第3話 初めての(1)
あの一言から、今までずっとソワソワしてしょうがない。
「ごめんねぇ、お待たせ!」
「いえ、全然」
私の方が早く支度が終わり、先にお店の前で待っていたら、支度を終えた葉桜さんが駆け足で寄ってきてくれた。
うん、かわいい
「そう?じゃっ行こっか!」
きゅっ、
「えっ!ちょっ葉桜さん!?」
「んー?どうしたの?」
グワーッと顔に熱が集中していく。
私は葉桜さんに手を取られ繋がれた。柔らかくしなやかな指が私の指に絡まる。そう当たり前のように恋人繋ぎである。
ほんとにこの人は!前触れもなく人の心を乱すんだから!
「て、手が」
「あ〜、そっかごめんね。腕組む方が好きだった?」
そう言って私の右腕にギュッと抱きついてくる。
いや、そうじゃない。
くっ、胸が当たってるぅ......!
恥ずかしいのに、内にあるすけべな私が顔を出してきた。いや戻って、というか帰ってくれ!頼む
「そ、そうじゃなくて!恥ずかしいんです!」
「えぇ?でも付き合ってるんだし良くない?私はこうしてたいなぁ」
そう言ってニコッと愛らしい笑顔を向けられ、返す言葉が無くなる。
こんな可愛い人に抵抗できないよ。
それに付き合っているという現実を早速突きつけられて、心臓が今までに無いくらいの速さで鼓動を奏でだした。
「せ、せめて手繋ぐので勘弁してください......」
「もう、しょうがないなぁ」
せめてもの抵抗を、とそう提案すると葉桜さんは少し不服そうにしながらも、腕から離れて手を繋いでくれる。
これ私今日もつかなぁ......?
その後は、何事もなく談笑しながら葉桜さんの帰路を一緒に歩いた。
「あ、ここが私の家だよ」
しばらく歩いて、葉桜さんが告げる。
「おぉ、ここが」
葉桜さんに指された方向を見やると、そこにはできたばかりに見える綺麗なマンションが建っていた。
「す、凄いですね。でも葉桜さん一人暮らしって言ってませんでしたっけ?」
いくらバイトを頑張っても、大学生である葉桜さんが1人で住むには、少々家賃が高そうに見える。
「あぁ、それはね、うちの親ちょーっと過保護気味っていうか。お金出すから防犯のしっかりしたところに住めーってうるさくて」
「なるほど、それで」
「うんそうなんだ。でもおかげで大学からも近いし、いい暮らしできてるよ」
なるほど、納得のいく理由だ。確かに葉桜さんの言動や行動の節々から育ちの良さが伝わってきて、大切に育てらてたのだなと、頷ける。
「立ち話もなんだし、早速お家入ろっか」
「は、はい!」
葉桜さんと手を繋いだままエントランスを抜け、エレベーターでお部屋がある5階まで登ってゆく。
お店のより狭いエレベーターで肩が密着する。まだ初夏だというのに真夏のように身体が熱くなってしまうわたしと、そんな私とは対照的に涼し気な葉桜さん。私が意識しすぎなのか、葉桜さんが気にしなさすぎなのか。後者だったらもう少し意識してもらいたいものだ。
そんなことを考えてたらあっとゆう間に5階へ着く。エレベーターを降りて左に曲がったら、直ぐに葉桜さんの自宅へ着いてしまった。
ガチャッ
葉桜さんが鍵を開けて、中に入っていくのに続くようにして家へ入る。
「お、おじゃましまーす」
「はーい、いらっしゃーい!」
おぉ!これが葉桜さんのお家!
家具や壁紙など、白を基調としたもので揃えられていて、統一感のある清潔な部屋だ。
間取りはそんなに広くは無いものの、一人暮らしには十分なスペースがある。
リビングと寝室が別れており、リビングが7畳。寝室が5畳くらいだろうか?
どちらも整理整頓されており、葉桜さんらしさを感じる。
「じゃあ、お茶とかお菓子準備するから先に寝室いっててくれるかな?」
「え、寝室ですか?」
「うん、テーブルあるから、前に座ってて」
「わ、分かりました」
リビングじゃないんだと、思いつつも言われた通りに寝室へ向かう。寝室にはふわふわな絨毯がひいてあり、その上に少し大きめなセミダブルのベッドと、折りたたみ式の小さなテーブルが置いてあった。
他にも本棚やオシャレな小物がセンス良く配置されている。
指示通りテーブルの前、正しくはベッドとテーブルの間に座って待つ。どうにも落ち着かなくて、部屋を隅々まで見渡してしまう。ここで葉桜さんが生活してるのか。何故か感慨深い。
ほんとに今日はジェットコースターみたいな日だった。悲しんで喜んで。でも結果的にはよかった。よね?
