第11話「殺意…」

※本話は、表現の都合上暴力的な表現が含まれます。拝読頂く際はご注意の程、よろしくお願い申し上げます…


作者:城二城一



ーーーーー!!!!


「なっ!!!!」


馬鹿な…タイミングは完璧なはずだった…!

大きく縦振りをしてきたラダゴス…

重心を乗せた一撃…

それ故に、私が放った盾のパリングによって体勢も逸れていたはず…!

加えて、こちらが放った剣の刺突…

勢いが乗っていたためにその剣筋は鋭く速い物…

それを、目の前の男は、咄嗟に片腕を斧から剥がして自分の顔面に持ってくる。

腕にはめている手甲によって軌道を無理やり逸らし、被っていたアイアンヘルムの側頭部で完全に受け流した…


「…やってくれるじゃねぇか」

「っ!!」


私はそのまま、二、三本後ろに下がり…ボロボロになった盾を目の前にかざして叫ぶ。


「どうしてそんな事が出来る!

お前に今の一撃は捌けないはず!

なぜそんな芸当ができた!」


肩に斧を担ぎ上げ、首をコキりと鳴らして笑みを浮かべる。


「あぁ、いい一撃だったぜ?

追い詰められてた中で、咄嗟の判断…

そこから繰り出される突き技…

肝が据わってねぇと出来ねぇ…

だがなぁ…

こちとら何人ぶちのめして来たと思ってる?

盾と剣持ってる時点でそう言う小技挟んでくるなんざ最初からわかってるに決まってんだろ?」


「っ!!!!」


「相手がわりぃんだよ相手が…」


全身が震える…


目の前の男に全く勝てる気がしない…

そんな私を見たラダゴスの笑みが、とんでもない化け物に見えた…


「あぁ…そういや思い出したぜ…」


先程と同じく、無精髭をなぞりながら奴が呟く…


「な…何をだ…?」


フフンと鼻を鳴らしてくる


「確かにお前と兄貴に似たガキいたぜ?」


っ!!!


「そ、そのふたりは…どこだ!」


髭を触っていた手が口元を抑え、込み上げてくる笑いを抑えるように顔を歪ませる…


「ふへ…ふへへへ…!!

さぁなぁ…どうだろうなぁ…可愛そうになぁぁ…」


「っ!!!き、貴様ァ…」


一気に駆け出し、剣を振りかぶるが、それを斧の柄で捌いてくる。


そのまま、乱雑な斬撃を次々に繰り出しながら反撃の隙を奪い続ける。


「妹と弟は今どこにいる!!

答えろラダゴス!!!」



「あぁぁハハハ!さぁなぁぁどうしちまったんだろうなぁァ?

分からねぇなぁァ?」


激情を覚えた、憎きその顔めがけ…

剣を振り下ろす…

が、その一撃すらも奴の斧が阻んだ…

そのまま鍔迫り合うように、剣と斧が交差。

力の限り剣を押す私に奴が口を開いた…


「一足遅かったな…

その2人なら今頃…南部の奴隷市場行きの馬車に揺られてるぜ?」



「っ!!

…今…なんて…?ぐっ!!」


またしても足蹴りを受け、数歩後ろに下がりその場で片膝を着いてしまう…


その様子を見下ろした奴が…


「なんだ?聞こえなかったのか…?

奴隷市場に行ったっつったんだぁぁ!!」


「っ!!!!!!」


アレアと…ファソスが…

奴隷にされた…


「そ…そんな………」


「はぁははははぁ…

気の毒だぜ、きっとどこんぞの変態野郎に買われちまうかもなぁ〜」


二人と…もう会えない…


私の…最愛の妹と弟…


その2人が…遠くへ行ってしまった…


目元から涙が伝う…


「おっとぉ?

へへ、ごめんなぁ…

お前の家族メチャメチャにしちまって…

だが…こうとも言うだろ?

奪われる方が悪いってよ…

へへ…へへへ…!

へーハハハハハハハハ!!!!」


私の…家族達…

父上…母上…アレア…ファソス…

私と兄者は…

かけがえのない家族を一度に失ってしまったんだ…



………



……



…それも…この男のせいで……



…許さない…



…許さない許さない…



許さない許さない許さない許さない…!



「グゥ…ゥゥゥゥ…!!!


…ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!


ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!!!!!!!」


……


…一瞬遠くから


…兄者の声が聞こえた気がする


「……いまの声……レオスが出したのか………?」


周りの者達も…


血の気が引いたように見える…


目の前の男も…耳を抑えて頭を左右に振る


「っ!なんつう声だ!?

