きっと明日からララ・ライフ!

貴良一葉

本編

 夢の国、ララ・ランドへようこそ!

 ここはアナタの人生をララなライフへと変えるテーマパークです。


 さぁ、遠慮しないで。勇気を出して一歩足を踏み入れて。


 ……あ、〝勇気を出して〟は余計でしたね。



 まずはエントランスにて、豪華なラッパ隊が華やかにお出迎えをします。そしてその先にある世界に、あなたは度肝を抜かれるはずです。


 そうですね、お薦めはやはりテーマパークといったら、ジェットコースターでしょう! ライオン型のコースターに乗ってライ麦畑を走り抜けるスリルと、更にラップのミュージックが気分を最高潮に盛り上がること間違いありません。

 乗る前にラム酒を飲めば、そのスリルは三倍にも膨れ上がることでしょう。


 観覧車もお薦めですよ。しかも当パークの観覧車はただ景色を眺める乗り物じゃないんです! ランタン型のゴンドラに乗って、パーク内に隠されている「ら」の付くものを地上に帰ってくるまでに見つけるというゲームまで付いています。

 『ランドセル』『ラジコン』『ランナー』『ラベンダー』……色々ありますよ。あぁ、私が今言ったものはノーカウントです。10個見つけられなかったら、もう一周できますから頑張って!


 美味しい御飯があるのも、テーマパークの魅力ですよね。……どうせラーメンでしょう、ですって? 勿論それもありますが、ウチの名物は何といっても『ララ・ポテト』です。『ラ』の字に見立てたカリッカリのポテトがとても美味しいんです。

 上のパーツと下のパーツに分かれてますから、カップルでも仲良く分けられます。なんなら下の部分の曲がっているところから折っていただければ、三人でも楽しめますから。


 あとウチは園内BGMも凝ってるんです。小黒マキさんの『ら・ラ・LA』に、窪田トシさんの『RA・RA・RAラヴソング』、石崎ひろ美さんの『母性たちのララバイ』などなど、『ラ』のつく名曲を選りすぐっているのですから。

 どの曲も心に染みる良い曲ですよね。私、何だか泣けてきました。


 パーク内では人気キャラクターのラララが、あなたに会えるのを楽しみにしています。カワイイんですよ、女の子で髪の色がピンク色で、確か星の形をした杖を持っていたような……え、何か他で見た覚えがあるって? 気のせいですよ、ラララは昔からずっとウチのキャラクターですから、えぇ。


 どうです? こんなテーマパーク、見たことないでしょう?

 是非あなたもララ・ランドに訪れて、素敵なララ・ライフをお過ごしください!





「……というのを考えたのですが、どう思います? 柏木」

「流石はお嬢様、なんという天才的なお考えでございましょう」


 私がお仕えするご令嬢、良羅らら様は目を夜空の星の如くキラキラと輝かせている。まったく、ご自分のお名前でテーマパークを作ろうなどと、なんて浅はか――じゃなくて、ご聡明なお方なのだろう。


「やはりお前もそう思いますか、柏木。では早速、お父様に作っていただくよう頼んで頂戴」


 良羅様は緩くウェーブした髪をサラリと払って得意げにそういうと、私が用意した高級紅茶、ダージリン・ファーストフラッシュを嗜んだ。できればこの熱々の紅茶を、ティーカップではなく彼女の頭へ贅沢に注ぎ込んでやりたいところだが、妄想だけに留めておく。

 私は「承知しました」と会釈をすると、彼女を部屋に残して退室した。


 ……あぁあああ! 誰が行くんだよ、そんな胸くそ悪いテーマパーク!


 と叫びたい気持ちをグッと堪えて、私は彼女の父であり大富豪・楽巌寺らくがんじ重五郎じゅうごろう様のところへ良羅様のご要望をお伝えしに向かった。馬鹿馬鹿しくて本音をいうと口にしたくもないのだが、お嬢様は意外と報連相に五月蠅く、きちんとお伝えしたという報告を後でしなければならない。ましてや「ねぇお父様、あの件はどうなって?」などと聞かれては私の首が飛んでしまう。


 しかしここで父親が「そんなふざけたテーマパーク作れるか!」と娘を一掃してくれればそう面倒な話ではない。そう、一掃してくれれば。


 だが、お嬢様の要望を聞いた重五郎様のご回答はこうだった。


「はっはっは、流石は我が愛娘! 面白いことを考える。よかろう、よかろう」


 ……残念ながら子が子なら、親も親であるのだ。



 楽巌寺家のご令嬢、良羅様の考えたテーマパーク『ララ・ランド』。

 もしかしたらあなたの住む街に……やってくるかもしれません。


 まぁその時は、ララ・ライフをお楽しみいただいてはいかがでしょうか。


「夢の国、ララ・ランドへようこそ! ここはアナタの人生をララなライフへと変えるテーマパークです」

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