まだ私が葉桜さんと付き合えたというのが信じられない。タチの悪い夢なのではないかと、頬を抓ってもやっぱり痛くて、夢じゃないということにニヤケてしまう。
「お待たせ〜って、何にやにやしてるの?」
お盆にお菓子と飲み物を2人分乗せて、葉桜さんがやってくる。
にやけているのを見られたのが少し恥ずかしい。
「いや、ほんとに付き合えたんだなって、思ったら嬉しくなっちゃって」
スタスタとこちらに向かう葉桜さんに本心をぶつける。
テーブルにお盆を置いた葉桜さんが、私の隣へ来て肩に頭をコツンと預けてきた。
突然の出来事に身体がビクッと反応する。
「ど、どうしたんです?」
「いや、私もこんな日が来ると思ってなかったし、こんなふうに甘えることも出来ないと思ってたから」
目を瞑り、至って穏やかな表情で言葉通り甘えたようにスリスリと頭を動かした葉桜さん。
それによって柔らかな花のような香りが、私の鼻腔をくすぐる。
かわいい。かわいいがすぎる。
でも
「なんか、葉桜さん慣れてませんか?手を繋いでくれた時も思いましたけど」
私よりも当然、経験豊富であろう葉桜さんの、行動に可愛いと思うもムッときてしまった。
今までに何人の男がこれに落とされてきたのだろう。
「えぇ、?そんなことないよ」
ぱっと頭を上げてをちらをみる葉桜さん。驚いた表情から、いつもの優しい顔を向けられる。
「だって、私全然余裕ないのに、葉桜さんは余裕そうで、なんか悔しいです」
そういう私に葉桜さんは、ははっと笑た。
「そりゃ、もう大人だもん未成年に負けないよ」
そう言う葉桜さんは何処かからかっているように感じる。
「それに、絶対元カレとかいっぱい居そうだし」
「私は初めてだけど、葉桜さんは違うんでしょ?」
つい頬を膨らませて拗ねてしまう。
葉桜さんはそんな私を苦笑いしながらも優しく胸に抱き抱えるようにしてあやしてくれる。
「拗ねちゃったの?」
優しい声、甘やかすような、逆だった心を優しく撫でられるような。
そう言う葉桜さんに小さく頷く。
「そっか、でもいいことを教えてあげよっか。実はね、私も朔月ちゃんが初めての恋人なんだよ?」
「え?っん!?」
葉桜さんの方をむくと、首に手を回され画面いっぱいに葉桜さんが映る。何も考える間もなく、互いの唇が優しく重なった。
当然、何も出来ずに呆然としてしまう私。
静かに離れていった葉桜さんの顔が赤く染る。
「こんなことしたいって思ったのも朔月ちゃんが初めて。もちろん......えっちなことも」
妖艶な笑みを浮かべる葉桜さん。その言葉と同時に私の中でも何らかのネジが外れたことが分かった。
はぁ、とひとつため息をつく。
「ずるいですよ、葉桜さん。そんなこと言われたら色々したくなっちゃう」
そう言って葉桜さんの手を掴みベッドへ押し倒す。ギジリと、スプリングが軋む音が響く。
白いシーツに葉桜さんの綺麗な黒髪がひろがり映えていて、それにすら心がときめく。
「あは、意外と積極的だね」
あぁこの人はどこまでも余裕なんだ。
「あ、んんっ」
悔しくなって今度は私からその綺麗な唇にキスをする。重ねてからも、何度も啄むような優しめなキス。
ふと目を開けると、バチッと視線が合った。
「んっ、はぁ。なんで目、開けてるんです?普通閉じません?」
少し不機嫌にそう言う。必死になってるのを見られて恥ずかしく思ったから。
「いや、ごめんね?かわいいなあって思っちゃって」
なんの悪びれもなく言う葉桜さんを、どうにかしてその余裕をなくさせたい。ただ熱にうかされるだけの葉桜さんが見てみたい。
「いいですよ、そんな事言ってられるの今だけですから」
もう一度、葉桜さんにキスをする。今度は触れるだけじゃない、深いキスを。
「んんっ!あ、うんん、ぢゅるはぁ、っんむ」
