスをしたり、こうやってデートに必要な物を渡したりもしていた。
ちなみに彼が自分の母が自分の恋愛事情を把握していることを知ったのは中一の頃でその日は一日中部屋に引きこもって叫び続けていた。
(普通に渡すのはなんていうか、今までの苦労が台無しになるし。 かといってセラねぇのパソコンの上にさりげなく置いといてもあの人鈍感だから捨てそうだしなぁ。
いっそ友達に貰ったって言うか!…いやでもよく考えたら僕って友達いないか…。ぐすん)
そうやって彼が勝手に傷ついていたその時、突然保健室の扉が開かれて足を引きずった女の子が入ってくる。
いかにも運動部といった格好で女物のジャージを着用して男でもつけていそうな帽子を被っている。
「すいません。手当を…ってあれ?先生は?」
「セラ先生なら用事があるとかでさっき出ていきましたよ」
「そうなの、なら先生が来るまで休ませてもらうわ」
彼女は足首をさすりながら保健室に入ると奥にあったベッドの上に座った。
彼女はベッドに着くと帽子を勢いよく取り、可憐な長髪の黒髪があらわになった。
「ぐっ、あぁ、はぁはぁ…」
彼は彼女を無視して勉強を進めようとしたのだが先程にも増して大きくなっていく声が気掛かりになり、手を止めて彼女の方を見てみると彼女はあろうことか怪我をしているであろう足首を下にして長跪の体制になって窓を眺めていた。
心配になりはしたが自分に関係ないことだと言い聞かせ、彼は勉強を続ける。
だが彼は不意に彼女の留守を任せたと言う発言を思い出す。
(まぁ、あの人の仕事が増えるのは嫌だしな)
「ちょっと何やってんすか」
「えっ?」
「あんた足首怪我してるんすよね?なのにそんな体勢になってたらもっと悪化しちゃいますよ」
「でも…」
「でももへったくれもありません。いいから足伸ばしてください」
「…わかったよ」
意外にも素直に足を伸ばしてくれた。
(こういうスポーツしてそうな子は結構反抗してきそうなもんだけど、意外と大人しいな)
彼はセラ先生のデスクの下にあるキャビネットから医療用の道具箱を取り出してくる。
「ちょっとズボン上げて足見せてくれない?」
「エッチ…」
「違うよ!」
「ぷっ、あははは。冗談よ冗談」
「もう、変なこと言わないでくださいよ。そんなこと言うんだったらあなたがやってください」
「ごめんって。 てか君がやるの?ちょっと不安なんだけど」
「わかりました。やりませんよ」
「冗談です。お願いします」
「はぁ、てかさっきから何見てたんですか?」
「ああ、私さっきまで外でみんなと一緒に走り幅跳びの練習してたんだけど、私が怪我しちゃったからねぇ。 大会が近いのに私だけ休んでるのがしのびなくてね…」
「なら早く治すためにも足見せてください」
彼女は渋々といった様子でズボンの裾を上げた。
「ひゃいっ」
靴下が邪魔だったので靴下を脱がそうと彼女の足に触れたら彼女が可愛らしい悲鳴を上げた。
「(やっぱりこの人変態かも)」
彼が足首を確認すると足首の周りはは赤くなっており、若干だが膨れていた。
「これは捻挫ですね」
彼は救急箱から包帯を取り出すと彼女の足に巻き始めた。
「一応応急処置だけしとくんで、病院で見てきてもらってください」
「あ、ありがと」
彼は包帯を巻き終えると保健室にある冷蔵庫から氷を取り出して袋に詰めて彼女に手渡した。
「後はこれで冷やしておいてください」
「う、うん」
その後彼は使ったものを元々あった場所にに戻して勉強に戻った。
「ねぇ」
「……」
「ねぇってば」
「なんですか?」
彼が振り返ると彼女は飴玉を投げつけた。
「それ、さっきのお礼よ。私お気に入りの飴ちゃん。 家宝にすることね」
「へいへい」
「それじゃあ私はもう行きますから。よっと、……それじゃあ失礼しました」
彼女は入ってきたときよりも足取りを軽くして出ていった。
彼が試しにその飴ちゃんを食べてみると俗に言う初キスような甘酸っぱいレモンのようながした。
それから10分ほどたった頃、セラ先生は用事を終えたのか戻ってきた。 彼女が彼に話しかけようとしたとき、彼の口元が動いているのが見えた。
「け〜んちゃん、何食べてるの?」
「飴玉」
「あれけんちゃんって飴ちゃん好きだったけ?」
「別に、気分によっては食べるよ」
彼は彼女に余計な誤解をさせないため、先ほどのことは話さなかった。
「ふぅーん、ってもうこんな時間か。そろそろ帰らないとね。 送っていくから準備しといて」
「了・解」
その後僕たちは戸締まりをした後、家に帰った。
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