第六話 代替装置 Heat abnormal
第24話 会談
雫は、会議室に居た。
先日のオーディールの戦いは、劇的な勝利を収めることが出来た。
しかしながら——その戦後処理に少々時間を要しており、それを雫一人の手では終わらせることはそう容易ではない。
そういうこともあり、半分致し方ない点もありつつも、副司令官である松山に仕事を任せながら、司令官は司令官のやらなくてはいけない仕事をこなさないといけないために、この会議室に足を踏み入れた、という訳だ。
「オーディール、金がかかりすぎるとは思わないかね?」
会議室に居たのは、一人の老齢の男性だった。国会中継でよく見るような、国会議員の重鎮と言っても良いだろう。
「ええ。ですが、人類を救う唯一の手段と言っても差し支えありませんし。人類が滅びるのと差し替えに、何百万何千万とお金が浪費されてしまうのは、半ば致し方ないと思いますけれどね? 国会議員の皆様方の裏金に比べれば、こんなものは子供の小遣い程度では」
「……しれた口を。我々がこの国を統治し、支配していることをとっくのとうに忘れてしまったか? ワイドショーでツマラナイ情報操作ばかりのニュースを目の当たりにして、凝り固まった考えで我々を叩く人間が多いこと、多いこと——」
咳払いが聞こえた。
広い会議室の端に座っている、もう一人の男からだ。ふくよかな身体で、その髪は少し寂しささえ覚える。メガネをかけた男は少し眠そうな顔を浮かべていた。
「わたしたちは何もそのようなことを話すために、ここにやってきた訳ではないのだと思いますが」
ねちっこい喋り方は、雫もあまり好きではなかった。寧ろ毛嫌いする方だと言っても良いだろう。そもそもそういった話し方は選り好みがあると言っても差し支えない。実際には如何であれ、ファーストインプレッションが良いイメージとならないことは間違い無いだろう。
雫は嫌な態度を全く顔に出さず、さらに話を続けた。
「……わたしも色々と忙しいのですが。可能であれば、手短にお願いしたく」
「この国が置かれている状況を、きみは何処まで理解している?」
「何処まで、とは」
「言葉通りの意味だよ。安全保障の観点から、とでも言えば良いだろうか。この国が置かれているポジションと課題だ。国会議員になってから延々と考えなければならない、永遠に答えが出ないテーマの一つだよ。或いは、状況によって変化する非常に面倒くさいテーマとでも言えば良いか」
雫は脳内で整理する。
先ず、この国は島国であり、他国との陸上における国境線は一キロも保有していない。つまり、他国が如何いう状況であれこの国に入ろうとするならば、その交通手段は船か飛行機に限られる。
海を渡った向こう側には半島があり、二つの国が存在する。政治はいずれも不安定であり、かといってこの国に攻め入るような感じは見受けられない。
一方、大陸に存在する国はというと、いつそのような状況に陥るか予測することが出来ない。
そう言ったこともあり、この国のおける現状はどちらかというと不安定であり、例えるならば表面張力によって水が限界まで入れられているコップ、のような状態であると言えるだろう。仮に一ミリリットルでも水か何かが入って仕舞えば、溢れてしまう。そんな状況下だ。
雫がそう説明すると、国会議員は二人とも頷く。
「……その通り。この国は今、とても不安定な環境下に晒されている。かと言って、軍備も増強出来ない。それはルールによって決められているからだ。何人たりとも変えることの出来ない、強大なルールによってね」
「オーディールについては如何お考えなのですか?」
「同盟国のアメリカとも何とか協議しているところだよ。聞けば彼らの国にもオーディールは居るらしい。そして、今回のような『戦争』も何回か行われていて、いずれも良い成績を上げているそうだ。……そういう意味では、良かったと言えるがね。この国の状況と、全くもって同じなのだから。理解はされやすい」
「他国にも居たはずですが?」
「ああ。聞いているとも。とはいえ、彼らが何処かに集合することは無いだろう。……今の所、アメリカのパイロットはこの国に一度やってくる可能性があるというのは聞いているが」
雫はそれを聞いて目を丸くする。
「……聞いていませんが」
「昨日決まった話でね。まだ現場レベルで言って良い話では無いんだ。正式に決定したら——とは思っていたが、ちょいと風向きが変わってきていてね。こういう場面で言うしか手段がなかった」
「と、言いますと?」
「この国が置かれている現状を理解してもらったところで……。しかしながら、一つ疑問が生じないか? この国は本当に軍備を増強出来ないのか、と。もしそれを公に出してしまったのなら、いつ侵略されてもおかしくはない、だろう?」
「それは同盟国が助けてくれるから、では?」
「それも一理ある。しかしながら、いつまでも助けてくれる訳でもない。運命共同体と言っても良いかもしれないが、建前はあくまでも同盟関係だ。相手が危機的状況に陥った時、助けてはくれない。そうなれば、我が国も終わりだ」
雫はそこまで聞いて、はっと息を呑む。
「……まさか、秘密裏に兵器を開発している、とでも? そんな情報マスコミなり市民が掴んだら」
国会議員はニヒルな笑みを浮かべる。
「それこそ、彼らにとっては叩く材料となるだろうね。さりとて、これは致し方ないことだ。国家を存続及び運営していく以上、防衛策というのは常に考えていかねばなるまい。アメリカがいつまでも我が国を守ってくれるか? 答えは、イエスともノーとも言えない。そんな不安定な状況にあるのが、今だ」
「戦闘機や戦車など、そう言った存在も開発は進めている。しかしながら、わかりきっているのだ、そう言ったものは。一眼見ただけで兵器だとバレてしまう。それは、些か宜しくない。かつての戦争の惨禍から、未だ一世紀も経過していないのだから」
「では、如何するつもりなのですか」
「……人型戦闘兵器」
「は?」
「全世界における戦闘機のデファクトスタンダードになりうる手段であり、かつ代替手段の一つとしてもなるであろう……人型戦闘兵器『リリーファー』。きみには、その最終テストの見学に出向いてほしい。言っておくが、くれぐれも内密に頼むよ」
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