第2話セラ先生との馴れ初め?
「それでぇ、今日はどうして遅れたの?」
セラ先生は俺が勉強している横で覗き込んでくる。 彼はチラッと彼女を見た後、目を逸らして勉強の手を止めた。
「別に、ただ朝方痴漢に遭ってた女の子を助けただけですよ」
「すごいことじゃないの!もっと誇ってもいいことよ。 お姉さんがヨシヨシしてあげようか?」
「揶揄わないでくださいよ。 それにもしそんなことしてるところを他の先生に見られたら困るのはセラねぇでしょ」
「ふふ、久しぶりに読んでくれたね。やっぱりヨシヨシしてあげる」
彼女は彼に近づくとふいに肩に手を回した後、彼の頭を撫で始めた。
「ちょっとやめてくださいよ。 子供扱いしないでください!」
「ふふ、私にとってはけんちゃんはいつまでも可愛い子供だよ」
「(…だからそれが嫌なんだって)」
「何か言った?」
「なんでもないです。 それよりも一応教師なんですから生徒の勉強邪魔しちゃダメじゃないんですか?」
「いいでしょ、今は誰もいないんだし」
「だからダメですって。 離れてください」
「ぶぅ。はぁ、いつからこんなに反抗的になったことやら。 昔はよくお姉ちゃーんって元気よくくっついてきたのになぁ」
「もう昔のことですよ。それより早く離れてください」
「うーん、もう一回お姉ちゃんって呼んでくれたら離れてあげる」
「…お、おねぇちゃん。///はい、これでいいでしょ」
彼女は頬っぺたを赤らめた後、にんまりと笑みを浮かべて彼のほっぺを突っつき始める。
「顔真っ赤にしちゃってかわい」
「いいだろ」
「ふふ、もう満足したし離れてあげる」
彼女は肩に回していた腕をどかして自分の席に戻った。
(そうだ、いつまでもこのままの関係に甘えてちゃいけない!) 彼は強い決心を固めていた。
彼、神木
彼と瀬良は元々従兄弟同士であった。
彼がいつ彼女に恋心を抱いていたのか明確なタイミングはなかったが、幼い少年が昔から仲の良い綺麗なお姉さんに恋心を抱くなどよくある話だろう。
だが彼女は昔から少年のことを弟のように可愛がっており、彼はそのことがいつも不満だった。
彼女は気にしてはいなかったが、彼は幾度もアプローチを仕掛けては失敗を続けていた。
そうして関係が進展しないまま彼は中学生になり、彼女は養護教諭となり、互いに忙しくなって会う機会は徐々に減っていった。
そうして受験も控えた高校三年生のある日彼は学校で事件を起こし、それ以来彼はいじめられるようになりそのうち学校に行かなくなってしまった。
彼は徐々に家に引き篭もりがちになっていき退屈な日々を過ごしていたある日、彼の部屋に突然彼女が突撃した。
「けんや!こんなところで引きこもって何やってんのよ!」
「んん、…ってセラねぇ!なんで…」
「なんでもクソもないよ。姉さんにあんたが学校にも行かず、引きこもってるって聞いて飛んできたんだよ。ほらさっさと着替えて学校に行くよ」
いつもとは違う、強引な行動に彼はそれだけ彼女が心配してくれていたことがわかり自然と涙が流れた。
「…無理だよ。だって俺は…」
「事情なら姉さんに聞いたから知ってるよ。 気持ちはわかるけどちゃんと学校に行かないとお母さんも心配してるし、そんな奴らに負けてちゃダメよ」
ボソッ「ねぇちゃんはわかんねぇよ」
「…なんだって」
「だからねぇちゃんにはわかんな…」パッシーン!
