第2話 付き合うまで(2)

無意識に口から出てしまった言葉。葉桜さんの戸惑っとた表情。葉桜さんの言葉から間が空く。


「........」


「あっ」


まずい。やってしまった。


こんなことするはずじゃなかった。こんな告白みたいなこと。


私は慌てて葉桜さんの体から手を離し、一二歩と距離を取った。やばいなこれ。嫌われちゃった?


私の口は必死に言い訳しようと、動き出す。


「え、えっと違うんです。あ、なんて言うかその、」


焦りで言葉が上手く出ない、口が回らない。


嫌われた?軽蔑された?もう一緒にいられない?


嫌な思考が頭をぐるぐる駆け巡る。目の前にいる葉桜さんの目を見ることが出来ない。どんな表情をしているか、それを見ることがこわい。


葉桜さんの目がどんな色になったか、きっと私が欲しい色では決してない。あー、なんて余計なことをしてしまったのだろうか。


「す、すいません。わ、私品出ししてきますね!」


いたたまれなくなって咄嗟にその場を離れるための口実を作った。葉桜さんに背を向けて逃げるように、早足でその場を離れた。目尻に涙を貯めて泣きそうなのを我慢しながら。


「ま、まって!」


なのに葉桜さんは私を止めた。


その声に足がピタリと止まってしまう。

でも振り向くことは出来なくて、これから葉桜さんに何を言われるのか、私を恐怖が襲う。身体が震えて仕方ない。

逃げればいいのに何故か逃げることが出来なくて、その場に留まることしか出来なかった。


こつ、こつとゆっくりながらも私に葉桜さんが近づく気配がする。


たった数メートルの距離がとても長く感じて、今さっきの行動をとても後悔している。


何も言わなければ葉桜さんと今まで通りで居られたのに。


勝手に行動して、勝手に落ち込んで。バカみたい。


もうバイト辞めようかな。


なんて考えてしまう。でもきっと辞めても葉桜さんに会いたくてなって辞めたことさえ後悔するはずだ。

ほんとに中途半端で、情けなくなる。


こつ、こつ。


そんなことを考えているうちに葉桜さんはすぐそばまで来ていた。


あぁ、こわいな。

涙が今すぐにでも溢れだしちゃいそう。


とん、ギュ


「っえ?」


思ってもみなかった衝撃。何故か私は葉桜さんに抱きしめられた。


「え、な、なんっで?」


不安と、理解が追いつかないことで声が微かに裏返ってしまった。


「......朔月ちゃん。その好きってさ、人としてじゃなくて、そうゆう恋人にしたい方の好き?」


ゆっくりと話し出した葉桜さんの言葉に胸がギュッと締まる。


「え、あ、その」


なんて返せばいいのか分からない。


でも葉桜さんはじっと私の返事を待っている。


これはもう覚悟を決めなくては行けないのかもしれない。最後の勇気を、チリにも満たない勇気をそこらじゅうから掻き集めて、弱々しく口をひらく。


「っ.............は、い...」


言った。言ってしまった、もう誤魔化しは効かない。


「そっ、か」


静かに言った葉桜さん、お腹に回っていた葉桜さんの手に力が入った。


「ねぇ、朔月ちゃん。その言葉、信じてもいいの?」


「え?」


どうゆうこと?わたし、フラれるんじゃ


「ごめんね、本当は私、朔月ちゃんが好きだったんだ。初めて見た時からずっと」


葉桜さんの言葉に理解が追いつかない。あまりに衝撃的すぎて、言葉がなかなか出てこない。


「ずっと、何事にも一生懸命で、まじめで。そんな朔月ちゃんが好き」


「あっ...」


なんでだろう。涙が止まらない、嬉しいはずなのにしゃくりと涙が止まらない。


ぱっと葉桜さんが離れる。


「ねぇ、朔月ちゃんこっち向いて?」


優しい声。安心する。


目を拭って、後ろに振り返った。やっとまともに見れた葉桜さんの目にも、うっすらと涙が浮かんでいた。ほんとに同じ気持ちでいてくれてるんだ。信じられなかったことが葉桜さんの表情を見て実感に代わって行く。


「ははっ、そんなに泣かないで」


「うっ、ひっくだっ、てフラれるとっ、おもったからぁ」


しゃくりで上手く言葉を繋げられない。でもそんな私を正面から抱き寄せて、よしよしって優しく撫でてくれる。さっきとは違う、愛しさが籠った暖かい手で。


「でもまさか、両思いだったなんて。ずっと私の片思いだと思ってたから」


そう言って苦笑する葉桜さんが、とても綺麗で好きが溢れてくる。もう隠さなくていいんだ。


「そんなの、私だってそうです」


「こんな日が来るなんて、思っても見ませんでした...」


「うん、私も」


そう言って少しの間2人で抱き合っていた。


幸せだ。夢にまで見たことが現実となって、進行形で続いてる。


「ねぇ、今日さ私の家にこない?」


柔らかい体に抱かれ、悪魔的に囁やかれる。


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