「ぢゅ、ぢゅるる、はぁ。んっ」
歯列をなぞり、舌で無理やり口を開かせる。小さく「あっ」と葉桜さんの声がかすかに聞こえて、歯止めがますます効かなくなる。
中に侵入して直ぐに、葉桜さんの舌を探し出すようにして口内を丁寧に動き回った。
遂に鉢合わせた葉桜さんと私の舌、であったら好き勝手に舌を絡めとったり、軽く甘噛みしてみたり漫画などで見た事ありそうなことを実際にやってみる。
上手くできているのか、「んっ、んん!んぐ」と喘ぐ葉桜さんの声も水音もすべて、口内で反響する。
頭に昇った熱は去ることをしらず、理性という思考を確実に鈍らせてゆく。
葉桜さんのシーツに投げ出された手を、手探りで見つけたら、先程はあれほど恥ずかしかったはずなのに、自らきつく指を絡ませて繋ぐ。そんな私に答えてくれるように葉桜さんも手を握り返してくれた。
一生懸命にくちゅくちゅと、いやらしく水音を鳴らしながら葉桜さんを求める。でもそれは葉桜さんも一緒。
初めは控えめだった葉桜さんの舌が、今は自分から舌を絡めにきている。
はは、えっちでどうしようもない大人なんだ、葉桜さんは。
段々と荒くなる呼吸音。
背中に回った葉桜さんの手が私の服をギュッと強く握り締めた。
とても名残惜しいが、さすがに苦しいかと一旦キスを止める。
ぼんやりとする頭で葉桜さんの唇からゆっくりと離れた。2人の間を透明な細い架け橋が繋ぐ。それはプツリと呆気なく切れて葉桜さんの口元へと落ちてしまった。
だ液でテラテラと濡れた血色の良い唇。目尻に生理的な涙を溜め、赤く紅潮した頬。その姿に普段の清楚な葉桜さんの面影は一切ない。
その姿はただただ、何かを期待している女の姿だった。
そう、これが見たかった。この色付ききった瞳、切なさに歪めた表情、乱れきった呼吸。ほんとに、愛しくてたまらない。この人の全てが欲しくなる。
「えっち過ぎますよ。葉桜さん」
「い、やぁ。言わないでぇ」
「かわいい」
そう言って務めて優しく、荒くしてしまいそうなのをグッと抑えて、乱れた髪を撫でる。細くサラサラとした手触りが心地よい。
さっきまでの余裕はもうとっくに吹き飛んで、今の葉桜さんに余裕なんて微塵もない、期待と羞恥心だけが残っている。
そんな姿にやり返してやった。と満足感が湧き起こる。
年下でも、あなたを溶かしてしまうことくらいできるんですよ?なんて。
気分が良くて、抑えることも無くニヤける。
ほんと最高。
「っ...........ねぇ、朔月ちゃんの方こそなんか慣れてない?ほんとに初めて?」
すごく怪訝そうに、と言うか不機嫌そうに言う葉桜さん。
疑うような顔が可愛すぎて上がった口角が一生下がってこない。どうしよう。破壊力がえぐい。
「ふふ、どうでしょうね?本当はあるかも」
「えっ.....」
可愛くてついからかってしまったら、途端に顔色を変えて不安そうにこちらを見つめてくる。
「や、やだ。朔月ちゃんが他の人とチューしてるの......信じたくない......」
拙くなってしまった葉桜さんの言葉。
さっきの葉桜さんの言葉とのあまりの温度差にびっくりする。
この人はこんなにも独占欲が強かったのか。
しかもその独占欲が私に向けられていることが何より私の喜びを刺激する。
もうこの手から離してあげることなんて出来ない。
一生私のモノ。誰にも渡さない。
「ね、ねぇ?朔月ちゃん、聞いてる......?」
頬に両手を添えてきて、未だ不安そうに問いかけてくる葉桜さん。
なんの反応も示さない私に不安になってしまったのか。
「ねえ、ちゃんと見てよ...よそ見、いや......」
「っ、」
葉桜さんの本当の姿は誰にも見せたくない。
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