鼓膜が…クソッ!!」


もうどうだっていい…


この男だ…


この男のせいで…


私達はこの男に家族を奪われた…


父と母が殺され…

その上妹達まで…


殺す…


殺す…!


殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!!!


コロス!!!!!!!!!!!!!!!!


ーーーーーーー!!!!!


ッガゴォォォン!!!!!


私の剣が…ラダゴスのへルムを捉えた…


「ぐぁ…なんだこの馬鹿力ッ!!!!!」


たったの一撃で、鋼鉄製のアイアンへルム

の打撃点が大きく変形する…

すかさず、思い切り力を込め…

奴の全身に剣を何発も叩きつける…

「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!」


「ぐぅ!クソ!!クソが!テメェ!!!」


奴の体から血が滲むのが見えた…


斧で斬撃をいくらか防がれる…


構うものか…


型など技など構えなど切れ味など


そんなもの気にしない…


私の目の前にいるコイツを殺せるならもうなんだっていい…


「調子こきやがってクソがァァァァ!!!!」


奴から反撃を受ける…

剣を持った腕を斧で思い切り殴打される…


斧が肉に食い込む…


「っ!!!!!」


「へへ…ざまぁ見やがれ…うぁ!?」


が…痛みなどどうということは無い…


奴の首根元に思い入り噛み付く…


歯を深々と食い込ませ…乱暴にそのまま食いちぎる…


「ぐぁぁぁ……!!!!」


身体を振り払われ、そのまま吹き飛ばされる…


肉がえぐれていた…

だが…血は吹き出ない…


噛み付いた場所が悪かった…


私の身体が鈍い音を立てて地面に打ち付けられる…


直ぐに這いつくばりながら…口の中にある気持ちの悪い塊を吐き捨てる…


立ち上がり、奴の顔面めがけ盾の先端を何発も叩きつけた…


1...2...3...4...5...6...


腹部に鈍い衝撃が走る…

奴の膝蹴りだ…


皮の鎧、その胴回りを粉々に破壊してくる…

「…ゥ…クハ…!」


口から血がドバドバと流れた…


ボロボロになった奴の顔が歪んだ笑みを浮かべている…


その顔か…

その顔が二人を喰い物にたのか…!!


汚らしい髭を鷲掴みにして、剣のポメル部分で殴り続けた…


衝撃が頭にも響くのか…

髭を鷲掴みにされてるのが苦痛なのか…


私が殴る度…奴は呻き声を上げている…


引き剥がされ、思い切り斧の腹で脳天を殴り付けられた…


一瞬意識が暗くなる…

自分の口を強く噛み締め…意識を保った。


頭と唇から血が流れる…


気にする余裕すら持たず、上下左右…四方八方から…斬撃を奴の体全体に浴びせた…


あぁ…今更ながら鈍い痛みが全身を駆け抜ける…


それと同時…私の全身を駆け抜けるもの…


それは殺意と…怒りだ…


「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!!!!!!」


力の限り、頭部を殴りつける…


そうして…奴のアイアンへルムが砕ける…


同時に私の剣も根元からボキリと折れた…


奴の手から斧が吹き飛んだ…その場に倒れ込み…私の方に手を伸ばした。


「まてぇ!降参だ!俺の負けだ!降参する!!!助けろ!!」


残った刀身を握りしめ…崩れ落ちた奴の身体をこの足で踏みしめる…


怒りを…憎しみを…殺意を憎悪を嫌悪を邪悪を…!!!


コイツを殺せる全ての悪感情を…刃に込めて…


この男を…!


奴を踏みしめる足に力を込め、強引にその身体を地面にねじ伏せる…


それに対し、口から血反吐を吐いたラダゴスが叫ぶ…



「俺を殺したら後悔するぞぉぉ!!!

家族取り戻したいんだろぉ!!!」


「黙れぇぇぇぇ!!」



「っ!」


無様な…散々人の尊厳を踏みにじっておきながら…自分は未だ生にしがみつこうとしている…

こんな男を生かしてはいけない…


「ふぅ…ふぅ…もう遅い…!

私と…兄者から家族を奪ったお前が生きてる事すらもう許せない!!!!

今…ここで…お前を殺す!!!!」


「やめ…!やめてくれ…!やめろぉぉぉ!!」


「しぃぃぃ!死ねぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」


ボロボロの刃を振りかぶり一気に振り下ろす…

直後、この身体が誰かに押さえつけられる…


「待てレオス!もういい!その男を殺すな!」



 兄者の声…!?


私は力の限り、押さえつけてきた兄者を引き剥がそうと暴れる…


「何故ぇ…!

何故コイツを庇うのです!!

コイツがァ!!コイツがアレアとファソスをー!」



「そうだ奴隷市場に送った!!

