第4話 初めての(2)
「すいません、よそ見してたつもりはなかったんですけど、寂しくさせちゃいました?」
「あっ、う、ん」
ごめんねの気持ちを込めて、形のキレイな頭を優しく撫でながら微笑み、問いかけた。
気持ちよさそうに目を細める葉桜さんは妖艶さを残しつつも、子供のようなあどけなさを感じさせる。
年上だということを忘れてしまいそうなほど。
愛しさが溢れ、ぎゅっと葉桜さんを包むようにして抱きしめると、「ん」と可愛らしく声を上げる。
よしよしと、さらに撫でるとぎゅっと抱き締め返してくる葉桜がかわいい。
しばらくそうやって、あやすように葉桜さんを撫で続けていた。
ポンポンと背中を叩かれ何かと思い、上体を腕で支えるようにして、離れると
「ねぇっ、よしよしも嬉しいけど、もっと、いっぱいちゅー、ほしい......」
なんて言われてしまった。
あざとく、目をうるませながらしてくれた初めてのおねだりに、心臓が痛み心拍数が100をゆうに超えているのが体感でも分かってしまう。
今すぐにでも葉桜さんの思い通りにしてあげたい欲が心をどんどん満たす。
正直こんなこと言われて余裕なんてないけど、同時に困った顔が見てみたくなってしまった。
(これ、意地悪したらどうなっちゃうんだろう。)
良くない考え、そんなことはよく分かっているが、どうしても見てみたいのだ。
でも、こんなに可愛らしくおねだりされてしまったら意地悪をするのも気が引けてしまう。けどやっぱり戸惑った葉桜さんも見てみたい!
そんな私の心の中にまるで漫画みたく天使と悪魔が出てきて、バトルを開始してしまった。
可哀想だという正論を投げかける天使に、自分の欲に従えと囁く悪魔。
どちらも私の心を的確に突いてくる。
でも、あぁダメだ、今回の悪魔さんは強すぎる。初めから勝敗が決まっていたかのごとく、呆気なく天使は消え去り、悪魔が不敵に笑みを浮かべていた。
「はい、もちろん」
そう言うと葉桜さんの顔が分かりやすく、パーッと明るくなった。ほんとに可愛い人。
物欲しげな顔をする葉桜さんの頬に手を添え私は顔を近づける、そして直ぐにきゅっと目が閉じられた。所謂キス待ち顔、これは完全に有料コンテンツ。こんなまじかで見ても良いものなのか?
いや、良いはず。だって付き合ってるし。
「葉桜さん......っ、あ、やっぱり葉桜さんからしてください。キス」
「ん、えっ?」
あともう少し、そんな所で私は止まった。
驚いたのか、閉じていた目がパチッと大きく開く。
「な、なんで...」
「いやなら、もうキスはおわずけ、ですかね」
笑顔でそう言う。
咄嗟に思いついたイタズラ。
自分でも結構恥ずかしいことを言ってるのは分かっている。が、それに勝るほど葉桜さんの困った顔が見たかった。
思い通り明らかに困った表情の葉桜さんは、戸惑いつつ、思考をぐるぐる回しているのがわかる。
恥ずかしい、けどおわずけはいや、という葛藤と今頑張って戦っているのだろうか。
最初にキスしてきたの葉桜さんなのに、なんて思うけど口には出さない。拗ねられてしまうかもしれないし。
「どうします?やりますか?」
葉桜さんの言葉を待たずに、追い打ちをかけるように詰める。
「で、でも恥ずかしい」
目を逸らし答える葉桜さん。その姿にもグッとくるものがある。
でもまだ引いてしまっては面白くない。
「じゃあ、今日はここまでですね」
上体を起こして、葉桜さんから離れた。
本当はそんなこと思ってもないし、終わらせたくもない。けど、追い打ちにはちょうどよかった。
「え、や、やだ!」
焦ったように、葉桜さんも起き上がり服をつかまれる。あまりにも思った通りに行きすぎて面白い。
「でも、葉桜さんキスしたくないんでしょ?」
「ち、ちが」
すこし、可哀想にも思えるけどここまで来たら止めることはできない。
「じゃあ、葉桜さんからキス、してくれますか?」
「.........どうしても?」
「はい」
「う、わかった.....」
どうやら羞恥心より欲が勝ったようで、ようやく自分の中で答えが決まったらしい。
すっと頬に手が添えられ、リンゴのように赤くなってしまった顔が私に近づいてくる。
「さ、朔月ちゃん目、閉じて?」
目を閉じない私に葉桜さんは困り顔のままそう言った。
でも、やだ。可愛い葉桜さんをずっと見てたくて、閉じたくない。
「いやです。葉桜さんのこと見てたい」