彼は呆然とした表情を浮かべながら頬を触った後、涙を浮かべた彼女を見た。
「見損なったよ!昔のあんたはみえっぱりでいっつも大人ぶっては失敗して、そんな可愛くてかっこいい奴だったのに…」
彼は何も返すことはなく、ただ黙って下を向いていた。
それを見た彼女は足早にその場を去っていった。
それからしばらくして珍しく早く母が帰ってきたと思ったら部屋に乗り込んできた。
「何があったの?」
「……」
「はぁ、あんたの学校に瀬良ちゃんが行って抗議してきたらしいわよ」
「…えっ?」
「あんたがいじめを受けたって、いじめられてるのに教師達は何してるんだって怒鳴ったらしいわよ」 それを聞いた途端、彼の目から涙が流れた。
「どうしてそんな…」
「さあねぇ、でもあの子はあんたのことよく気にかけてたからねぇ」
「……」
それ以来彼は心を改めて、少しずつ学校に通うようになった。 彼をいじめていた子達は快く思わず、またいじめを始めたが彼が相手にしないようになると彼らは飽きたのか彼に興味を失った。 そうしていじめはなくなっていった。
彼は学校に通うようになってから勉強に専念するようになり、元々成績が良かったのもあり不登校だったことをものともせず成績を上げていった。
それからしばらくしたある日、彼は久しぶりに家に来た彼女に感謝の気持ちを伝えるため家でご飯をふるまったあと、彼女に話しかけた。
「…あの、セラねぇ、この前はその、ありがとうございました。それからごめんな…」
「そんなことはどうでもいいのよ。けんちゃんさ、最近無理してるでしょ」
「えっ?」
「表情見ればわかるよ。 学校に通えるようになったのはいいことだけど無理していかなくていいんだよ」
彼女は先日と矛盾したことを言い始め彼は戸惑ってしまう。
「う〜ん、あっそうだ。 けんちゃんさ、うちの学校きなよ」
「えっでも確かセラねぇの学校って結構偏差値高かったよねぇ。 さすがにちょっと…」
「そうだけどうちの学校は実力主義。 成績さえ良ければ多少の問題も許される。 例えば欠席が多くても成績さえ良ければ許されるんだよ」
それはなんとも彼にとっては魅力的な学校ではあるが、そこは偏差値が高くその中でも好成績を叩き出すことは今の彼には不可能に近い。
「流石にそれは無理じゃないかな。せらねぇの学校って偏差値高いし、ここ最近まで休んでいた僕がそんなこと…」
彼は言い訳を口にしてくだくだと引き伸ばす。 そんな彼に対し、彼女は切り札を口にする。
「ああ〜、私けんちゃんと一緒に学校通いたかったなぁ」
ガタンッ「……」
「おっと!ようちゃん、どうしたの?」
彼は突然に立ち上がった後、お茶碗を片付けて部屋に帰っていった。
彼の頭では先程の発言がフラッシュバックしていた。
(セラねぇと一緒に登校…)
恋は盲目と言われているが、今回はそれが良い方向に働いていた。 男とは好きな女の願いには弱いものなのだ。
彼が早速勉強に取り組んでいると部屋に彼女が入ってきて彼に手を伸ばして乱暴に頭を撫で始める。
「ふふ、私の夢のために頑張ってよね。けんちゃん♡」
「…ありがと」
「えっ」
「セラねぇが学校に乗り込んだって聞いたよ。 僕のために無茶をしてくれたことは嬉しかったけどあんな無茶はもうしないでね。 あとありがとう」
「…やっぱりけんちゃんはかっこいいね。 でもけんちゃんにお礼を言われる筋合いは何もないよ。 今回のことはけんちゃんが頑張ったことだから」
「いやちが…」
「いいけんちゃん?大人がカッコつける時は子供は黙って受け入れるのが大事なんだよ」
「…わかったよ」
この時二人の鼓動が早くなっていたことを二人は気づいていなかった。
それから彼は成績を上げていき見事今の学校に合格することができたばかりか、その学校の受験成績で一位を叩き出し特待生として入学することが決定した。
そうして特待生として華々しく入学した彼だったが、彼は程なくしてまた学校を休むようになっていき、のちに保健室登校となった。
(まぁ保健室登校になったのはセラねぇと勉強したかったからなんだけどね)
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