この男の指示だ!!!

だがそれは二人がまだ生きているということだァァ!!!」



「っ!!!!

……い…生き…てる…?」



「そうだ!!!!

そして南部の奴隷市場までは遠い!!

馬を走らせてもひと月は掛かる!!!

つまり!

今急げば二人を助ける事が出来るそういう事だぁぁ!!!」



「っ!!!……2人に…会える…?」



「そうだぁぁ!!!

だがもしこの男を殺したらその時こそ2人に会えなくなる!!

頼む!!

殺すなレオス!!!

その時こそ!

俺たちはまた家族を失うことになるんだァ!!!」



2人に…また会える…

その事実…その可能性が…まだある…!


私の全身を支配していた全てが一気に消え失せる。


それと同時に…恐ろしいまでの疲労と…激痛がこの体に覆いかぶさった


「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」


力無く崩れそうになるからだを何とか立て直し、足元で怯える男から足を退ける…


そして、息も絶え絶えに告げた…


「お前の部下に言え……

家族を返せと…」


先程の攻撃を受け、全身血まみれのラダゴスが何度も首を縦に振る…


「わかった…!伝える…!絶対伝える…!!」


直後胸ぐらを掴み、目を見開いて奴に言い放つ


「必ずだ!!

いいか…もし二人の身に少しでも危険が及ぶことになれば覚悟しろ…

どこまで逃げようと…

どこへ隠れようと…

草の根かき分けて扉を蹴破って引きづり出す…!!

その時こそ…お前のその汚らしい顔に…その体に…

何十何百と刃を突き立てて殺す!!

いっそ生まれてきたことを後悔するほど…

苦しませてから殺す!!!

いいか!!!!!」



もはやラダゴスから先程まで私を追い詰めていた気迫が消えうせ…

生まれたばかりの子鹿のように身を震わせながら何度も頷くばかりだ…

胸ぐらを掴んだ手を離し、部隊のいる方へ歩いて向かう。



後ろで兄者がラダゴスを立たせる。


「うっ…お前、重たいぞ!しっかり自分の足でも立て…

誰か来てくれ!

俺一人ではどうしようもない!」



その声を聞いた新兵たちが慌てて2人の方へ駆け寄り、ラダゴスをみんなで起こしあげていた。


すれ違う新兵たちの私を見るその目は、信じられないものを見るように驚愕の表情を浮かべていた。


 ふと、周りをゆっくり見渡す…

盗賊共の方で何人かが腰を抜かしているのが見え、ついでに数が少なくなってる様に見える…


近くにいたアネットに尋ねる。


「…盗賊の数が減ってる様ですが?」


身体をビクリと反応させ、慌てて口を開く


「あ、アンタの気迫にビビって…

何人か逃げ出したよ…

残ってるやつは多分、腰抜かして動けなくなってる…」


「…そうですか」


まぁ…どうでもいい…

首魁のあの男がいるなら私達の家族は助かるのだから…


その事実だけがわかっている…


だからいい…


兄者を含む他のもの達がラダゴスを連れてくるので私は先に引き上げることにした。


そんな私の肩にイザベラが手を置く…

そちらを見ると…手ぬぐいを一枚こちらに差し出している。


「せめて…血ぐらい、拭きな…」


「……」

呆然と見つめた手ぬぐいを受け取り…

顔に垂れてくる血を拭う…


「…洗ったら返します…」

「い…いいよ…アンタにあげる…」

「…どうも…」


戸惑った顔のイザベラが辛うじて声をかけてくる


「…アンタ…本当にあの甘ちゃんかい…?」

「………それ以外の何に見えるんですか…?」

「あ…あぁ…そうさね…悪かったよ…」


首を縦に振り、麓まで続く道に足先を向ける。

その時ふと思い浮かんだ…

連中が略奪した物や捉えた人質が残ってるかもしれない…

そこでソードシスターたちを見る。


「そういえば…

盗賊たちが抱え込んでる人や物がありましたね…

人質は解放して…

物品は持ち帰るのお願いしていいですか?

馬の件もあります…

金目の物があったら、いくらか懐に入れてくれていいので…」


「あ、アタシ人質みてくるよ…

イザベラ、金目のもの頼んでいいかい…?」

「あ、あぁそうだね…アタシも行ってくる…」


その様子を見送り…

私は一足先にオルニアの岩山を降り始める。

その時、利き手の腕に妙な感触を感じ…

その腕を見た…


「盾…壊れたか…」


私の身体を守った盾…

それがパラパラと音を立てて砕け散る…


 腕に残るは、この短時間で極限まですり減った皮の留め具のみ…


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