「.......」
そう言うと何も言えなくなってしまったのか、グッと口元に力が入るのが見えた。
色々な思考を終えた後に葉桜さんの方から意を決したように目を閉じて、ゆっくりと唇を重ねられる。
葉桜さんは私の首に両腕を回して体を密着させた。
女性らしい膨らみや、カラダ全体の柔らかさが私を包み込む。
慣れてきて優しい触れるだけのキスから、舌を絡ませるような激しいものへと変わっていく。
ちゅっちゅっと、必死な舌の動き。
でも、さっきとは違うことが一つだけ。
「ん、んんっはぁ......あっ、ねぇ、、なんで動いてくれな、いの......?」
そう、私は受け入れるだけで自分から葉桜さんの舌を絡めに行くようなことはしていない。
どれだけ必死に舌を動かしても、帰ってこない返事に葉桜さんは不安がったような顔をする。
かわいい、必死に求められてるこの感じ、すっごい興奮する。
「ねぇ、これヤダぁ......私だけ好きみたいで、なんか悲しいよぉ....」
泣き出してしまいそうな葉桜さんは想像以上に私の心を鷲掴みにしてしまう。
年上の威厳は無くなってしまったのか。
こんなダメな葉桜さんも大好き。知らなかった葉桜さんがどんどん出てくる。こんな所を知ってるのは私だけという事実に笑みが止まらない。ヤバい。
「甘えたですね、もう少し頑張って」
「んっ、うぅぅ......で、でも」
頑張ってニヤケをおさえて、至って優しく告げた。
だが渋る葉桜さん。
「もっと頑張ってくれたら、葉桜さんの好きなだけ、ほしいものあげますよ」
「ほ、ほんと?頑張ったらいっぱいくれる?」
目の色を変えて、こちらを見つめてくる。
これはあともう一押しか。
「もちろんです。イヤになるくらい沢山」
「っ、わかった.......がんばる」
ごくっと唾を飲み下す音が聞こえてくる。
葉桜さんも興奮しているのか、今までに無いくらい熱が籠った瞳をしている。
もう一度頬に添えらた手、また唇が重なる。
葉桜さんの熱が唇を通して直接私に流れ込んでくる。熱くて溶けてしまいそうなくらいに。
私に、満足して貰えるよう。認めて貰えるよう。葉桜さんの舌は言いつけを守って、忠実に動き回る。
こんなことしてまで、私を求めるなんて。
対面になるよう私の上に乗った葉桜さんの背にキツく腕を回す。
愛しくてたまらない。
今も頑張って舌を動かす葉桜さんに、すぐに我慢できなくなり、私からも舌を絡めだす。
やっぱり私にも余裕なんて、初めからなかった。
この人を手にして余裕な人なんていない。
ピクっと反応した葉桜さん。
ぢゅる、くちゅと求めれば求めるほど音となってその事実を認識させられる。
耳に熱があつまり、火傷しそうなくらい熱い。
でもこのあつさが心地よい。
「あっぢゅ、んん!はぁっ、すき!朔月ちゃんっ!」
「わたしも、大好きですっ!葉桜さんっ」
お互いに愛を伝え合う、恋人になってちゃんと伝えられるようになった愛を。
溶けてしまいそうな思考で、葉桜さんの服の裾から手を忍ばせ、地肌をゆっくりと撫でる。
んんっ、とくすぐったさに喘ぐ葉桜さん。
少し汗ばんだ肌、ずっと触れたかった葉桜さんにこんなにも、触れられるなんて今が現実か夢なのか今の私に区別なんてつけられない。
ぷはっと離れた葉桜さんの瞳にはもう止めることの出来ない熱情が隠れることなく映し出されていた。
私もその瞳に期待してしまう。
私の手が取られ、葉桜さんの口元へと運ばれる。
指先を甘く噛み、小さな舌で舐められる、神経が逆なでされるような感覚にぞわぞわする。
未知の世界へと誘い込まれてしまいそうな、そんな幻想的な美しさがあった。
「朔月ちゃん、私の初めて。全部奪って?」
そのたった一言で今までの理性が音を立てて崩れてゆくのを感じた。
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「ほんっっとうに、すいませんでしたっ!!」
ぐったりとする葉桜さんの目の前で華麗な土下座を披露する。
明らかにやりすぎてしまった。
葉桜さんは「しらないっ!」とそっぽを向いて、許してくれないらしい。
やってしまった。
こんどからもう少し自制できるようにしないといけないなと、今後の課題を儲け、葉桜さんに全力で謝り倒した。
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